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Cafe Shelly

Cafe Shelly 雪の降る日に

作者: 日向ひなた

「お客様にはお忙しい中、大変ご迷惑をおかけしております…」

 ふぅ、この新幹線に間に合うように仕事を終わらせたのに。あの苦労はなんだったんだよ。やっぱりタクシーの運ちゃんの言うとおりだったなぁ。雪がひどくなってきたから電車は動かなくなるかも、なんてことを言ってたが。しかし電車に乗り込んでからしばらく様子を見ます、はないだろう。急いで乗り込んだから、飲み物も食料も買ってないし。こんなに時間があるんだったら何か買っておけばよかった。

「いやぁ、こんなに雪がひどくなるとはね。新幹線、動きますかね?」

 隣に座っている男性がにこやかに話しかけてきた。正直なところ、今はあまり誰とも話をしたくない。

「どうですかねぇ」

と、外を眺めながら答えた。

 今回の仕事、はっきり言って失敗。商談は成立しなかったし、私がいない間に部下はヘマをやらかすし。明日会議が朝イチであるから、間に合うようにこの新幹線に乗り込んだらこのざまだし。それともう一つ失敗したのは、携帯電話の充電を忘れて出張に出た事。さっき家に「今から帰る」と連絡したとたん充電切れ。この状況を連絡することもできない。ホント、私はついてない。

「いやぁ、しっかしついてるなぁ」

 はぁ? こいつ、何言ってんだよ。こんな雪で新幹線に閉じこめられた状況がついてるだと? 私はちょっとムッとした表情で隣の男を見た。歳は私と同じくらいか。スーツ姿なのを見ると、私と同じく出張でこちらに来たようだ。それにしても、何が楽しいのかやたらとニコニコしている。

「一本どうですか?」

 彼は突然缶ビールを二本取り出して、一本私に手渡した。

「あ、どうもすいません。じゃぁいただきます」

 普通なら見ず知らずの人にビールなんかもらうなんてことはしないのだが。なぜだか彼の雰囲気に引き込まれて、つい手を出してしまった。実のところ、新幹線の暖房でのどがからからになっていたのも確かだった。

「いやぁ、ついてる。こうやって一緒にビールを飲める相手がいるなんて」

 まぁ私もそう言われればついている。こうやってのどが渇いたところでビールをごちそうになれたのだから。

「じゃ、かんぱい」

 彼はそう言って手に持った缶ビールを軽く上げて、おいしそうにごくごくと飲み出した。

「あ、おつまみもありますよ。いやぁ、一人で飲むなんてつまらないですからね。さ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 彼はがさごそと足下の袋をさぐり、さきいかを取り出した。

「それにしても私はついてますよ」

 男は独り言のようににこやかに話し始めた。

「私ね、九州育ちなんですよ。だからこんなにたくさんの雪を見るのってほとんどなくて」

「じゃぁ、九州からここまで出張で?」

「いえいえ、今住んでいるのは…」

 聞いてびっくり!

「え、じゃぁ私と一緒なんですね。いやぁ、奇遇だなぁ」

 今までこわばっていた私の顔も、心なしか緊張感が解けた気がした。まさかこんな雪の北国で同じところに住んでいる方と出会えるとは。

「どうせですから…」

 相手は自分の名刺を差し出した。私も内ポケットからあわてて名刺を取り出す。

「酒井さん、ですね。食品会社の営業課長さんですか」

 私も彼と同じようにつぶやく。

「真鍋さんは商社のお仕事ですか。マネージャーって肩書き、かっこいいですね」

「いえいえ、十名ばかりの小さな会社でね。肩書きなんて勝手につけているようなものですよ。私の兄が経営者で。会社の方針で、部長とか課長なんて堅苦しい肩書きはやめようって。まぁそれを提案したのは私なんですけどね」

 真鍋さんを見ていると、仕事がとても楽しそうに見える。それに引き替え私は…。

「やはり今は不景気でお仕事も大変じゃありませんか?」

 今度は私の方から話題を切り出してみた。この話題を切り出すと、ほとんどの人は「いやぁ、ホントそうですね」といったたぐいのことばで返してくる。大阪で言うと「もうかってまっか?」「ぼちぼちでんな」という、ほとんどあいさつ言葉のような話題だ。ところがこの真鍋さんから出た言葉は意外であった。

