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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 エピローグ

 夏の日差しが和らぎ、少しばかり気だるい日だった。

 あれから、何日くらい経っただろうか? 鮫島は予想外の展開に、またもや、ピンチを迎えていた。


 あの後、いろいろあったのだ。そう、いろいろと。


 かさんだ経費で前金は吹き飛び、残りの支払いは経費の決済上、振込みとなった。

 そう、振込みなのだ。


 現在、鮫島探偵事務所は源流堂探偵事務所となっている。

 つまりは、振込みの場合、その金銭の管理・所有は全て渡部にいくのであった。


 「なんだろうね、もしかて俺のコレクションの中に、貧乏神がついてるものでもあるんじゃないか?」


 勿論、そんな物がない事は誰よりも鮫島が一番よく知っているのではあるが、愚痴の一つもいわねばやってられなかった。


 「そんな事よりも鮫島さん。解決の経緯を早く教えて下さいよ」


 鮫島の気など知らずに晴香は事の顛末を話すように要求してくる。

 そもそも、前金が吹き飛んだのは彼女のせいなのだが、今回ばかりは文句は言えない。


 「そうだな、どこから話すべきか」

 

 鮫島は暫く思案した後に話し始める。


 「結論からいってしまえば、今回の件は、偶然でしかなっかたんだ」


 「偶然ですか?」


 「そうだ、そもそも。一人の人間の感情では、あれほど強力な怪異は生まれない。人間は人間であって、それ以上でもそれ以下でもないんだ。生霊にできる事なんてのは、精々は悪戯程度だ。そもそも、7年間も消えないのはおかしな話なんだ」


 「じゃぁ、あれはなんだったんですか?」


 「あれは、言霊だったんだよ」


 「言霊?」


 「晴香は言霊信仰をしっているか?」


 「名前くらいは知ってますけど、詳しくは知らないです」


 「一般的なものでいうと、祝詞も言霊にあたるな。実は、祝詞もそれ自体が重要ではなく祝詞を唱える時の気持ちが大事なんだ。すなわち、気持ちさえこもっていれば、形式は関係ないのだよ」


 「へぇ、そんなものなんですか? じゃぁ、気持ちさえこもっていたら、誰でも霊能者になれるんですか?」


 「いや、それはないな。霊的なモノを感じる感受性と、触媒が重要になるな」


 鮫島は一度話をきると、温くなったコーヒーを一気に煽る。


 「今回は、まさに奇跡的だった。まず第一に、なんでそんな物が露店にあったのか信じられない話だが、本物の黒水晶を彼女達は手に入れていたんだ。最高の触媒に二人の気持ちが合致して、即席の縁結びの神を作り出したわけだ」


 「ほおぉ。私も一度でいいから、奇跡を起すほどに人に愛されてみたいですね」


 「そう。本来は、一人の男性が想い人を幸せにしたいと願った結果だったんだ。上手くなかったのは、神様ってのは気まぐれで、必ずしも善性ではないって事だ。そもそも、命がけの恋なんざ、褒められたもんじゃないがね」


 「なんというか、もっと、言い方あるでしょ? あれ?」


 晴香は鮫島を冷めた目で見た後に何かに気付く。


 「えっと、鮫島さん」


 「なんだ?」


 「ふと思ったんですが、あれは大野さんと沙希さんを結ばせる為の存在だったんですよね?」


 「そうだ。ついに、気付いてしまったんだな」


 「え? じゃぁ、もしかして、今回、私達が調査に入らなかったら」


 「ああ、何事も無くあれは浄化され。ハッピーエンドだったわけだ」


 「ええええええ! 晴れ着に纏わる数奇な物語が書けると思ったのに。こんなの本にしたら、関係者から大クレームですよ。締め切り間に合わないですよぉ!」


 晴香は救いのない現実に打ち倒され、泣き崩れる。


 鮫島はそんな晴香をよそ目に、大野と沙希からの手紙を読む。



 拝啓、鮫島様。


 先日は、大変お世話になりました。お陰様で、その後は変わりなく、結婚の準備も順調に進んでおります。

 今回の件もありましたので、家宝の小袖は処分する話も出ましたが、沙希の希望により、今回の結婚式で使用する事になりました。

 それでは、私の美しい花嫁の写真をお送りします。


 同封された写真には、豪華な着物で美しく着飾った沙希が笑顔で写っていた。


 「ははは、余計なもんまで写ってるじゃないか」


 沙希の後ろには、喜びのような、悲しみのような、憂鬱な笑みで祝福する少年がうっすらと写っていた。


 「晴れ着の美女に、憂鬱な守護者、か」


 鮫島は優しい笑みを浮かべると、写真を晴香に投げながらいう。


 「都合の悪いところは、包んで隠せば、いいんじゃないの?」


 晴香は写真をキャッチすると、鮫島に、今日一番の笑顔を見せる。


 「タイトルは、晴れ着の憂鬱。ですね」

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