古銭の誘い 37
西洋館の財産の神は、エントランスホールにて過ぎ去った日々に思いを馳せる。
自我が生まれたのは100年以上前の事だった。
多くの領民が豊作を願い、毎日の様に訪れていた。
来る日も、来る日も、その期待に答え、地域は潤い、誰もが幸せに暮らす村となっていた。
しかし、その日々は僅か10年程度で終了する事となる。
村人達の願いを一身に背負った農場の主は、その見返りの反動で経営不振となってしまった。
今となっては、後悔しても後悔しきれない事であった。
財産の神は、その頃は恩恵の反動と言うものを知らなかった。
神とはいえ、大地の歯車の一つに過ぎない。
大地の因果律に逆らう事は不可能だった。
過ぎた力は、人を滅ぼすものでしかなかったのだ。
「あの頃にもっと、違った考え方が出来ていればな」
一人で呟いていると、2階から人が降りてくる音がした。
この建物にいる人物が一人だけである事を知る彼は振り返らずに言う。
「そろそろ、お別れの時間のようだね」
「随分と、寂しそうに言うんですね。まるで人間の様だわ」
七海の返答に彼は初めて振り返る。
「本質は、人間と変わりはしないよ。人の想いから生まれでたのだからね」
優しげな顔で笑いを浮かべると達観した表情で語る。
「私は、そろそろ消えてしまうだろう。そうなれば、君は、現世に帰れるよ」
「随分としおらしいのね、無理矢理に連れてきたんだから、最後まで強気に構えて欲しいものね」
「ははは、是は失礼。では、最後は華々しく散るとしようか」
彼は笑いながらわざとらしくポーズを取る。
それを見た七海はクスクス笑う。
「貴方には、感謝しています。今まで、見守って頂き有難う御座います。その対価が払えない事が残念に思います」
「仕方の無い事だ。元より、人を生贄に取って永らえようと考えたのが間違いであった」
最後の別れを惜しむかのように、二人が向かい合い話していると、突然扉が開いた。
そこには、少しボロボロになった後藤が立っていた。
「よう、久し振りだな。花嫁を貰いに来たぜ」
「ふふふ、愚かにも我に挑みに来たか小童が!」
二人は芝居がかった台詞を言うと軽く笑みをこぼす。
「さて、早速だが種明かしだ」
後藤は財産の神に言う。
「俺が銀貨にかけた願いは、あの日出会った少女達が幸せに暮らせる事だ。どうやら、あんたの嫁になるのは幸せではなかったみたいだな」
後藤は、意地悪な笑みを浮かべる。
「だが、対価として此処に迎える事は出来ているぞ? 是はどうするのだ?」
財産の神はわざとらしい演技をする。
「そうだな。では、賭けで決めようじゃないか。俺がベットするのは俺自身。あんたは、七海だ」
七海が何か言おうとするが、それを後藤が制する。
そして、財産の神がそれに答えた。
「良かろう、受けてたつぞ。ところで、貴様は少女の為に何を失ったのだ?」
「俺に来るはずの幸運全てさ。見合った対価であれば、自分で対価を選べるんだぜ」
「なんともまた、大胆な奴だな。それでは、私には分からなかった訳だ」
「おかげで、何度も死にそうになったけど。あんたとの契約の恩恵で、ギリギリ死ななかったよ」
「其処まで考えていたのか?」
「いや、偶然だ。」
後藤は、少年のような笑顔をすると、提案を出す。
「チップの量なんだが数日かけて決着が付く量で頼むよ」
「分かった、其方に任せよう。最後の遊戯だ、精々楽しむがいい」
「じゃ、始めようか?」
友人同士が遊戯を始める時の様に、気軽に開始の合図をする後藤。
「俺はさ、星の銀貨って御伽噺が大好きなんだ。だから、最後は御伽噺のように綺麗に決めさせて貰うぜ」




