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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 21

 椿真紀は憂鬱だった、その原因は明らかであったが、解決にはまだ時間が掛かりそうだ。

 真紀はぼんやりと、その原因を遠目から眺める、その先には親友と彼氏の姿があった。


 「この度はご婚約おめでとうございます。此方は私達からのささやかな贈り物です」


 西岡は懐から鹿革で包んだナイフを向かいに座る沙希の前に置く。

 沙希は目の前に置かれた包みを広げて小さく驚きの声をあげた。


 「綺麗、始めて見ました。こんな高価そうな物頂いてよろしのですか?」


 「はい、私から貴方の夫になる方へのプレゼントですよ。披露宴の道具に使って頂ければ幸いです」


 真紀は沙希の手にした豪華なナイフを見た後に、自分の左手の薬指に嵌められた指輪を見る。

 

 「大丈夫、こっちの方が全然素敵なんだから」


 真紀は二人に聞こえないように小さく呟くと、目の前のグラスを手に取り、良く冷えた紅茶を飲む。

 彼女が今手にしているグラスは西岡が作ったものらしい。


 手に取ると分かるが、石細工の食器には独特の手触りがある。このグラスはヒスイをくりぬいて作られたものらしいのだが、透き通る翠がその手触りと合わさり、爽やかな清涼感を演出していた。


 「実は私は鉱石専門のデザイナーをやっておりまして、其方は自作の作品なんですよ」


 相手に気を使わせいためのトークを柔らかい笑顔でいう彼氏を見ながら不安がよぎる。

 一体、あの笑顔で何人の女性が心を奪われた事だろう。

 きっと、その気になれば、自分を選ばなくても相手は幾らでも選択する事が出来ただろう。


 「ええ~、そうなんですか? 手作りで一つしか作らないんですか? なお更、貴重じゃないですか!」


 「いいんですよ。使用されない道具ほど、意味の無い物はないですからね」


 他人行儀な会話をする二人を眺めながら、真紀は自分の浅間しさを嫌に思うが、それさえも自分の為ならば仕方がないと思っていた。


 二人の会話は学生時代からの旧友がする様な内容では無かった。

 それはそうだろう、そうだと伏せて会話しているのだから。


 二人の容姿と性格はこの7年間で見違えるように変わった。

 そうと伝えなければ気付かない可能性は十分にあった。紗希のほうならば。


 「それにしても真紀、何時婚約なんかしたの? びっくりしたよ」


 「あはは、そうよね。彼の才能に一目惚れしてね、一緒にやっていこうと思ったのよ。このグラスも彼の作品なの」


 ほおぉ、と、関心深く、グラスを眺めた紗希は感慨深く話し出す。


 「でも、これでお互い安心ね。真紀は西岡君を忘れられずに、生涯独身じゃないかと心配してたのよね」


 「いや、あんただけにはいわれたくなわよ......」


 二人の会話に西岡は我慢出来なくなって大声で笑い出した。


 「あはははは、本当に分からないんだな。時間は残酷だねぇ」


 紗希は突然笑い出した西岡を驚愕の表情で見つめる。


 「本当に、時間は残酷だ。好きだった長い黒髪は、お洒落な色に変わっちまったし。控えめなバストが魅力だったのに、なんだよそれは」


 沙希は混乱した頭をどうにかしようとするが、失敗したらしく、あたふたと目が泳いでいる。


 「そのナイフはお前たちが結ばれるのに必要な物だ。俺の推測があっていれば、大野は今、危険な状態だろう」


 「え? 貴方、西岡君?」


 「沙希、お前は忘れてしまったのか? 卒業まじかに俺が言った事を」


 紗希の脳裏に学生時代の記憶が蘇る。

 自分は何故こんな大事な事を忘れていたのだろうか。


 沙希の様子を見て、何かの核心をもった西岡は、クールに決めながらいう。


 「行け! お前がやるべき事を思い出したならな」


 紗希はテーブルのナイフを掴むと、勢い良く走り出していった。

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