「いやぁ、おかげでもう仕事が楽しくて楽しくて」

「えっ、おたくそんなに儲かっているんですか?」

「いえいえ、儲かっているわけじゃないですよ。売り上げはよその会社さんと同じく厳しいですけどね。でもそのおかげで楽しくて楽しくて」

 この真鍋という男の言っている意味がよくわからない。会社は厳しい状況なのに、何が楽しいのだろう? それを聞こうかどうしようか迷っていたところ、真鍋さんは自分からこう言い出した。

「こんな厳しい状況だからこそ、アイデアがいっぱい出てくるんです。どうしたらもっと良くなるだろう、どうしたらもっと喜ばれるものを提供できるだろうかって。そしてそれを一つ一つ行動に移していく。おかげで今日なんかこうやってこんなところまで来る事ができたし。そしてこうやって酒井さんとも出会えましたしね」

 まぁものは考えようだな。

「真鍋さんってプラス思考の方なんですね」

 実は半分嫌みも込めてそう言葉にした。別に真鍋さんに恨みはない。だが、私自身落ち込んでいる状況なのに、こんなにニコニコしている人を見るとうらやましいを超えて恨めしく思えてしまう。

「酒井さんのところはやはり厳しいのですか?」

「えぇ、まぁ」

と、生返事で終わらせようと思った。だが心の奥では自分の今の状況を誰かに訴えたい。そんな衝動がふつふつと湧いてきている事にも気づいていた。その衝動の堰を切ったのは、真鍋さんの次の一言だった。

「私、そういう人のお力になりたいんですよ。よかったら話を聞かせてください」

 最初は躊躇した。しかし心の奥の衝動は止められない。

「私ね、今とても苦しいんですよ。売り上げが減っているのは私のせいじゃないのに。上からはハッパをかけられるばかりでなんのフォローもないし。部下は部下で何も考えずに行動するものだからヘマばかりやらかすし。今回も商談がうまくいきかけたのに、最後の詰めで上司に判断を仰ごうと思ったらノーのサイン。このくらいの金額、なんとでも回収できる範囲なのにどうしてそのくらいのことがわからないかなぁ」

 私はここでふぅっとため息をついた。会社や上司に対しての愚痴を言い始めればいくらでも出てくる。正月に同窓会があったときも、話題は不景気から始まって愚痴の言い合いばかりだったし。ふとそれを思い出して、私はビールを一気にのどに流し込んだ。

「酒井さん、私尊敬しますよ」

 またまた真鍋さんのえっ! という意外な発言。その言葉に私は驚きの表情を隠せなかった。

「尊敬って、どういう意味ですか?」

「だって、酒井さんは会社の事をしっかりと考えておられる。上司の判断が誤っていたと思っているってことは、それだけ自分の考えが会社の利益になるという自信があるからです。それに部下に対してもそう。どうにかしてこいつらをなんとかしてやらないと、そういう思いがあるからこそ、部下のヘマが目につくんですよ」

 そう言われて悪い気はしなかった。けれど、そんなに真剣に会社の事を考えているわけではない。

「私、そんな大それた人間ではありませんよ。単に自分の思いと違うところが気に入らない。そう思っているだけです」

「そこなんですよ! 自分が思っていないのに実はそんな行動をしている。それこそ私が尊敬する部分なのです」

 真鍋さんの言葉の波状攻撃で、私の気持ちはさらに軽くなった。

「真鍋さんってホントにプラス思考の方ですね。私こそ尊敬しますよ。まるで今そのものを楽しんで生きているって感じがしますね」

 私は真鍋さんを見る目が変わってきた。

「いやぁ、私も一年ほど前まではこんな感じではありませんでしたよ。いつも愚痴や不満ばかりもらしていた、そんな人間でした」

 真鍋さんは遠い目をしてそう漏らした。

「え、そうなんですか? でもどこでそんなふうに?」

「いやぁ、秋頃だったかな。ある方との出会いが私を変えたんです。いや、ある方というよりも、あのコーヒーとの出会いといった方がいいでしょうね」

「コーヒーとの出会い?」

 コーヒーでこんなにも人生の考え方が変わるなんて。一体どんな出会いだったのだろうか?

