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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 13

 霊山の中腹にある神社の幣殿に4人は集まる。大野家の家宝の小袖を中心に祭儀の準備が始まっていた。


 鮫島は神社関係者に伝達し、幣殿への入場制限を実施するべくバイトの巫女さんに話しかける。

 

 「そこのお嬢さん。これから特別な祭儀を行うので、指示があるまで立ち入り禁止の措置をしてくれ」


 巫女さんの格好をしたバイトは小首を傾げ聞き返す。


 「そんな行事は無かったと思うのですが、神主様からの伝達ですか?」


 鮫島は押し黙って重い空気を出すとバイトに伝える。


 「此処だけの話だけど、これから除霊を行うんだよ。危険な霊なので近づかない方がいい」


 こういった所でバイトをしているせいだろうか、バイトの巫女さんはそれを聞くとすぐさま行動に移った。

 もしかすると、過去にも事例があるのかも知れないと鮫島は思った。


 「さてと、人払いの準備は終わったな。これからが本番だが、さてさてどうなるのかね?」


 自ら言い出した割には人事な態度を取る。

 鮫島は再び幣殿に戻るのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 幣殿では既に準備が進められていた。依代を中心に祭壇の配置と各種装飾の準備は終わっていた。

 その中心には、儀式の為に準備を済ませた美佳子が無言で立っていた。

 頭には豪奢な天冠を被り、巫女装束は違和感無く決まっていた。両手に持った檜扇と神楽鈴が神秘性を増す。

 美佳子は鮫島が来た事を確認すると、神楽鈴を一定のリズムで鳴らしながらまい始める。

 美佳子が舞いながら祝詞を謡うように始めると、辺りに重苦しい空気が漂う。

 その光景を目にした鮫島は思わず唸る。


 「うぅ、コイツは。巫女さんも霊も規格外って訳か」


 幣殿の中に霧のような靄が立ち込める。それらは、ゆっくりと依代に集まり徐々に何かを形作っていく。

 集まった靄は人の形に成ると、依代を頭から被り、ゆっくりと美佳子に近づいていく。

 その姿は鮫島があの夜に見た物と同じだった。今回は、この場にいる全ての人間の目に見えているようで、皆が驚きの反応を見せている。


 晴香は驚きの余り、腰を抜かして床に座り込む、大野はその姿を確認すると大声で叫びだす。


 「その制服は俺が卒業した高校の制服じゃないか! お前は誰だよ!!」


 霊の姿を確認した美佳子が神楽鈴をシャン! シャン! シャン! と大きく鳴らす。

 その音を聞いてその場にいた人間だけではなく、霊までもが動きを止める。

 美佳子は霊をジッと見据えて言葉を発する。


 「オンシの無念を訴えよ! そして、晴らさば帰るべき処に帰るがよい!」


 美佳子が霊に対して訴えかける。口元に檜扇を構えるその姿は、とても中学生には見えなかった。

 美佳子は口元の扇を霊に向けると神楽鈴をシャン! シャン! シャン! と鳴らしながら、一歩、また一歩と近づく。

 霊は気圧される様に徐々に後退するが、数歩下がったところで止まると、美佳子に向かって雄たけびを上げる。

 ビリビリと振動するような感覚が建物を覆う、美佳子も足を止めると何か言葉を発し始める。


 「霊山を守りし神格なる存在よ、脆弱なる信徒をそのご加護で守りたまえ」


 言葉を発し終えると美佳子は扇を一振りした後に神楽鈴を上から下に鳴らしながら下ろしていく。

 シャン! シャン! シャン! シャン! シャン! と、五回鈴の音が鳴った後に、ガラスが割れるような音がする。

 すると、先ほどまで続いていた振動がピタリと止まる。

 美佳子の肩に一瞬、蛙の様なのもが降りてきた様に見えたが、それは直ぐに消えてしまう。

 

 「さぁ! 想いを伝えるがいい! そして、あるべきところへ帰れ!」


 美佳子が気合を入れて扇を振るうと風が巻き起こり依代を吹き飛ばす。

 そこには、女子高生の姿をした霊がたっていた。

 顔を隠すほどに伸びた長い黒髪、そして、きめ細かい絹の様な白い肌。

 顔こそ良くは見えないが、そのスタイルと肌から、その女性が生前美しい容姿であった事が想像出来る。

 晒されたその姿を確認した大野が声にならない声を出してその場に座り込む。

 

 「あ、あ、あ、どうして? 何でだ!」


 大野のその反応を見た鮫島が大野に問いかける。


 「おい! 大野さん。見覚えがあるのか? 大事な事だ、ハッキリ言え!」


 大野は最早、虚空を見ながらワナワナと、身体を振るわせるだけで何も言わなかった。

 鮫島は大野の身体を激しく揺さぶりながら答えさせようと試みるが、効果は無いようだ。

 尚も続ける鮫島が手を止めて立ち上がる。晴香の叫び声が聞こえたからだ。

 

 「鮫島さん! 美佳子ちゃんが危ないです! なんとかして下さい!」


 鮫島は舌打ちをすると美佳子の姿を確認する。美佳子に少女の霊が掴みかかろうとしている。

 が、少女霊の手は美佳子には届いていなかったようだ。

 美佳子を何かしらの力が守っているようで、少女の霊の手は何も無い空間を掴んでいる。

 その光景を見て鮫島は思わず呟かずにはいられなかった。


 「コイツは、まるで映画みたいだな」


 互いの力は恐らく拮抗しているのであろう、少女の霊は姿の見えない何かと争っているように見える。

 見えない何かが少女の霊の行動を阻害し、美佳子を守る、その間に美佳子は神楽鈴を鳴らしながら叫ぶ。


 「さぁ! わっちにアンタの事を教えておくれ! 全て受け止めてやる!」


 美佳子に追い詰めらられた少女の霊は、その場に押さえ込まれるように無理矢理に座らせられる。

 美佳子が主導権を得ようと一気に少女霊の前にいきその顔を掴む! と、美佳子がバツの悪そうな顔で此方を振り向き、顔を引き攣らせた苦笑いを浮かべる。


 「すまん。これは、わっちではどうにも出来ないようじゃな」


 明らかに動揺する美佳子の隙を少女霊は見逃さずに美佳子の緋袴を掴むと一気に引きちぎる。

 袴が破られた事により美佳子を覆う力が弱まっていく。


 「これは、わっちとした事がしくじったわ」

 

 美佳子は思わず仰向けに転ぶ、そのまま少女霊は美佳子の千早を掴むと下に着ている襦袢と白衣を毟り取るように強引に破く、見る間に美佳子は装束を奪われ彼女を覆う力は霧散する。


 遂に力を全て失った美佳子に少女の霊の手が伸びた時、何かが飛んできて、ガラスのように音を立ってて砕ける。

 それは、鮫島がここに来る時に鞄に入れて持ってきた。翡翠のペンダントだった。

 驚く少女の霊から美佳子を引き剥がす。そして、少女の霊に何かを貼り付けながら勢いで転がって逃げる。


 「さてと、コイツは。どうやって切り抜けますかね」

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