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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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晴着の憂鬱 8

 某県、龍の住まう土地には警察では扱わない怪奇奇怪な事件を扱う奇妙な探偵事務所があった。

 その探偵社は、源流堂探偵事務所という、源の由来のある土地に流れ着いた流れ者が構えた御殿。

 と、いうのが名前の由来だ。


 その一室に、向かい合って座る二人の男の姿あった。

 一人は少しくたびれているが、それでも質のいいスーツを着た軽薄な笑みを浮かべる男、鮫島である。

 もう一人の男は上等なスーツを着こなした線のほそいハンサムな男性、今回の依頼者、大野歩だ。


 大野と鮫島は今後の調査方針を決める為に、事務所で打ち合わせをしていた。

 鮫島は大野に調査方針の提案を出す。


 「さてと、聞き取りの結果。大野さん自身に心当たりも無いし特に不審点も無さそうだな」


 「そりゃそうでしょうよ、生まれてこのかた怪奇現象なんて遭遇した事ないですからね。強いていえば、今回の破談ラッシュが人生で一番怖かった事ですよ」


 「はは、大野さん。あんた、面白いな! 確かにそりゃ、おそろい事だな」


 「笑い事じゃないでよ。本当に参ってるんですから」


 失礼なくらい豪快に笑う鮫島に大野は悪態をつきながら抗議の眼差しを向ける。

 

 「まぁ、そう怒らないでくれよ、それより是を、どう思いますか?」


 鮫島は、応接机から大野に見えるように、数冊の古めかし書物を取り出す。


 「どうって、なんと言うか。凄く、古くさいですね」


 鮫島はヤレヤレと大袈裟にポーズを取るとその書物を手に取り話し始める。


 「そいつは昔から語り継がれている怪談話を集めた書籍だ」


 「怪談ですか? 今回の件に、妖怪でもかかわってるっていうんですか? そもそも、妖怪なんているんですか?」


 大野の質問にたいして、鮫島はちょっと得意げに窓を見ながら話し出す。


 「ヤレヤレ? 一度に3つの質問ですか? 普通ならしったこっちゃねぇところですが、イイでしょう! お答えしよう」


 「しったこっちゃねぇって。一応、僕はお客ですよ?」


 大野は笑いながら言外に続きを促すように鮫島を見返す。


 「まず、何故怪談なのか? それは、次の質問の答えでもあるな。大野さん個人に要因がないのであれば、必然的にその他の要因があるという事だ」


 「それってつまりは?」


 大野は思わず最後まで話を聞き終えないうちに質問をする。


 「それが一つ目の答えだ、古くから怪異と言うのは大きく分けて二つのパターンがある。一つは、何に縛られる事なく好きなように行動出来るタイプ。もう一つは、何かしらの物品、或いは土地、特定の何かに縛られたタイプ。今回は後者が当てはまるのだろうな」


 鮫島は軽くポーズを決めながら、最近、にたような事をしなかった? などと思う。


 「そして、最後に妖怪はいるのか? だが、いるといえばいるし。いないといえばいない」


 「また、人を煙にまく様なことをいって」


 大野は苦笑いしながら非難するが鮫島気にせずに続けた。


 「まぁ、つまりは考え方だ。人の念は、時として存在しない物を形作る。それは、神様であったり幽霊であったり。そして、妖怪なのかもしれない」


 「モノはいい様って奴ですか? 呼び名は違うが元をただせば一緒と?」


 「まぁ、そういう事です。俺がいってるだけですけどね」


 「なんだそりゃ? で、具体的にはどうするんですか?」


 大野が質問すると、鮫島は得意そうな顔で玩具のストラップのような物を出すと、大野の前でブラブラ揺らす。


 「コイツを使うのさ。通称、幽霊探知機。科学的に作られた驚きの逸品だ」


 大野は怪訝な顔をすると鮫島を訝しげに見る。


 「えっと、玩具ですよね? 馬鹿にしてるんですか? 嘘でもいいから、もうちょっと、それっぽいのにして下さいよ」


 大野の呆れた顔を見ると鮫島は指を左右に振り、チッチッチ!と口ずさむ。


 「分かってないなぁ。これは霊能者と一緒に実験して、その精度はかなり信頼性があり、調査に有効であると立証された逸品だぜ! それに、そういった道具も持ってはいたが、つい最近、砕け散った」


