古銭の誘い 1
その夜は寝苦しかった、季節はもう春になろうかというのに肌寒くトイレが近くなってしまう。
後藤は寝る前に布団の脇に脱ぎ捨てた黒を基調とした和服の美女の刺繍が入ったスカジャンを跨いでトイレにいく。
「寒いと小便が近いな、いっそ酒でも喰らって寝ちまうか......」
後藤は冷蔵庫を開けると梅酒と蒲鉾を取り出した。
蒲鉾を齧りながら梅酒の栓を開けるとそのまま一気に煽った。
「こいつは、中々効くな。これなら眠れそうだ」
何も無い床を歩き布団に入る、先程とはうって変わり直ぐにまどろみ始めた。
どれくらい経っただろうか、後藤は静かな森で目覚める。
ここはどこだろう? 考えるが程なくして夢であると気付く、周りを見渡すと洋館があった。
無意識に足が動く、どうやら洋館を目指すようだ。
その洋館は赤いレンガで造られていた、大きな2階建てで玄関の真上にはバルコニーがある。
そのバルコニーに中世ヨーロッパの様な上品な洋服を着た儚げな美女がいた。
その女性はバルコニーで紅茶を飲んでいた、後藤に来るように促す。
往ってはいけない!と、後藤の中で警鐘が鳴り響く。
中々来ない事に焦れた女性が席を立つ、後藤は後ろを振り返らずに来た道を走って戻った。
気がつけば、朝になっていた。
「なんだ? 今の」
全身が汗で濡れていた、内容的に恐怖を連想させる者など何も無かった。
が、後藤は言葉に出来ない不安を消すことは出来なかった。
ぐぅ~~~
腹の虫が泣いた、そういえば昨日は夕食を食べていなかった。
「腹が減ったな、飯でも食いに行くか」
後藤は起き上がると着替える、赤いカジュアルシャツに茶色のジーンズいつものスタイルだ。
最後にハンガーに掛かった、お気に入りの洋服の美女が刺繍されたスカジャンを羽織る。
「ん? ハンガーに掛けたかな?まぁいいや、今日こそは焼肉だな」
青いサングラスをかけ髪型を決めるとドアを開ける、どうやら今日は快晴のようだ。