古銭の誘い 4
「おかえりなさい」
「ただいま」
出迎えの挨拶に笑顔を作りながら返事をする後藤
「ねぇ、サングラスどうしたの?」
「う~ん、なんか無くしたみたい」
「ジェントルモンスターって言ったっけ? 大分良いものだったんでしょ?」
「あぁ、そんなのどうでもいいよ、それより。こいつをお前に買ってきた」
「これって? 凄い! いいの? ありがとう!」
晴香は万年筆を受け取ると満面の笑みで喜ぶ。
元は彼女のお金なのだがそういうのは関係無く嬉しいものだ。
晴香と後藤が出会ったのは3年前、当時ホストをしていた後藤が晴香のいたテーブルについたのがきっかけだった。
当時の後藤は喧嘩が強い無頼漢であった、なまじ腕力に自信があるせいで直ぐに暴力に訴えてしまい失敗ばかりしていた。
そんな後藤を拾ったのは地元の悪い先輩だった、ホスト兼用心棒として生計を立てていた。
だが、生来曲がった事が嫌いな後藤は是を良しとはしていなかった。
それに対して晴香は俗に言う文学少女だった、顔立ちは中性的な感じでとても綺麗だったが眼鏡とファッションが野暮ったくもてる様なタイプでは無かった。
実際ホストクラブにも興味が無く友人の付き合いで渋々付き合ったのだが、まさかぼったくられるとは思わなかった。
友人と二人で複数の男達に囲まれ恐喝を受けながらも、『白馬の王子様助けて』とか呟いてしまうちょっと痛い娘だった。
その時、男の一人が突然吹っ飛んだ。比喩や表現ではなく吹っ飛んだのだ。
見事に。
後藤のアッパーを顎に喰らった男は3回転して壁にぶつかる、その勢いでもう一人をハイキックでなぎ倒す。
「いいから、もう帰りな」
無愛想に一言だけ言うその暴力的な男、ホストにしてはつまらないと思っていたが・・・
(なに? これ)
まさに絶滅種のイケメンではないか、頭を下げると友人を連れて逃げるように店舗を後にする。
後ろから怒号と騒音が聞こえるが一気に駆け抜け難を逃れた。
「あぶなかったぁ、あのお兄さんいなかったらどうなってたか。これも幸運のお守りのおかげかな?」
後日、二人は町で出会った。
仕事を失いやさぐれていた後藤を発見した彼女が彼に食事を奢る事になる。
その時の彼女の笑顔に後藤がやられちまったのが二人の馴れ初めであった。
晴香は後藤との出会いを思い出しながら微笑む、
その微笑を見て、後藤はつい口走ってしまう。
「そう、どうでもいいんだ。お前の喜ぶ顔が見れたら他はどうでもな」