「その話、よかったら聞かせてもらえませんか?」

「えぇ、よろこんで。でもその前に、ちょっとトイレに行って来ますね」

 その間に、私はふと窓の外に目をやった。外は大粒の雪が舞っている。どうやら今日中には帰れそうにない。まったく、ついていない。そう思ったときに、さっきの真鍋さんの言葉を思い出した。

「ついてるなぁ…か」

 なぜだかこの言葉が口から出ていた。それに気がつくと、笑っている自分がそこにいた。

「お待たせしました」

 程なくして真鍋さんは手を拭きながら戻ってきた。

「さて、私のコーヒーとの出会いの話でしたよね。あれは確か十月に入ったときだったと思います。秋とはいえまだ暑い日だったのを覚えていますよ」

 私は話し始めた真鍋さんを食い入るように見つめた。

「私の取引先で文具屋さんがいるんですけどね。この人がとてもおもしろい方で。話し好きでよくいろんなことを教えてくれるんですよ。そして常にプラス思考でね。でもあの頃私たちの会社は厳しい状況にありまして。いつも渋い顔をしていましたね」

 まるで今の私のようだ。そうすると私にとっての真鍋さんは、真鍋さんにとっての文具屋さんってことになるのか。

「でも今の真鍋さんはそうじゃないですよね。どうなったのですか?」

「そんなとき、文具屋さんがこんな話をしてくれたんです。働くってどういう意味があるのか、知っていますかって」

「働くの意味ですか?」

「えぇ、酒井さんはどう思います?」

「働くって、にんべんに動くって書きますよね。だから人が動けば働くってことじゃないんですか?」

「では今から私がこの新幹線を前から後ろまで往復してきます。これで私は働いた事になるんでしょうかね?」

「あ、いや、働いた事にはなりませんよね」

「実は私も同じように答えたんです」

 真鍋さんは笑いながら私に語った。

「では働くってどういう意味があるのですか?」

「文具屋さんが言うには、働くは『はた』と『らく』に分けられるそうです。『はた』とは漢字では『傍』と書きます」

 真鍋さんは手のひらの上で漢字を書いて見せた。

「これは傍らという意味ではなく、周りの人のことを言うんだそうです。そして『らく』は楽しいの『楽』です。つまり、周りの人を楽しくさせる、楽にさせる。これが働くの語源だとか」

「なるほどぉ。つまり周りの人を楽しませたり楽をさせることをしないと働いたとは言わないんですね」

 自分でそう言ってハタと気づいた。私は周りの人を楽しませたり楽をさせたりするような仕事をしていただろうか。

「酒井さん、今思った事を私も同じように思ったんですよ。自分は本当に働いていたのだろうかって」

 真鍋さんは私の表情を読みとったのだろうか。あまりにも図星だったのでちょっと驚いた。

「その文具屋さんってすばらしい考えの持ち主なんですね」

「実はここにもう一つ裏があったんです。彼に『すばらしいですね』ってお伝えしたらですね…」

「そしたら?」

「彼はこう言うんです。実はこれ、知り合いの喫茶店のマスターの受け売りだって。さらに話を聞くと、このマスターがとてもおもしろい人で」

「ど、どんなふうにおもしろいのですか?」

 私は真鍋さんの話にぐいぐい引き込まれていった。

「このマスター、人生で大事な事をよく話してくれるそうです。先ほどの『働く』の意味もそうですが、他にもイメージすると現実になるとか、口癖で人生が変わるとか」

「それ、私にも教えて下さい!」

 私は思わずそう言ってしまっていた。心の奥には常に今を変えたい、現状を打破したいという願望がある。けれど現実を目の前にしてしまうと、その対応に追われていつしかあきらめてしまっている自分がいた。

「ははは、酒井さん私とまったく同じ反応をしますね。私も文具屋さんに今の酒井さんとまったく同じように迫ったんですよ。酒井さん、今の現状をなんとか変えたい、自分を変えたいと思っているでしょう」

「えぇ、まぁ」

「けれど自分を変えるというのは不可能なんですよ」

「えぇっ、自分を変えるのが不可能って…でも真鍋さんは自分を変える事ができたんですよね?」

「いえ、実は厳密に言うと自分を変えたわけではないのですよ」

「自分を変えたわけではない、というと?」

「その話をする前に、コーヒーとの出会いの方を進めましょうか。文具屋さんがよく行く喫茶店のマスター、この人に私も興味を持ちまして。一度連れて行って下さいってお願いしたんです。もちろん喜んでということになりまして。早速翌日、一緒に喫茶店に向かったんですよ」

