晴着の憂鬱 15
幣殿から無事に帰還した4人は、社務所で和子が入れてくれたお茶を啜りながら無言で座る。
その静寂は長く、彼是1時間は立つのではないだろうか?
その中で、大野は和子から応急手当を受けていた。
是も沈黙が続いた理由の一つだろう。
「しっかし、歩ちゃん。何がどうなるとこんな怪我するのよ? 基本的にヘタレなんだから、無理しないでよね」
和子は文句を言いながらも手際よく治療を進める。
話の流れからお互いは知り合いのようだが、今は誰もそれを尋ねようと言う気にはならないらしい。
ただ、大野だけが気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
「和ちゃんは相変わらず言葉がキツイな。お姉ちゃんは元気かな?」
大野は久し振りにあった和子に近況報告を求める。
「お姉ちゃんは相変わらず忙しいよ。今はグアムに撮影で行ってるみたいだけど、何? 歩ちゃん、お姉ちゃんが出てる雑誌とか見て未だにムラムラしてるの?」
「いや、ちょっと待って! そんな事、した事無いし! それに、未練は無いよ。僕、この除霊が終わったら結婚するんだ」
「その台詞。始まる前に言ってたら、きっと死んでたわね」
和子のおちょくりに対して大野が何故か死亡フラグをたてる。
少しの沈黙がまた訪れる。そこで、鮫島が空気を変える為にふざけた様に話し始める。
「おっと、死亡フラグが立たなくて良かったみたいな事言ってるが、残念ながらまだ終わってないんだな。これが」
その台詞を聞いた和子が改めて鮫島を見る、そして一言。
「で、このロリコンさんは、どこのどちら様ですか? うちの巫女さんの貞操が危ないので、お帰り願えますか?」
「ちょっと! 何かを勘違いしているようだが、俺は怪しい者ではないぜ? 大野さんに雇われた探偵だよ」
「そうですか、美佳子さんをあられもない姿にした探偵さんですね? 十分に怪しいではないですか」
鮫島は誤解を解こうとするが、どうやら、説明を聞く気は無いらしい。困った鮫島は、美佳子を見る。
「うむ、わっちは気にしていないので、それ以上責めるのは止めてたもれ。その者も、一応プロらしいのでのう。解決さえすれば、其処までの過程など問題なかろう」
美佳子の説明で理解したとは思えない。なんなら、更なる勘違いを生みそうではあったが、和子は席を外す事にしたようだ。
「では、私は帰りますから。歩ちゃんは後でちゃんと病院いくんだよ」
和子が出て行ったのを確認して鮫島が話を切り出す。
「しかし、今回のは本気でまずいな。やっぱり依代を破壊するしか方法は無いんじゃないか?巫女さんはなんとか出来るか?」
鮫島の質問に対して美佳子は答える。
「あれは、わっちではどうにもならんの。加えて言えば、依代の破壊も意味が無いじゃろうな」
美佳子の言葉に鮫島は驚いた反応をする。
「依代の破壊が意味をなさないだって? 奴らは、宿るべき身体を失った存在だぞ? 依代が無いと、数日と持たないはずだが」
「御主達九十九信仰の考え方であればそうであろうな。だが、わっち達は違う。怨霊とは、常軌を逸した妄執が形となったものじゃ。妄執が消えれば、それも自然と消える。消えた妄執はもう残らない、普通はの」
美佳子の言葉を聞いた鮫島の表情が目に見えて変わる。どうやら、大野も何か複雑な表情をしている。
二人の様子を見た晴香が不思議に思い、鮫島に質問する。
「鮫島さん。分からない事が何個かあったんですが聞いていいですか?」
鮫島は面倒そうにではあるが、どうぞと促す。
「はい、九十九信仰ってなんですか?」
鮫島は晴香の質問に答える。
「なに、そんな小難しいものじゃないさ。分かりやすく言うと、雑多に信仰を持つ者達。て、ところかな? 巫女さんみたいに、土地に神がいると考えるのが土地神信仰だ。俺たちは石ころ一個にも神様がいるって考えだ」
晴香は成程と言った後で更に質問を続ける。
「信仰が違うと、怪奇現象の解決方法も変わってくるんですか?」
鮫島は、フムと言った後に、その質問にも答える。
「やり方は違うな。だが、根本は一緒だ。基本的には、霊的な存在は人の思いが強すぎて形になったものと考えている。だから、その思いを開放すれば解決ってわけだ」
「なるほど、では。どうやって思いを消すかは霊能者によってまちまちと言うことですか?」
「まぁ、そういう事だな。何もしなくても思いが更につのる訳では無いからな。実を言うと、ほっといてもいなくなるケースはそれなりにあるのさ。ん? そうか、そういう事だったのか」
鮫島は何かに気付き、真剣な表情になる。それを見た美佳子が得意げに言う。
「なんじゃなんじゃ? お主、やっと気付いたのか? 意外と鈍感じゃな。わっちはあの場で気付いておったぞ」
晴香は鮫島に何が分かったのか聞く。
「鮫島さん。何が分かったんですか? 私にも教えて下さいよ」
何時もならば、こういうときに鮫島は人を馬鹿にした態度を取るが、今回は違った。
「いや、俺も可笑しいとは思ったんだ。巫女さんは本物だ。あそこまで行けば、本来なら徐々に思いを散らされて霊滅するはずなんだ。なんで消えないかって? はは、そいつは」
鮫島が言い淀む中で以外にも大野が続きを話し出す。
「その思いが今も続いているって事さ」
大野の言葉を繋いで美佳子が言う。
「つまり、生霊じゃな」




