古銭の誘い 33
竹内豊はアルバムを見ながら溜息をつく。
アルバムには二人の少女たちの写真が大量に収まっていた。
彼は所謂成功者である、彼女達を養子に貰ってから一心不乱に働いた。
養育費を稼ぐ為、少しでも不自由を感じさせない為男手一つで頑張った。
そのかいあって、彼は一介のサラリーマンから一代で地元有力企業の社長に成り上がった。
しかし、彼の心には穴が開いていた。
「はぁ、娘達に会いたい......」
彼女達の自立と、将来を考えて、彼は彼女達が高校に上がる際に、全寮制の女子高に入学させた。
が、まさか卒業してそのまま帰って来ないのは想定外であった。
「なんという事だ、冗談で言った台詞を本気にして帰ってこないとは......」
彼は親として二人の娘を愛していた。
それはもう、病的なほどにだ。
「はぁ、金と名声を幾ら得ても満たされない......」
竹内が悶えていると呼び鈴が鳴る、家政婦さんが来客を告げに来た。
この家政婦さんは娘を育てる中で必要と感じ雇った。
が、今ではいないと生活に不自由なくらい必要な存在となっていた。
「アポイントも無しに来られてもな、帰って貰えそうか?」
「それが、晴香お嬢様の紹介で来られた探偵と名乗っていまして。お帰り頂きますか?」
「何? 探偵? 胡散臭いな。いや、しかし、もしや!」
「旦那様......」
竹内の余りの大仰な行動に家政婦さんは絶句する。
「直ぐに通してくれ、お茶は最高級のものを用意してくれ」
「では、そのように」
竹内はドン引きする家政婦を背に年甲斐も無くスキップをしながら応接間に向かっていく。
鮫島と渡部は応接間に通されると紅茶を出された。
家政婦は、暫し待つように伝えるとその場から席を外した。
「ほう、これは? 爽やかな香り、そして繊細な渋み。これは! 良いものだ~!」
渡部は出された紅茶を一口飲むと妙なスイッチが入ったようにテンションが上がる。
「確かに美味いが叫ぶ程か?」
顔を引き攣らせながら鮫島が言う。
「あなたは、何も分かってないですね。最高級のお茶でのもてなしとは歓迎を意味するのですよ」
二人が会話をしていると奥から精悍な顔立ちの男性が入ってくる。
竹内だった。
「ははは、其方の方は違いが分かる様ですね」
竹内は見た目とは違い柔らかな物腰で声をかけながら席についた。
「今回のご用件は私の身辺捜査ですね? 晴香に伝えてください。家を出す時に言った事は冗談だから戻ってきて大丈夫だと」
竹内は座るなり自分の思い込みで話を進める。
「で、晴香はいつ戻る予定ですか? 明日かな? なんなら今日だって構わない! 春江さん! ご馳走の準備をしてくれ! ははは! 良かったら君達も一緒にどうかな」
一人で勝手にハイテンションになる竹内を見て鮫島は聞こえないように渡部に囁く。
「おい、このオッサン大丈夫か? 沸いちまってんじゃないか?」
この後、竹内は娘の可愛いところ等を鮫島達に延々と2時間程語り続けた。
これには、流石に二人も辟易としたが我慢するしかなかった。
竹内が満足するまで耐え切った渡部は竹内の承諾を取り要件を伝える。
「申し訳無いのですが、竹内さん。今回の晴香さんからの依頼はお二人を育てるのにかかった養育費の調査となっております」
渡部が申し訳無さそうに言う。
「え? 何だってそんなものを? って、事は晴香は帰ってこないのか!?」
竹内がまた可笑しな状態に入る前に鮫島は動いた。
「竹内様、晴香様は貴方に受けた愛情を実感されたいそうなのですよ。それに、彼女は貴方が言った事など親が子供を自立させるための方便だと分かっていますよ。賢いお嬢様ですから」
鮫島の言葉に竹内は満更でも無さそうな顔で答える。
「そういう事なら直ぐにでも確認しよう。ところで、晩餐の準備を早まってしてしまってね。君達から晴香に夕食に来るように伝えて貰えないかね?」
竹内はついでとばかりに要求をする。
その瞬間、渡部は目をカッ! と見開き行動に移った。
「竹内様、実はですね。彼は、探偵ですが。私は、こいったもので」
渡部は竹内に名刺を渡す。
「山岸グループ。新規事業企画顧問ですか」
竹内は名刺を見ながら呟く。
「どうでしょう? 晴香さんからの紹介なんですが。今晩、皆さんで食事しながらでも」
思案顔で竹内は悩む。
その時、扉を開いて無理やりに笑顔を作った晴香が入ってきた。
「ただいま」