「マスターってどんな方だったんですか?」

 私は続きを早く聞きたくてうずうずしている。ビールの空き缶を持つ手にも力が入り、ギュッと握りつぶしていた。

「その喫茶店、小さなお店なんですけど入るととても落ち着くんですよ。そしてかわいらしい女性の店員とマスターの二人でやっているんです。店員さんは若いんですけど、マスターの奥さんらしくて。そして肝心のマスターはなかなか渋い方でね。年齢は四十台半ばじゃないかな。にこやかな方で、それでいてビシッとしたところも感じられる方でした。聞けば以前は高校の先生をやっていたそうです」

「へぇ、高校の先生が喫茶店をね」

「えぇ、喫茶店を開くのが昔からの夢だったんですって。で、この喫茶店の目玉が今からご紹介するコーヒーなんですよ」

「まぁ喫茶店ですから、コーヒーには自信があるんでしょうね」

「いやぁ、ここのコーヒーはひと味違うんです。飲んだ人が今欲しい物の味がするんですよ」

「今欲しい物の味? どういうことですか? コーヒーの味が変わるって事ですか?」

 まさか、そんな変なコーヒーがあるなんて。私はちょっと鼻で笑ってしまった。しかし真鍋さんは大まじめな顔で私にこう言った。

「私も最初は信じられませんでしたよ。しかし文具屋さんがあまりにも熱心に薦めるものだから。半信半疑で飲んでみたんです。そしたら…」

「そしたら?」

「最初の一口で、私はまるでどこかにトリップしたような感覚に襲われました。あのときに味わったのは一言で言うと感動ですね。といっても、感動を受けるのではなく感動を与える、そんな感覚です」

 真鍋さんの目つき。それは自己陶酔しているようにうっとりとしたものになっていた。それこそ、何か薬物でも飲んでトリップしたのではないかと思うくらいだ。

「何か変な成分が入っているコーヒーじゃないでしょうね?」

 私は疑いの目でその話を半信半疑で聞いた。

「いや、とんでもない。マスターはそんなことしませんよ」

「そうそう、そのマスターってどんな人なんですか? もう少し教えて下さいよ」

 私はあえて話題をそらそうとした。

「そうでしたね。でもマスターの話をするのにこのコーヒー、シェリー・ブレンドのことは欠かせないんですよ。私がシェリー・ブレンドを飲んだときに、マスターからどんな味がしましたって聞かれたんです。そこで私は素直に、人に感動を与える感覚がしたって伝えたんです。そしたらマスターが…」

「マスターが?」

「それはすばらしいって。そして、こんなふうに言ってくれました。今、ひょっとして人に感動を与えたくても、気持ちがそこに追いついていないんじゃないですかって。そう言われて思い出しました。私が最初に兄の会社で営業をやり始めたときの事を」

「どんなことだったんですか?」

「私は最初から兄の会社で働いていたわけではないんです。大手家電メーカーの営業をやっていまして。でも大手のやり方ってなんだかなじめなかったんですよ。見るものは数字ばかりで、人に目を向けていなかった。そしてそのやり方があたりまえって風潮があったんです」

「その気持ちわかりますよ。私も今、上司から数字の事ばかり言われていますからね」

「そんなとき兄から会社を興すから手伝ってくれないかと声をかけられました。私が不満を漏らしていたことを兄は知っていましたから」

「ではそれで転職して、自分のやりたい営業スタイルをやり始めたんですね」

「それがですね…理想と現実の違いをまざまざと見せつけられましたよ。兄の会社も立ち上がったばかりで、新規顧客をつけるためにあの手この手を展開して。人に目を向けるなんて意識はどこかに行ってしまいました。そして気がつけば、前の会社とまったく同じ営業をやっていた事に気づいたんです。いや、気づいたのはシェリー・ブレンドを飲んでマスターに質問されたときでしたね」

「それで、マスターとはどうなったんですか?」

 私はまるで今の自分を真鍋さんに投影しているようだった。まさに同じ思いをしていたからだ。

「私はマスターから『感動を与えたくても気持ちが追いついていないんじゃないですか』って言葉を聞いて、素直にそうですって答えました。そして今お話ししたようないきさつを話したんです。そしたらマスターがまた意表をついた言葉を私に与えてくれたんですよ」

「ど、どんな言葉なのですか?」

「だったら、なおさらすばらしいって。これ、どういう意味かわかりますか?」

 なおさらすばらしい。私のような凡人にはマスターの言いたい事が理解できない。このマスター、一体何者なのだ?

