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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 10

 鮫島は喉の渇きを覚えて目を覚ました。

 なんというか、とにかく暑い。

 喉を潤そうと身体を起こそうとするがまるで金縛りにあったかの様に思うよう様に体が動かない。

 まさか、と、思い。

 鮫島は、なんとか動かす事が出来る首を動かし、状況を確認しようとする。


 「くそ! まさか金縛りなのか。油断したつもりはなかったんだが」


 鮫島は必死にもがくが誰かに抱きつかれたかの様に、ガッチリと体が押えつけられる。

 恐る恐る、自分の身体を確認すると、そこには、鮫島の身体を強く抱きしめた大野がいた。


 「ふゎぁ! て、お前かよ! はなせ~!」


 鮫島は全力で身体を揺さぶるがガッチリと身体をロックした大野は力を緩めない。

 そんな鮫島を他所に大野は寝言を漏らす。

 

 「沙希、僕はもう君を離さないよ。むにゃむにゃ」


 大野の腕がギリギリと鮫島に食い込んでいく、まるで万力で締め上げられる様な痛みに鮫島は悶絶する。


 「そんな熱烈な愛情表現があってたまるか! お前は彼女を殺す気か!」


 尚も夢の中から抜け出さない大野の顔が鮫島に近づく。


 「これは、まさか。まずい!」


 鮫島の後ろから、夏にも関わらず冷たい冷気が吹いてくる。

 後ろには確か、例の着物があったはずだと鮫時は思う。


 ゴソ......ズルリ......シュルリ......


 背後から、衣擦れの音が聞こえ、何かが自分に向かって近づいて来るのが分かった。

 この部屋には、今は鮫島と大野しかいない、後ろから誰かが近づいてくるはずはないのだ。

 しかし、確実に後ろからは何者かが近づいてくる。

 明確な悪意が鮫島に向けてビンビンと伝わってくる。


 「ちょ、マジか! 起きろっての!」


 ズル、ズル、ズズズ......

 ジュッシュシュシュシュシュシュ!


 ゆっくりと近づく気配が急に速度を上げ鮫島の首元に冷たい何かが近づいてくる。

 

 「いや、これは。二つの意味でまずいな。まさに絶対絶命のピンチだ」


 鮫島は、何とか身体を大野の腕から抜こうとする。

 その時、ヌ! と、鮫島の顔の横を白くて美しい手が通り過ぎる。

 その手は大野の顔を掴むと二人を同時に抱きしめる様に引き寄せる。


 グッグ! と身体を押しつけながら冷たい身体が密着する。

 そして、鮫島の顔の真横に髪の長い少女の横顔が並ぶ。

 少女は消え入りそうな声で囁く。


 「ねぇ、好きなの。私を見て、他の人には渡さない」 


 是には流石の鮫島も肝を冷やす。

 (おおい、やめろって。流石にこれは怖いだろ)

 少女は凄い力で大野を引き剥がすと鮫島の背骨をへし折る勢いで無理矢理に正面に向ける。


 「渡さない! 離れろ! 彼に手を出す女は......」


 今にも消え入りそうなか弱い声が何故かハッキリと響き渡る。

 少女は地血走った目で鮫島を凝視すると一瞬動きが止まる。


 「女は......」


 少女の顔がキス出来るくらいの距離まで近づく!

 そして少女はフッ! と、まるで煙の様に消え去った。


 少女が消えると、鮫島は、ブハァ! と息を吐き倒れこむ。


 「なんだよ、くそ! 久し振りに殺されるかと思ったぞ。女だったら一体どうなってたんだ」


 鮫島は大野の状態を確認する為に近づく。

 相変わらず幸せそうに眠る大野を見ると無性に腹が立つ。


 「てめぇ! ふざけんなよ!」


 鮫島は大野を蹴り飛ばすとその場に胡坐をかいて座る。

 蹴り飛ばされた大野は三回転して壁にぶつかると呻き声をあげて目を覚ます。


 「うぅ~ん、なんか。背中が痛い気がする」


 大野は起き上がると鮫島を見る。

 鮫島の顔は蒼白になり、凄い量の汗をかいていた。

 大野は心配そうに鮫島に話しかける。


 「えっと、大丈夫ですか? 凄い汗ですけど」


 鮫島は大野を睨むと不機嫌そうに言い放つ。


 「二つの理由であんたのせいだよ! 取りあえず、ビールくれ!」


 「はい......」


 大野はしょげながら冷蔵庫からビールを取り出すと鮫島に向かって放り投げる。

 鮫島はビールをパシッ! と、受け取ると栓をプシュ! と開けて一気に煽る。


 プハァァァ!! と、大きく息をつくと鮫島は大野を見据えてゆっくりと離す。


 「大野さん。あんた、とんでもないのが憑いてるぜ? こんなのがいたら、そりゃ、結婚なんか出来ないわ」

 

 鮫島は空になった缶を放り投げながら、追加をジェスチャーで要求する。

 大野はゴクリと唾を飲み込むと二本目のビールを渡しながら鮫島に尋ねる。


 「一体、何を見たんですか?」


 鮫島は大野をにらみ気味に見ると、質問に質問で返す。


 「大野さん、あんた本当に女関係でトラブルは無いんだな? 嘘をつかないで言ってくれ。かなり大事な話だ」


 大野は何も言わずに、首を振り嘘はついてないとアピールする。

 鮫島はそれを見ると溜息を吐き呟いた。


 「だとしたら、この相手は、大分沸いちまってんな」


 鮫島は2本目をビールを一気に煽り、睨むように小袖を見た。

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