魔境の復讐 2
入学から数えて数ヶ月、慌しくも日々は過ぎ去る。
モノは考えようなのかも知れないが、まだ数ヶ月である。
しかしながら、その数ヶ月は高校1年生と言う年頃の少女達の人間関係を確立させるには十分すぎる時間ではあった。
一人の美少女を中心にしてクラスの約半数が集まる空間。
少数ながらも何かの話に大いに盛り上がる地味系男子。
他をよせつない圧倒的なまでのプレッシャーを纏った不良集団。
多種多様なグループが大なり小なりに、良し成悪し成りに人間関係を作り出していた。
そんな教室の中で彩夏は一人だった。
何故一人なのだろうか、思えば最初は些細な事だったのかも知れない。
クラスの人気者である少女、丸之内綾子のお誘いを断ったのが始まりだった気がする。
最初は良く話す友人もいたが気が付けば周りは誰もいなくなっていた。
いなくなった奴らは漏れなく綾子のグループへと旅立っていったのだった。
最初は只の孤独だった、彩香は孤独は嫌いではない。
故にそれは苦痛でも無ければ気にする事でもない、どうぜ放課後になれば部活で部員達と過ごすのだから。
気になる点があるとすればクラスにも同じ部の部員がいる事くらいだろ。
彼は地味系グループのリーダーでクラスではかなり上位の発言権をもつ人物だった。
そんな彼でも彩香の状況をどこうしようとはしない。
基本的に彼は部活とクラスでは交友関係を区別するタイプだからだ。
このクラスにおいて虐めはない、厳密に言えば無くなったのだ。
入学当初に男子による暴力的な虐めがあった。
その時に不良を牽制し地味系男子。即ち元苛められっこを救済したのが彩香の所属する科学部部長の新島明だった。
新島は兎に角喧嘩が強かった、強かったと言うよりはタフだった。
事件に当日、彼は数人の仲間を守る為にボロボロになりながらも10人の不良達に立ち向かったのだ。
最後はその姿に勇気を貰ったオタク軍団の反撃により不良グループは多数の退学者を出し今ではヒッソリと学校生活を送っている。
そんな平和な学校で、彩香は陰湿な虐めを受けていた。
同じ部の部長である新島は状況を知れば必ず助けてくれるだろう。
だが、男子と女子では住む世界が違うのが高校と言うものなのだ。
女子の虐めは実に繊細である、故に男子に気付かれる事はない。
クラスメイトの男子から見れば只のボッチにしか見えないし、わざわざボッチを相手にする酔狂な男子はそうはいない。
恋愛感情でもあれば話は別だろうが大半の男子の狙いは綾子だった。
育ちが良くて美人で人気者、そんなものはもてないほうがおかしな話なのだから。
この年頃の男子はその殆どが御馬鹿なのだ、冷静に考えれば綾子にワンチャン狙って群がっているよりは他の女子にいった方が確立が高くても理解できない夢見る少年達なのだ。
そして、綾子は自分の状況をしっかりと理解していた。
故に彼女は完璧なのだ、相手に嫌がらせをするのも絶対に自分では手を出さない。
そういう空気を作るだけでいいのだ。
具体的にどのような虐めを受けているかと言えば、バイト先に手下を送ってくるのだ。
それはもう毎日のようにバイト先のカフェに不良を送り込み因縁を付けて来る。
今のところは店長が不憫に思い庇ってくれているので何とかなっているが、このままいけば首になるのは時間の問題だろう、何せもう3回解雇されているのだから。
彩香の家はハッキリいって貧乏だ、学費は全て自分で工面しなければ高校に通う事は出来ないのだ。
故に綾子は彩香を退学に追い込もうとこうした行為を続けているのだ。
キーン コーン カーン コーン キーン コーン カーン コーン
彩香がそんなもの思いに耽っているうちも時間は流れる。
終業を告げるチャイムが鳴り全員が一斉に動き出す。
教室の端の方に綾香と新島が見える。
「新島さん、皆さんでカラオケいくのですが貴方もどうですか?」
「丸之内、悪いがカラオケは苦手なんだ他を当たってくれ」
新島は綾子をあっさりスルーすると彩夏に近づいてくる。
「彩夏、今日は部活これんのか?」
「ごめん、またバイトが・・・・・・」
「じゃあ、しょうがないな。たまには顔出すだけでもいいから来いよ」
新島は軽く笑顔を作ると振り返らずに手を振りながら歩いて行く。
そんな新島を見送りながら彩香は後ろに視線を感じた。
彩香には見なくとも分かるのだ綾子が誰にも気付かれないように此方を睨んでいるのが。
「ああ、きっと。またくるんだろうな・・・・・・ウラミマスゾ明君」
言葉の内容とは裏腹に彩香は微笑むとバイトにいく為に立ち上がった。