 悩んでいる私の顔を見て、真鍋さんは笑いながらすぐにこう答えてくれた。

「私もそのときには意味がわかりませんでしたよ。でも一緒に喫茶店に来てくれた文具屋さんからこう言われました。真鍋さん、今自分がやらなければならないことに気づいているなんてすごいじゃないですかって。世の中の人の多くは、今の状況に不満を漏らすだけで自分が何をしなければいけないかに気づいていない。だから状況は何も変わりはしないんだって」

「なるほど。なんだかそういう会話をしていると、勇気が湧いてきますね」

 私はなんとなく心が軽くなってきている事に気づいた。そしてもっと次の話を聞いてみたい。そんな思いに駆られた。

「それから真鍋さんは変わったのですか?」

「えぇ、あのシェリー・ブレンドが私を気づかせてくれた。そしてあのカフェ・シェリーに行けば私は変われるかも知れない。そう思って、それから営業の合間に通うようになったんです」

「それで真鍋さんは変わったんですね」

「いえ、そうではないんですよ」

「そうではないって…でも以前の真鍋さんと今の真鍋さんでは全然違うものになったんじゃないんですか?」

 そうではない、とは一体どういう意味なのだろうか?

「さっきも言いましたが、自分を変えるっていうのは不可能なことなんですよ」

 それはさっきも聞いた。でもその意味がわからない。真鍋さんと話をすると、意味のわからないことだらけだ。しかしそのあと真鍋さんの話を聞くと納得さられた。

「その意味、もう少しわかりやすく説明してくれませんか。現に真鍋さんは変わったのではないのですか?」

「えぇ、私も最初は変わりたい、そう思っていました。しかしカフェ・シェリーに何度も足を運ぶうちに気づいたんです。というよりも今度はマイさんに気づかされた、と言った方がいいかな」

「マイさんって誰ですか?」

「あぁ、カフェ・シェリーの店員さんでマスターの奥さんです。この方、まだお若いのにとにかくすばらしい感性を持っていて。なんでもカウンセリングやセラピーの勉強をされているそうです」

「で、そのマイさんに何をどうやって気づかされたのですか?」

「私が何度かカフェ・シェリーに足を運んでいたところ、ある日マイさんからこう言われました。真鍋さん、なんだか最近本当の自分を取り戻したみたいだって」

「本当の自分?」

「えぇ、本当の自分です。人はもともと心の中に本当の自分がいるそうなんですよ」

「心の中に本当の自分が?」

「マイさんが言うにはですね、人は長い間の人間関係やまわりの環境に応じるための適応能力ってのがあるらしいんです。それに合わせるために、本当の自分とは少し違う仮面をかぶっていくんですって。しかし気がついたらその仮面をいっぱいかぶりすぎて、本当の自分が覆い隠されてしまうんだそうです」

 なるほど、言われてみればそうかもしれない。私だって最初から今みたいな性格ではなかったはずだ。

「思い出しましたよ。私、高校の頃野球部でキャプテンやっていたんです。自分で言うのもなんですが、結構リーダーシップをとって部員をまとめていたと思います。けれど今はしがない中間管理職。世渡りをしていくうちに、あの頃のようなイキイキとしたリーダーシップをとりながら活動するなんてこと、忘れてしまっていましたね」

 私は遠い昔を懐かしむかのようにそう語った。

「私も似たようなものです。小学生の頃から人を笑わせるのが好きでね。ひょうきんものだと言われていました。けれど中学になって、好きな女の子から軽蔑のまなざしをうけましてね。たぶんそれ以来じゃないかな。そういう自分を封印してしまったのは」

 真鍋さんも同じだったのか。

「じゃぁその仮面を取っていくってことをすればいい。そういうことですか?」

「これも残念ながら完全に取り去ることはできないらしいんです。やはり仮面が必要な場面も多々ありますからね。しかし仮面の奥にある本当の自分、まずはそれをもう一度思い出すことが必要なんですよ」

 真鍋さんの言っていることはよくわかる。しかしここで一つ疑問が。

「でも、その本当の自分が正しい姿とも言えないのではないでしょうか? 例えば私だったら、高校の頃のキャプテンでリーダーシップをとる姿というのは正しい姿かも知れません。けれど、あの頃はリーダーシップなんていうことをあまり意識してなかったですからね。とにかく後輩には厳しく接していました。おかげでうとましく思われたときもありましたよ。まぁあの時代は先輩後輩ってのが厳しかったですからそれでも問題なかったのですが。でも今の時代にそれをやってしまうと、周りから浮いてしまうことになりますよね」

