古銭の誘い 5
後藤は爽やかな暖かい光で目を覚ます、気がつけば洋館の庭に寝そべっていたようだ。
空を仰ぐと例のテラスが見える。
そこには、やはり儚げな美女がこちらを見ながら微笑んでいる。
目が合うと少しはにかんだ感じでこちらに手を振ってくる、思わず立ち上がる。
前に感じた不安は薄れつい向こうに行きたい気持ちになる。
「どうぞ、今日はこちらにいらしてお話しませんか?」
彼女は不思議と、よく通る魅力的な声で優しく誘う。
「悪いけど、そっちにはいけないんだ。ここで良ければお相手するよ」
後藤は答えると彼女が見えるように仰向けに寝転がる。
「どうしてこれないのですか?」
「なんでだろうね? 分からないけどそっちにはいけない。」
「そうですか、まだ駄目ですか」
残念そうな顔を見ると少し悪い気がしてしまう。
「君はいつもそこにいるね、そっちからはでないのかい?」
後藤は疑問を口にする。
「私はずっと一人なんです、ここからは出られません」
「そうなんだ? 体が弱いのかい?」
「そのようなものですね」
「君は退屈してるかい?」
「そうですね。でも、お客様は良く来られるんですよ。ですから退屈では無いかもしれませんね」
「そんなものですか?」
「そんなものです」
クスクスと上品に笑う彼女、何故か晴香の面影と重なり警戒心が解けていく。
「なんで、そんなにお客が来るんだい?君はよっぽど話が上手なのかな?」
「いいえ、ここには皆さんがおねだりしにくるんですのよ」
そんなことを言う。
確かにお金は有り余ってそうな感じがする。
こんな夢を見るなんて自分は渇いているのだろうか?
と、感じながら聞いてみる。
「皆はそんなに何を欲しがるんだい?」
「そうですね、欲しいものは大抵。手に入りますよ」
「そいつは大判振る舞いだ」
口調が変わってしまうほどに安らぎを感じる。
「あなたは何が欲しいのですか?」
「俺?特には無いかな、強いて言うんなら、そうだな」
言いかけたところで意識が遠のいていく。
どうやら今日はここで目を覚ますようだ。