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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 19

 ここは神聖なる霊山の中腹にある神社。夜の帳に覆われて、辺りは不気味な静寂が支配していた。


 そんな中に怪しげな人影が二つ、蝋燭の光に照らし出されていた。


 神社の外れの広場には、過去に万博に出展されたオブジェが飾られている事は地元では有名な話ではあったが、今日に限りその隣には新たなオブジェが登場する事になった。


 野外にはとても似つかわしくない純白の豪華な天蓋。その中には、煌びやかな小袖がまるで眠る様に横たわっていた。


 その周りを囲むように配置された5本の蝋燭とそれらを繋いで作った結界は、美しさと不気味さが混ざり合い、狂気の宴のような祭壇が完成していた。


 その異様なオブジェを前にした今回の依頼人は、盛大に叫んだ。


 「ちょ! なにこれ? 可笑しくないですか」


 「ん? 何も可笑しな所ないだろ。霊験あらたかな祭儀品をふんだんに使った、最高の結界だぞ」


 「もう! 貴方はどんな美的センスしてるんですか? 贔屓目に見たって、禍々しくて、恐怖しかわかないよ」


 大野は信じられないと喚き散らすが、そんな彼に対して鮫島は驚くべきことを言い出した。


 「え? 駄目なの? そこは我慢してくれよ。あそこで一晩過ごすだけなんだしさ」


 「一晩過ごす? なんのことですか? これから、あの着物についた念を取り払うんですよね?」


 「そうだよ。大野さんが想いを遂げさせてやれば、きっと、あれは消えるだろうさ」


 「はい? あんた、最低だな。結婚前の人間にそういう事させんのか?」


 「乙女の貞操でもあるまいし、男が一度や二度過ちを犯すくらい、如何という事ないでしょうが」


 「いや、そういう問題じゃないんですよ。過ちとかじゃなくて、そもそも触れないでしょ」


 「触れるよ、相手がその気になれば人間と何もかわらない。なんなら、最後までOKだぜ」


 鮫島は笑顔で親指を立てると、もの凄くよい顔をした。


 「い~やいやいやいや、尚更だめですぅ~。それに、どうせ危険なんでしょ?」


 最早、あきれ果てた大野は子供みたいな口調で話す。


 「そんな事はないよ。貴方は婚約者を愛してるんでしょ? キッパリ拒絶すれば問題ないよ」


 「いや、こんな事聞いた事ないですよ? 因みに。もし、拒絶出来なかったらどうなるんですか?」


 「拒絶できなかった場合は、帰って来れないだろうね」


 鮫島の返答に大野は渋面を浮かべる。


 「いや、鮫島さん。実はですね。あの日見た少女の姿は、婚約者の学生時代の姿だったんですよ」


 「おっと、そいつは困りましたね。其れでは完全に拒絶するのは不可能ですかね?」


 「えぇ、僕は彼女があの頃から好きでしたから。他の方法はないですかね?」


 その時、つめたい風が二人の間を駆け抜ける。

 彼らはこの感覚を既に2回経験していた。最早疑う余地はもない。


 「大野さん。どうやら、あちらは待ちきれいようですよ......」


 鮫島は、精一杯の虚勢を張り、顔を引き攣らせながら、大野に言った。

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