 私は高校生時代のころを思い出しながらそんな不安を語った。あの厳しい姿が本当の自分だと思うと、それを否定したくもなった。

「酒井さん、私とまったく同じ疑問を抱いたようですね。私も真っ先にそう思いましたよ」

 そうか、真鍋さんも同じことを思ったのか。

「で、そんなふうに思ったらどう考えればいいのですか? やっぱり自分を変えるしかないと思うのですが…」

「私も同じようにマスターにマイさんに質問したんです。そしたらこんな風に言ってくれました。変えるんじゃない、積み重ねるんだって」

「積み重ねる?」

「そう、積み重ねるんです。そもそも自分を変えるっていうのは、今までいた自分を全て否定して新しい自分になるってことですよね」

「えぇ、今までの自分がイヤだからそうしたいんです」

「酒井さん、本当に今までの自分を全て否定してみたいですか?」

「えっ、そ、それは…」

 真鍋さんにそう言われて言葉に詰まった。確かにイヤだった自分はいる。けれど全てイヤだったわけではない。大事にしたい自分もそこにはいる。

「ね、だから人は自分を変えることはできないんです。否定したい自分もそこにいます。特に仮面をかぶった自分はね。けれどそうではない自分もいる。だって、誰だって自分はかわいいですから」

 私は真鍋さんの言葉に首を縦に振るしかなかった。

「そのかわいい自分は変えたくない。だから根本的に人は自分を変えることができない、というのがマイさんの言葉です」

「しかし、しかしですよ。自分を変えたいっていう人はたくさんいますよね。私だって今そうなんですから」

 真鍋さんの言葉に思わず反論してしまった。言っている意味がわからないでもない。けれど、今は自分を変えたいという欲求の方が強いのだから。酒井さんは私のこの言葉を冷静に受け止めてくれた。

「その通りですよね。私だってそのときはそう思いましたから。そしたら私とマイさんの会話を聞いていたマスターがこんなことを言ってきたんです。真鍋さん、ちょっとシェリー・ブレンドを飲んでみてくれませんかって」

「えっ、シェリー・ブレンドを、ですか?」

「はい。私はそのとき、マスターの言うとおりにしてみました。そしたら気づいたんですよ」

「気づいたって、どんなことに?」

「そのときのシェリー・ブレンドが見せてくれたもの。それは自分の心の奥底に潜んでいるものを浮かび上がらせるというイメージでした。まるで海底に沈んだ宝物が引き上げられた、そんな感じです。けれどそこにもう一つ新しいイメージが。その宝物はそのままでは使えない。磨き上げ、さらに壊れたところを修正する。そうして初めてみんなに見てもらえる宝物に生まれ変わる。そんな世界でした」

 確かに真鍋さんの言うとおりだ。せっかく引き上げた宝物も、人に見せられるようなものにしないと価値は上がらない。ここで気づいた。

「真鍋さん、わかりましたよ。マイさんやマスターが言いたかったのは、せっかく引き上げた本当の自分も周りに認められるように磨きをかけないといけない。つまり自分を変えるのではなく、本来の自分をもっと磨き上げる。それが正しいやり方だってことなんじゃないですか?」

「そう、その通りです。私もシェリー・ブレンドを飲んだときにそこに気づきました。そしてそのことをマスターに話したのです。そしたらマスター、こんなおもしろいたとえ話をしてくれましたよ」

「どんな話なんですか?」

「そうですね、わかりやすく実演してみましょう」

 真鍋さんはそう言って足下の袋からおつまみを一つとりだした。それは珍味のまぐろの角煮。

「人って、経験すればするほどいろいろなものを積み上げていくんです。こんなふうにね」

 真鍋さんはそう言いながらおはしで四つほど角煮を積み上げた。

「しかし、自分を変えてしまいたいというのは、今まで積み上げてきたものを全部バラバラにして、新たに積み上げなおそうということと同じなのです」

 真鍋さん、今度は積み上げた角煮をハシでつついてバラバラにしてしまった。そしてまた新しく角煮を積み上げる。

「これってとても労力が必要なんです。だって長年積み上げてきたものをゼロにして、また同じくらいまで積み上げようというのですから。しかし、本来の自分を磨き上げるというのは…」

