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源流堂探偵事務所にようこそ  作者: 西渡島 勝之秀
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古銭の誘い 29

 「妖怪を倒すだって! 何を言い出すんだい?あなたは」


 思わず声を大きくして渡部が言った。


 「厳密には退治する訳ではない、存在を捻じ曲げて消滅させる」


 鮫島は得意げに言う。


 「そんな事できるんですか?」


 晴香が疑問を投げかける。

 

 「基本的に神や妖怪といった事象には人間は対抗できないよ」


 「えぇ? もう言ってる意味がわかりません!」


 叫ぶ晴香をまぁまぁと、宥めて続ける。


 「超常現象にはルールが存在する。そのルールを解明して矛盾を生じさせればルールから逸脱したものはその存在を維持できなくなる。それが我が家の考え方だ」


 「ルール?」


 晴香は首を傾げる。


 「今回のケースで言えば人に恩恵を与える変わりに代償を要求するってのが相手の存在意義だ。これが不可能な状況に追い込めば奴はその存在理由を無くし自然消滅する」


 「そう上手くいくものですかね?」


 渡部が不安そうに聞く。


 「まぁ、そいつはやってみないと分からないな。だが、恐らくではあるが俺は既に奴の存在が何らかの要因で歪みかけていると思っている」


 「え? 既にですか? 鮫島さんが何かやったのですか?」


 晴香の疑問を聞き鮫島は首を振る。


 「いや、俺は何もやっていない。偶然か狙ったのか分からないが、奴は願いを叶え続ける中で何かしら矛盾が生じる内容を発生させてしまったのかも知れないな」


 「え? そんな都合のいい事が起こる事なんてあるんですか?」


 晴香が信じられないと言った感じで問う。


 「ありえないと思うだろ? だが、意外とそういうものだったりするんだ。時代が変わり人の考え方も変わる。そんな中で昔から変らず同じルールを持つ妖怪は役割を果せなくって自然消滅するのさ」


 「そんな話を聞くとちょっと切なくなりますね」


 晴香は少し悲しそうに俯く。


 「とはいっても、人に害をなすタイプのものは放置する訳には行かない。昔は其れを相手にする機関もあったが今の時代は廃れちまった。だから原因不明の失踪や死亡がなくならないのかもな」


 「なんとかなりますか?」


 晴香が懇願する様に鮫島を見る。


 「其ればかりはやってみないと分からないな。相手は妖怪に落ちたと言っても元は神様だからな。正直に言うと自信はないな」


 「そんな」


 落胆する晴香の肩を鮫島が叩く。


 「とはいえ、活路は必ずあると思う。奴が厄介なのは被害者の存在を隠し、関係者の記憶にまで影響を及ぼすという事だ。何故かは分からんが晴香の記憶が蘇る事でそれが露呈した」


 「其れが君の言う奴の歪みなのか?」


 渡部が顎を摩りながら聞く。


 「あぁ、そうだ。隠すという事は露呈されると対策が見つかる可能性があるって事だ。奴らは人間の理想が作り出した完璧な存在だ。故に、弱点は無い。が、元が人間の意識の集合体である以上欠陥は必ずある」


 「何故? あると言いきれるんだ?」


 渡部の質問に鮫島はにやける。


 「人間は不完全で神にはれないからだ」


 「成程、それなら納得できますね」


 渡部もまたにやける。

 二人がこの顔をした時は事件解決の目処がついた時である。


 「さて、露呈された内容の中に奴の欠陥がある。今の情報から奴の存在を歪める方法を考えようじゃないか」


 鮫島は楽しげに会議でも始めるかの様に席につく事を促す。


 「どうせ、そのあたりは僕頼みなのでしょ? まったく、困った人ですね」


 渡部は言葉とは裏腹に待ってましたとばかりに不敵に笑う。


 「え、えっと。頑張ります」


 戸惑いながら座る晴香の目にはこのエキセントリックな二人が何故か小説に出てくる英雄の様に見えた。


 「と、なると。今回の黒幕は、黒幕って言う言い方も可笑しいな」


 鮫島は何かを呟きながら最後に席についた。

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