晴着の憂鬱 22
冷気がたちこめる結界の中、その発生源を確認した大野と鮫島は息を飲む。
其処に立っていたのは、豪華な着物を纏った少女であった。
美しさと恐ろしさを兼ね備えたそれは、大野を目で天蓋に誘う。
「大野さん、気をしっかり持てよ。相手に飲みこれたら、帰って来れない」
鮫島と大野は意を決して天蓋に向かい、歩き出す。
「大野さん、これを首からさげておくんだ」
鮫島はポケットから緑色の勾玉を取り出すと、大野にそれを渡す。
「最終的には、彼女との対話でお帰り頂くしかない。それは、あんたを守ってくれるはずだ」
「これが、ですか?」
「その昔から、人間と密接に関わりをもつ神がいた。その名は禍津日神まがつひのかみ。善悪一対の神といわれ、人間はその欠片と考えられていた頃に始まったのが九十九信仰だ」
鮫島はポケットから何かを取り出しながら尚も続きを話す。
「人間の慈しみの感情が長い年月をかけて器物に篭り、精を得た物を九十九神を呼ぶ。神のかけらが器物にその欠片を集めて本物の神を作り出すと考えた訳だ」
「その話だと、これが九十九神だという事ですか?」
「だと、いいんだがな。それは俺が作ったまがいものだよ」
「こんな時にふざけてるんですか? まったく、話が読めないんですけど」
大野は大げさに頭をかかえる。
「では、悪い心が篭ったらどうなるか。答えは簡単だ。これもまた、神となる。これが悪の一面である禍津神まがつかみだ。我々は、これを付喪神といって区分しているが、何かピンとこないかな?」
「何かって? なんですかね?」
鮫島は頭を抱えると、つまらなそうにいう。
「俺があげた勾玉は偽者だって、言ったろ。あんたの家の家宝に取り付いてる少女では、年代が違い過ぎるっていってるんだよ」
「じゃぁ、着物と生霊は無関係なんですか?」
「無関係ではないよ。特殊なパターンだけど、媒体が二つある事になるな。偉そうに言ってはいるが、実はちょっと前に思い出したんだけどね」
何故か少し恥じらいを秘めた表情でいう鮫島に、苛立ちを覚えつつも大野は自分のやるべき事を把握した。
「つまり、貴方がそれを見つけ出すまで彼女の誘惑に耐え続ければいいわけですね?」
「ご名答。男としてこれほどつらい試練はないだろうが、頑張ってくれたまえ」
「それじゃぁ、いきますか」
二人は最後の言葉を交わすと、互いに違った目的に向かって歩き出す。




