魔境の復讐 11
彩夏は笑う。鏡の世界で、実に楽しそうに笑う。
しかし、その彩夏は、彩夏であって彩夏では無い者であった。
鏡の国のブラック有栖。いや、真実の名前は別にあった。
不定にして不形の怪人、ハンプティ・ダンプティ、人は、彼の事をそう呼んでいた。
しかし、彼こそは、不定にして不形の怪人。ハンプティ・ダンプティである前に、何者でもあるのだ。
誰かが、あれは牛だと言えば、彼は牛の形をとる。誰かが、あれは鳥だと言えば、彼は鳥の姿をとるのだ。
現在彼は、噂の怪少女、ブラック有栖の姿をとっている。
その彼が、何故? 彩夏の姿をとるのかと言えば、それは、一重に彼の趣味でしかない。
元来彼は、陰鬱な感情を好む、その様に作られたのだ。
陰鬱な感情を取り込み、その願いで力を増す識鬼。いや、その強大な力で人の世の理を捻じ曲げる程の力を持った彼は、神に近い存在であった。
陰鬱な感情が寄り集まった強大な化け物。復讐者の守護者にして、その代行者、鏡に潜む悪神。
彼こそは、識鬼神、ハンプティ・ダンプティなのだ。
彼は、彼女は、捕らえた人間を弄ぶ。時には苦痛を与え、時には恥辱を与える。
復讐の代行者によって行われるそれらの行為は、囚われの人間に陰鬱な感情を生み出させる。
数多の囚人の感情を飲み込み、かの化け物は、更なる力を得る。
そして、妖艶で美しい少女の姿をした化け物は、その美しい顔を恐ろしい顔に変えて言う。
「もう少し、もう少しで開放される」
鏡の中でのみ生きる怪人は、今まさに、その脅威を剥き出そうとしていた。




