古銭の誘い 36
「どうって? 爽やかな感じはするけど、是と言ってインパクトは無いですよね。何処から来た名前で?」
竹内は待ってましたとばかりに嬉しそうな顔をした。
山岸は、その表情から得体の知れない何か不吉なモノを感じ取る。
「実はね、娘の名前からとっているのだよ。名前なんてものは、奇をてらって小難しいのを付けるよりも、想い入れのあるものにするのがいい。特に、今回はね」
「え? 娘の名前? ここにきて? もっと考えた方が」
山岸が話し終わる前に竹内は自分の娘の素晴らしさを語り始めた。
山岸が、しまった!
と、思う頃には、もう遅かった。
完全に地雷を踏んでしまったのだ。
彼は、予定していた夕食の歓待の時間まで。
約3時間、延々と、娘自慢に付き合わされることになった。
「参ったね、これは、なんて日だ......」
聞こえないように呟きながら、耐えていると女将さんの声がした。
「失礼致します、お連れのお客様が参られました。お通ししても宜しいですか?」
その声に竹内が返答をする。
「はい、お願いします。山岸さん、構いませんよね?」
「うちは構いませんが、お連れさん? どなたで?」
「いや、娘がね。此処に来ると言ったら、どうしても来たいと言ってな。悪いが同席させて貰うよ」
竹内が話しているうちに襖が開いた。
そこには、普段の野暮ったい格好ではなく、正装をし、その美しさを遺憾なく引き出した晴香が立っていた。
「あ、すいません。娘の晴香です。どうしても一度来てみたくて、お邪魔してすいません」
そして、山岸の時間が止まった。
「いや! お邪魔だなんてとんでもない! 晴香さんの為ならいつでも入れるように手配しますよ!」
急にハイテンションになった山岸を竹内が訝しげに見る。
「ははは! お父さん! 今回の件は其方の良いようにして下さいよ! 此方は面子が保てる程度で良いですから」
「なんだ? 急に? 気持ち悪い奴だな......」
「さぁさぁ、晴香さん此方にどうぞ」
山岸は竹内を無理やり退かせると、晴香を自分の正面に案内する。
是には竹内も抵抗した。
「おい! 貴様! 止めないか! いくら晴香が可愛いからと言って! 汚らわしい手で娘に触れるな!」
「何言ってんですか! 呼んだの貴方でしょ! スキンシップさせなさいよ!!」
余りにも大人気ない二人の喧嘩を、晴香はただただ呆然と見るしか無かった。