 今度はさきほど積み上げた四つの角煮の上にもう一つ角煮を積み上げた。

「ほら、こうやって今まで自分が積み上げた経験や知識を活かしながら、新たなものを積み上げる。こうすればレベルアップするのにそんなに労力も時間もかからないでしょう」

「なるほど、これはわかりやすいですね。私は今まで自分を変えたい、変えたいとばかり思っていました。けれど何一つ変わらなかった。これは変えたいという言葉の裏に、またゼロからスタートしなければいけないという危惧の念もあったわけだ。だから何一つ行動を起こそうとしなかった…」

 これは口から先に出た言葉だった。

「私はマスターからこのことを教えられました。あ、私の場合は角砂糖で教えてもらったんですけどね」

 真鍋さんから教えてもらったことで、私の中で何かが吹っ切れた気がした。

「それから真鍋さんはどうしたのですか?」

「マスターの言葉に気づかされましてね。マイさんのアドバイスももらいながら、これからどう行動すればいいのかを考えましたよ。あ、マイさんってカラーセラピーもやっていて、自分が今からどんな行動をすればいいのかの助言ももらえるんです」

「カラーセラピーって、なんですか?」

「う~ん、なんて言えばいいのかなぁ。百種類くらいある二色のボトルを選んで、その色で今の心理状況やこれから先のことを判断してくれるんです。占いみたいなものだけど、占いとは違うんですよ。どちらかというと、カウンセリングに近いですね」

 ふぅん、そんなのがあるんだ。一度受けてみたいな。

「それで、何をやろうということになったのですか?」

「えぇ、まずは本来の自分がどういうものかを整理しました。そして出た結論が、人に笑顔を与えること。これだったんです」

 人に笑顔を与える。なんていい響きなんだろう。

「じゃぁそのために何を磨こうとしたんですか?」

 私は目の前に積まれているマグロの角煮を見て、ふとそんな質問を思いついた。

「えぇ、これもマイさんから引き出してもらいました。私が磨こうとしたのは、人の話を聴くことです。私、かなりおしゃべりなんですよね」

 人の話を聴く、これは私もできていないような気がする。

「具体的にはどうしようと?」

「これがですね、マスターからとてもいい人を紹介されまして。コーチングってご存じですか?」

「えぇ、聞いたことはあります。確か上司が部下にやる気を引き出させるために行う技術、じゃないですかね?」

「私も最初はそう思っていました。けれど本物のコーチングに触れたら、それがとんでもない間違いだってわかりましたよ」

「本物のコーチング?」

「はい。カフェ・シェリーの常連さんに、コーチングを行うプロの方がいらっしゃいましてね。羽賀さんというんですけど、マスターからこの人を紹介されて。今は話を聴くことを訓練するコーチングを受けているんです」

「羽賀さん、羽賀さん…どこかで聞いたことがあるような…あっ、あの人か!」

「酒井さん、羽賀さんをご存じで?」

「えぇ、思い出しましたよ。学校のPTA講演で親子のコミュニケーションについてお話をして頂いたことがありまして。講演というよりは、私たちにいろいろと問いかけて考えさせてくれたので、おもしろくて退屈せずに聞けたのを覚えています。確かあのときも子どもの話を聴くってことをしきりに言われてました」

 私はそう話ながら、講演者であった羽賀さんの姿を徐々に思い出していった。

「その話、私も羽賀さんから聞きましたよ。おかげで家庭でもちょっと意識をするようになりましたしね。さらに職場、そしてお客さんに対しても聴くことを意識してやってみたんですよ。そしたらですね…」

「そしたら?」

「驚いたことに、お客さんからの注文が入り出したんです。おたくだから、ということで信頼を得ることができはじめたんですよ。さらにもともと人を笑わせたりすることが好きな性分ですから。といっても寒いオヤジギャグは使わないように気を遣ってますけどね」

「ははは、確かにオヤジギャグは人を凍らせちゃいますからね。でも真鍋さんってすごいなぁ。そうやって自分を磨いていくことで自分を変えることができたんだ。あ、自分を変えたんじゃなかったんでしたね。でも端から見れば、大変革ですよ!」

「ホント、おかげさまで自分自身というものが見えてきました。もともと性分にあった方向で進めば、何事も楽しんで精進できるってこともわかったし。おかげで今は毎日が楽しいんですよ」

