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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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魔境の復讐 9

 「ブラック有栖。ねぇ」


 明はコーヒーを啜りながら気の抜けた声を出す。


 「なんか、漫画みたいなネーミングだな」


 「いや、そうかも知れないけど。マジでやばいんだって」


 「ヤバイのは分かってんだよ。そもそも、鏡に纏わる類のものは、ろくな奴がいねぇ」


 明は呆れたような口調で続きを話す。


 「水と鏡は現世と隔離世を繋ぐ入り口だと昔から伝えられてるのは知っているか?」


 「あ、それ。鮫島の叔父さんがいってた奴だ!」


 途中で茶々を入れる玲子に明は不機嫌な顔を向けるが、後を続ける。


 「つまりは、人間に一番関わりを持ちやすい道具って事さ。禍物の強弱は集められた念と、培った恐れで決まる」


 明は温くなり始めたコーヒーを飲み干し、正座した体勢から立ち直り、本来自分の玉座である椅子を玲子から取り返す。


 「禍物? それって、な~に。あ~し、聞いたこと無いし」


 「そこからかよ、俗にいう媒体って奴だな。よくTVとかでお払いをする時、霊に纏わるなんチャラをとかやってるだろ?」


 「あぁ~、そういわれれば。見たことあるかも」


 「妖怪だとか、幽霊だとか、悪魔だとか、怪物だとか。言い方は一杯あるが、俺に言わせれば。根源は一緒って事だな」


 「正確にいうと~。鮫島叔父さんに言わせれば。残念! 受け売りでした~」


 「いいから、玲子は黙ってろよ。話が進まないでしょ」


 「てっへ~、ごっめん~♪」


 玲子はあざといポーズを取りながら、謡うように謝る。

 まぁ、相も変わらず音痴なのだが、今はそれはどうでもいい。


 「しかし、お前は何を目指したキャラ付けを始めたんだ」


 「科学部のアイドル的な~、貴方のアイドル的な~♪」


 「いや、やめて。マジで面倒くさいから」


 明は苦笑いする小百合に視線で謝ると話を続ける。


 「つまるところ、人間の思念ってのは神にもなるし、悪魔にもなる。人を救えば、人も殺すって事だな」


 「ああ、漠然とだけど。分かった気がする~」


 「で、鏡ってのは人間が生きていく中で必ず使う物、水も同じだな。この二つの共通点は表面に姿を映し出す事だ」


 明は一度立ち上がると、玲子の鞄から鏡を取り出し、3人が座る机の上に置く。


 「ちょっと! 勝手に人の鞄開けないでよね」


 明はやかましいと手で合図をして玲子を黙らせる。


 「コイツを覗いてみて見てくれ。何が見える?」


 小百合と玲子は鏡を覗き込み、暫く見た後に同時に答える。


 「「自分?」」


 「そう、鏡に映るのはもう一人の自分だ。人は時として鏡の自分に理想の自分を投影する。やがて、その思念が形を持ち、意志を持ち、鏡の中で生まれ、やがて這い出る。これが、俗にいうドッペルゲンガーだ」


 明は二人の少女が息を呑む姿を満足気に眺めると、更に話を続ける。


 「まぁ、だが。そんなモノは存外可愛いモノさ。本体の生気を奪って死に至らしめる、場合がある程度のものだ。が、投影するものが自分では無く、目に見えない何かや、存在しない物だったらどうなる? しかも、それが不特定多数によるモノであったとしたら?」


 「何が出てくるか分かったもんじゃないわね」


 玲子が困った表情で唸る。


 「そうだ、今回に関しては明らかに強力な存在。そして、明らかに悪意を持った存在だ。そんなモノをまともに相手にするなんて狂気の沙汰としか言えんな。ハッキリ言えば、関わりたくない」


 「え? じゃぁ、助けてくれないの?」


 散々脅された挙句に関わりたくないと発言され小百合は泣きそうになる。


 「そうじゃない、俺が聞きたいのは。幾ら、払えるかって事だ」


 泣きそうな少女に対し、明は軽薄な態度で不敵な笑みを見せた。

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