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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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魔境の復讐 13

 太陽が沈み始め、空を真っ赤に染める時間。 

 黄昏を迎え、夕映え、茜、を経て、今現在は夕焼け時だ。

 もう暫くすれば薄明を迎えるだろう。


 夕焼けから薄明を迎えるまでのこの時間。僕はこの時間が一日で一番好きだ。

 この時間が好きになった理由。あれは、入学して間もない頃だったかな。

 僕は、クラスの不良から苛められていた。いや、あれは虐めと言った方が良いかも知れない。


 子供の頃からふくよかな僕は、この体系で良くからかわれたものだ。

 性格も温厚で、どちらかと言えば、人に殴られるよりも、人を殴るほうが怖い。

 加えて、蓄えられた脂肪は、多少の衝撃なら、容易く吸収する。

 分かりやすく言えば、そこらの不良の拳は、僕には効かない。


 そういった理由から、僕は全ての暴力を受け入れ、この3年間を乗り切る筈たった。

 あの、夕焼けが校舎を包み込んだ、あの日迄は。


 あの日は、何時もの様に5人の不良に絡まれていた。


 「おい! 岳、テメェ。邪魔なんだよ! テメェがいると、空気が豚臭くなるだろうが!」

 「ぼ、僕は、豚では無いし。に、匂いだって、どちらかと言えば、き、気を使ってるよ?」

 「あ~? 何か言ったか? ブヒ! ブヒ! て、聞こえたけど? なぁ!」


 今となっては、名前も思い出せない彼は、僕に躊躇無く蹴りを入れると、仲間と大笑いをした。

 もの凄い音がし、僕は派手に倒れて、痛いがるように転げまわった。

 こうしていれば、彼らは飽きて帰るのだ。身体なんて痛くない。そう、身体はね。


 「も、もう。勘弁してくれないかな? ぼ、僕は、早く帰ってアニメが見たいんだ」


 僕は、卑屈な笑顔を作り、彼らに懇願する。すると、彼らは大笑いをし、僕の顔を上靴で踏みつる。そして、言うだろう。 「舐めろ」 と。

 これが、僕が家に帰るための儀式だった。しかし、結論から言えば、その日以降、僕がその儀式を行う事は無かった。


 何故なら、彼がその行為に耽っている間に、彼の子分は、隣のクラスのオタク4人に制圧されていたからだった。


 そのオタクの頭目と見られる少年は、一切手を出さなかった。そう、このオタク達は、強かった。

 誰もが、口や鼻から血を流し、その勝利が辛勝だった事は、容易に予想がついた。

 しかし、それでも、彼らは勝った。その顔は、実に誇らしく、そして、僕を熱くさせた。


 「な、なんだ? お前は、新島? 新島明か? 俺に手を出してみろ。1組と2組は、明日から戦争だぞ」


 冷や汗を流しながらも、彼を威嚇する不良に、その少年、新島明は冷たい視線で答える。


 「何、多勢に無勢だったんでな。取り巻きを排除しただけだ」

 「何? その言い方じゃ、俺と、この豚がタイマンするみたいに聞こえるが?」

 「そう言ってるんだが? お前とそいつじゃ、格が違いすぎて話しにならんと思うがね」


 不良は、唾を吐き捨てると、僕の顔から足を退ける。

 その後は、新島氏が言ったとおりになった。不良と僕の喧嘩は、喧嘩と言える物にはなら無かった。

 その時、僕の脳みそは、沸騰したように滾り、怒りや恐怖、そういった類のものは消え去っていた。

 僕は只、身体に滾る熱いものを、拳に乗せて不良に放つ、其れだけだった。

 僕の拳を喰らった不良は、教室のドアごと教室に転がり込み、翌日から、彼が学校に来ることは無かった。


 それを見た、新島氏は、満足そうに顔を緩めると、真っ赤に染まった空を背に、僕にこういった。


 「新島明だ、俺と、友達にならないか?」


 僕は、その手をとり、彼と友達になった。これが、僕の人生の転機に纏わる話だ。

 夕焼けが綺麗に見える科学室で、コーヒーを啜りながら、薄明が訪れるの見守る。

 僕は、この瞬間が一番好きだ。


 日が沈み、彼らの時間が訪れる。逢魔時、人ならざる者が活発になる時間だ。

 そして、その時間に友は訪れた。息を上げ、汗を流しながら。


 「岳! すまん。助けてくれ」

 

 必至の形相の友人に、僕は穏やかに答える。


 「何があったか知らないけど。僕に、解けない謎は無い」

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