 「え? 砕け散った? どういう事?」


 大野は鮫島の説明では無く、砕け散ったほうに反応する。

 面倒になった鮫島はそのまま押し通す事にした。


 「まぁ、そういうわけで言ってみよう!」


 「どういうわけか分かりませんが?」


 その後、二人は話し合った結果。

 まずは大野の実家を調べる事にし、大野の車に乗り込み目的地に向かった。


 大野の実家は広く、立派な日本庭園があるような日本家屋であった。

 鮫島と大野はくまなく自宅を回ったが、装置に反応があるところは遂に見つからなかった。

 大野は鮫島にもう一度確認する。


 「鮫島さん、僕も自分の家に何かいるとは思いたく無いですが、流石に道具が違うんじゃないですか?」


 大野の質問に対して鮫島は何事も無かったかのように返す。


 「いや、予想通りだ。問題は無い。やはり、旅館の方を確認しに行こう。商売をしてる家は、店舗に因縁があるパターンが多いものだからね」


 大野は釈然としないが承諾をする際に鮫島の手元を見て思わず聞く。


 「その青い光はなんですか?」


 「ああ、良い霊がいるサインだな。このくらいの旧家で何もいない訳ないだろう?」


 大野は、やっぱりいるのかよ。

 と、言う表情をするが、いちいち相手にはしない事にしたらしい。


 大野の自宅から旅館まではほんの数分ばかりの距離だった。

 鮫島は旅館につくと、古めかしいコンパスを取り出した。

 大野はそれを見ると、一体何のために出したのかを質問する。


 「鮫島さん、今度はなんですか? 気になってしょうがないのですが。しかも、それ北を指してないですよね?」


 鮫島はその古めかしくも気品あるアンティークなコンパスを、大野に見せると語りだす。


 「この羅針盤は、嘘か誠かその昔。航海中に嵐にあい、遭難した船の船長が持っていたものらしい。その船長は、その時に海に投げ出された仲間を助けたいと願をかけたところ。この羅針盤は方位とは全く違う先を指し、遭難した仲間を発見した。まぁ、死体だったんだがね」


 鮫島は羅針盤の話をすると、針の方向を大野に向ける。

 その針は、旅館の入り口を指し示していた。

 大野は羅針盤を受け取ると、ためしに他の方角に向ける。

 しかし、羅針盤はぐるりと回転すると、旅館の方に針が向かう。

 是には大野も流石に顔が青くなる。


 「さ、鮫島さん。これは本物ですか? 何で、さっきは出さなかったんですか?」


 鮫島は馬鹿にしたような感じで大野に言う。


 「そりゃ、ちゃんといる所で出した方が演出として面白いだろ? それに、見せたら怖がるだろ?」


 大野はそれならば見せなければ良いだろう、と、言う顔をした後に何かに気付いて、ハ! と、する。

 そう、鮫島はよく馬鹿にしたような態度をしていたが、本当に馬鹿にしてるのだと気付いたのだ。


 「鮫島さん、あまり良い趣味ではないですよ」


 大野は鮫島を批難する目で見るが、どうやら鮫島は意に介さなかったようだ。


 「そんじゃ、いよいよ原因の究明といこうか」


 鮫島は意気揚々と旅館に向かって歩いていく。

 そして、受付を素通りしようとして、捕まった。


 「あの、お客様。流石に受付無しで入られると困るのですが」


 大野は、鮫島が捕まるのを確認してから、大笑いしながら歩いていく。

 仕返しのつもりでやってみたが、存外気分が良かった。

 しかし、その笑いも直ぐに止まった。

 鮫島の険しい表情が、それどころではない事を物語っていたからだ。

 大野は緊張した面持ちでその視線の先を見る。

 その先には一着の豪華な小袖が飾られていた。

 鮫島は小袖を見据えたまま大野に言う。


 「大野さん、あの着物は?」


 「あれは、うちに代々伝わる物ですね。なんでも、かの有名な一族の方がうちに泊まった時に、宿を気に入ってその褒美に受け賜ったって言う家宝です。依頼縁起物として結婚式の時に、花嫁が白ワタの変わりに頭から被るのが我が家の風習になってますね」


 鮫島の懐からビービーと音が鳴りだした。

 どうやら、例の玩具が赤く点灯しているようだ。

 鮫島の手のひらの羅針盤も針が折れるのではと思うほど激しく回転していた。

 鮫島はしかめっ面になって大野に言う。


 「非常に言いにくいんだが、大野さん。原因はこれのようだ」

 

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