表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
44/92

晴着の憂鬱 2

 大野歩は、今年で25歳になる。

 自分で言うのも何だが、エリートだ。

 実家は古くから続く旧家で、家柄も良く、見た目も悪くない部類だろう。

 仕事に関しても、親の会社とはいえ、この若さで専務を務めている。

 個人的な資産も、そこらの金持ちよりは持っている。

 正に、非の打ち所など無い。

 無い筈なのだが。


 「結婚を取りやめたいだって! なんでだよ? 何が嫌なんだよ?」


 大野は、見かけによらない剣幕で、彼女を問い詰める。

 彼女は、何かを言いかけた後で、小さく首を振ると、悲しげな顔で言う。


 「事情は、貴方とはやっていけない。それだけじゃ、駄目なの?」


 「それで納得出来るわけが無いだろ!」


 大野は、承知こそしなかったが、止められない事は分かっていた。

 何故ならば、婚約の破棄は、彼が20歳の頃から数えて、もう5回目なのだから。


 「ごめんなさい、貴方が嫌いになった訳じゃないの。でも、どうしても、無理なの」


 彼女は悲痛な顔でそれだけを言うと、走り去ってしまった。

 大野は、完全に脱力して、カフェテラスの椅子に全体重を乗せて呟く。


 「なんでなんだ? 学生時代は、こんな事は無かったんだよ。振られ続けて5年、流石に、可笑しくないか?」


 大野は、全体重を後方にかけ、椅子ごと盛大に後ろに倒れこむ。


 ガシャ~~~ン!


 盛大な音に驚いた、メイド風の衣装を着た店員が駆け寄って来る。


 「大丈夫ですか! お客様!」


 大野は、駆け寄って来た店員の、純白のパンツを見ながら言う。


 「お構いなく、彼女に振られて、自棄になって、自分で倒れこんだだけなんで」

 

 「それって、ほっといたらいけないパターンですよね?」

 

 呆れた声を出しながら、カフェの店員が反対側に回り込み、大野を助けおこす。

 パンツが目の前から消えると、走って来たカフェの店員の顔が見えた。


 「自分で倒れこんだんですか? 怪我しますよ。あれ? 大野君?」


 呆れた声から、驚きの声に変わり、カフェの店員は、大きな目をパチクリさせる。

 名前を呼ばれ、改めて相手の顔を確認する大野だったが、見覚えがなく、困惑する。


 「えっと、どこかで会った事あるかな?」


 カフェの店員は、少し考えた素振りをすると、何かを取り出す。

 大きな瞳が特徴的な、ショートカットが良く似合う、活発そうな、可愛い女性だった。


 「君くらい可愛くて特徴があれば、忘れないと思うんだけどなぁ」


 ついでとばかりに、口説きにかかる大野をよそ目に、カフェの店員は、取り出した眼鏡をつけて問いかける。


 「どう? これで思い出さない? 高校で同じクラスだった、沙希だよ」


 大野は、思わず、大きな声で反応する。


 「うおおお! 委員長か? 久し振り! 随分、見た目変わったな!」

 

 沙希は、笑顔になると、大野に話しかける。

 

 「あのさ、後30分で、シフト交代だから、良ければ、待っててくれないかな?」


 「ああ、構わないよ。ついさっき、今後の予定が弾け飛んだ所だからね」


 大野が自虐的に笑って見せると、沙希は、大野が散乱させた場所を片付け始める。


 「ああ、悪い、手伝うよ。ごめんな、散らかして」


 大野が手伝おうとすると、沙希がそれを静止する。


 「あ、ごめん。仕事だから、やらせて」


 手持ち無沙汰な大野を見た沙希は、少し間を置き、付け加える。


 「そうね、悪いと思うなら。今晩、夕食をご馳走してくれるかな? 見ての通り、薄給なんでね」


 沙希は、可愛らしく舌をペロリと出す。


 「お、おう! 何でもいいぜ。金なら、幾らでもある!」


 その反応を見た沙希は、思わず笑い出す。


 「あはは、なにそれ? おじさんみたい」


 「おっさん言うな! 傷心の身の上を、これ以上痛めつけるんじゃない」


 言いながら、大野も笑い出す。

 大野は少し考えた後に、気まずそうに問いかける。


 「委員長はさ。今、付き合ってる人とかいるの?」


 沙希は、驚いた顔をするが、直ぐに意地悪な顔つきになる。


 「とりえず、委員長は辞めてくれないかな? 沙希って呼んで。昔から、名前で呼んでくれなかったよね?」


 大野は、若かりし頃の、甘酸っぱい思い出に、顔が赤くなる。


 「さ、沙希は。付き合ってる人は、いるのか?」


 「振られたばかりで、いきなりですか? 返答次第では、何て言ってくれるのかな?」


 沙希は、可愛らしい笑顔で意地悪に言う。

 大野は、少し困った顔をするが、直ぐに真顔で見返す。

 沙希は、悪戯をする少女のように笑う。


 「年齢=彼氏無し! そろそろ、マジでヤバイかな? って思ってる今日この頃! ここまで言わせたんだから、覚悟は出来てるんだよね?」


 余り笑顔で言う事でもない事を言った沙希に、大野も返す。


 「は! 甘いな! 二十歳から振られ続けて5人目だ! そっちこそ、覚悟出来てんだろうな?」


 辺りも気にせずに笑い出す二人、その姿は微笑ましいものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