古銭の誘い 38
後藤と、西洋館の財産の神が賭けを始めてから3日が過ぎていた。
彼らは、ポーカー、チェス、麻雀と、あらゆるゲームで対戦をした。
勝負は拮抗し、このまま永遠に続くのではないかと思われたが、4日目に入り事態は変わりつつあった。
「人間が、徹夜で動けるのは、3日が限界のようだな」
財産の神は、自らの勝利を確信していた。
「確かに、このままゲームを続けても、あんたに勝つことは出来ないだろうね」
「ふむ、潔く負けを認めるか? なかなかに、楽しい余興ではあったな」
「残念だが、俺の目的は勝つ事じゃない。彼我が来るまでの時間稼ぎさ」
後藤は、苦しそうに笑いうが、その顔は希望に満ちている。
「負ければ命が無い状況で、時間稼ぎとは。酔狂な事よ」
「あはは、なんか忘れてないかい? 俺は、ついてないから。良く、死にそうになるんだ。でもな」
「この期に及んで、まだ何かあるとでもいうのか?」
「ああ、俺の勝ちだよ。残念だが、今回の舞台の幕引きをするのは、俺じゃないんだよ」
後藤が言うと、待っていたかのように扉が開き。
人間達が入ってきた。
鮫島達であった。
その姿を確かめた西洋館の神は尋ねる。
「どちら様かな? あなた達の中で、此処への招待状を貰っているのは、お一人だけのようだが?」
神の問いかけには答えず、晴香が一歩前に出て宣言する。
「私達が受けた恩恵の清算に来ました。どうぞ、ご確認下さい」
神は少し考えるが、後藤と七海を見た後に、頷き、立ち上がる。
神が指をパチリと鳴らすと、何も無いエントランスの真ん中に、全員が座れるサイズの会議机が現れた。
「よかろう、それも一興だ。貴様等で我を納得させてみるがいい」
神は、隠し切れないほどの快楽的な笑みを浮かべ、その場の全ての人間に座るように促す。
「最後の最後で、此処まで充実感という奴を得られるとはな。悪くは無い」
まるで、役者が最後の舞台に向かう様に、神は、ゆっくりとした足取りで向かう。
「さあ! 其れでは、始めたまえ。是より最後の裁定を始めよう」
神の宣言を受けて、渡部が動く。
「では、まずは、あなたが二人に与えた恩恵を通貨に変更して試算します。教育費、一人当たり5000万。生活費、一人当たり3000万。彼女達が生きるのに受けた恩恵は、合計で、1億6000万円です」
「ほう、金に換算して精算か? 話にならんな。金など求めておらんし同価値では納得いかんな」
渡部の話を、神は打ち切ろうとする。
「まあ、もうちょっと聞いてくださいよ。話は、まだ続きますから」
渡部は、そう伝えると次の話を始める。
「この西洋館を建てるのに使われた金額が、当時の価格にして約5000円。是は、現在の価値に換算すると、約2億円となります。そこで我々は、この西洋館の復元を提案いたします。総工費は、約5億円。悪い話しでは無いと思いますよ」
「成程、落としどころとしては申し分ないな。最早、再建は叶わぬと思っていたが。もう、思い残す事はないな」
感慨深く頷くと、神は七海を見る。
「七海さん。短い間だが、楽しかったよ。最後に、是だけ盛大なゲームを楽しんだ。最早、此処に留まる理由は無い」
「そうですか。今まで、有難う御座いました。貴方の事は、一生忘れません」
泣きながら別れを惜しむ七海を後藤が軽く抱きよせる。
そこで、鮫島が口を開いた。
「しんみりしてる所、悪いんだけど。本題は、これからなんだよね」
七海は、目をパチクリさせていたが、後藤は少し笑っていた。
「では、此処からは俺がプロジェクトの説明をしよう」
鮫島は、不謹慎にも会議机の上に立つと、楽しげにアピールする。
「まったく、あなたって人は」
渡部が苦笑しながら溜息をつく。
しかし、その顔は、明らかに楽しんでいた。
「ではまず、今回の企画名から発表いたします」
鮫島はドゥルルルと自分の口で擬音を出し、企画書を天に掲げる。
「その名も、大正 春海浪漫 プロジェクト」
全員が注目する中で、プロジェクト名を発表する。
それに続き、渡部が続きを話し出す。
「そもそも、この企画は、当時失敗した物を元に考案しました。当時は、今の価値で約30億円をかけて。桃源郷を再現する企画でした。しかし、当時の生活水準では、娯楽を楽しむ余裕など無かった。故に、計画は破綻し、彼らは財政難に陥ったようです」
渡部の話が落ち着くと、鮫島がそれに続く。
「それを、現代風にアレンジしたのが今回のプロジェクト。先ず、中央に西洋館を再建する。その後、別館を建設します。本館は、モダンなウェディングホール。別館は、レストランや宿泊施設等を作ります。来場者が自由に、結婚式を見学出来る。そういうテーマパークです」
鮫島の話が一区切りしたのを待ち、晴香が続ける。
「また、近場の沼を利用して、釣りや、ボートを楽しめる施設を作ります。また、四季の景観を楽しめるを散歩コースを作ったり、貸衣装や馬車などを使い、大正を再現した空間を演出します」
晴香は、一息つき。最後に、神に向かって笑顔で言う。
「このウェデイングホールには、イベントがあります。此処で結婚式を迎えるカップルは、この西洋館に祭られた神様に、2枚の銀貨を捧げます。その銀貨を受け取った神様は、それに見合ったささやかな幸福を与えます」
最後の締めくくりとばかりに鮫島が言う。
「そして、ここの神様があんたって訳だ。今日からは春海ノ神とでも名乗るか?」
「なんと、まさか、最後に私が人間から恩恵をもたらされるとはな。参った! 完敗である!」
全員が期待の眼差しで七海を見る。
「うん! そうだね、やっぱり。最後はハッピーエンドじゃないとね」
涙の筋を残したその笑顔は、とても美しかった。