 毎日が楽しい。私もそう言ってみたいものだ。真鍋さんは私のその気持ちを見透かしたのだろうか。

「酒井さん、楽しい毎日を過ごしてみたいと思いませんか?」

「そりゃぁ…楽しく過ごせればそれに超したことはありませんけど…」

「だったら、まずは自分自身を見つめてみましょうよ」

「でも、どうやって?」

「せっかく同じところに住んでいるんですから。私と同じ手を使えばいいんですよ」

「真鍋さんと同じ手?」

「そう、私と同じ手。今度は私が酒井さんを案内しますよ。カフェ・シェリーに」

 なるほど、カフェ・シェリーで私も真鍋さんの言うあのコーヒー、シェリー・ブレンドを飲んでみるといいのかもしれない。真鍋さんの言うとおりであれば、きっと私にも何か見えてくるはずだ。

「そうですね、ぜひ案内して下さい。でもその前に、私たち無事に帰れるんでしょうかね?」

 そう言って私は窓の外をふたたび眺めた。大雪はまだまだ降り積もっている。この分だと間違いなく今夜は新幹線の中で眠る羽目になるだろう。

 ちょうどそのタイミングで車内アナウンスが。どうやら予感的中のようだ。アナウンスによると、今夜は新幹線の運行は見送るとのこと。

「あらあら、そうなっちゃったか。これはまたついてるなぁ」

 アナウンスの声に真鍋さんはまた最初と同じようなセリフを吐いていた。

「あの…真鍋さん、一つ聞いてもいいですか?」

「えぇ、なんでしょうか?」

「最初の時も気になっていたのですが。真鍋さん、悪い状況になるとついてる、ついてるって言いますよね。これ、何か意味があるのですか?」

「あぁ、これですね。これはマスターから聞いたんですよ。言葉って波動があるんですよね。で、波動って共鳴して引き寄せあうんだそうです。ほら、音叉の実験があるのご存じですか?」

「音叉の実験って、一方を叩くともう一方が鳴り出すってあれですか?」

「そう、同じ固有振動数を持つ物同士が共鳴しあうってやつです。これは全てにおいて起きる現象なんだそうです。ほら、類は友を呼ぶってあるじゃないですか。これも共鳴現象の一つだそうですよ」

 なるほど、言われてみればそうだ。私は真鍋さんの言葉に思わず納得。

「そこで、マスターから教えてもらったのは悪いことが起きたときこそついてるって言葉を使うといいってことなんです。悪いことが起きたときに嘆きの言葉や非難する言葉を使うと、またそれを引き寄せちゃう。悪いことを逆転させたければ、よい言葉を使うといい。それがついてるって言葉なんです。だから今、私は酒井さんと出会ったんですよ」

 真鍋さんはそう言うと、先ほど積み上げていたマグロの角煮を一切れ口にポイと入れた。なるほど、真鍋さんの言うとおりだ。おかげで私も今、とてもいい時間を過ごさせてもらった。

「なんだかこんなにたくさんおしゃべりしたのも久しぶりですねぇ。ビールのせいもあるかな」

「いえいえ、真鍋さんのおかげで私はこれからが楽しみになってきましたよ。今までは目先の仕事のことしか見えていなかったですから。そしてそれをどうやり過ごそうか、そのことばかり考えていました。おかげで毎日がつまらなかったんです。けれどなんだかワクワクしてきました。本来の自分を取り戻し、さらに磨きをかける。そうすることで真鍋さんみたいな人に変われる、あ、違った。真鍋さんみたいな人にグレードアップできるってのがわかりましたから」

「グレードアップってのはいいですねぇ。私も早速そのフレーズを使わせてもらいますよ」

 私と真鍋さんは顔を見合わせてハハハと笑う。その笑いはこれから先の未来を象徴するかのようだった。

 たった一本の缶ビールではあったが、真鍋さんとのおしゃべりで気持ちも軽くなるのと同時に疲れも回ってきたようだ。私は気がついたらうつらうつらとしていた。時計を見ると深夜の時間。新幹線の中はシーンと静まりかえっていた。隣を見ると真鍋さんも寝息を立てている。

 私は窓の外を眺めてみた。雪はもうやんでいる。このぶんだと明日の朝には新幹線は動きそうだ。

「ついてる…か」

 ふとそうつぶやいてみた。たったそれだけだったが、なんとなく気持ちが軽くなった。よし、今度の土曜日にでも真鍋さんに早速カフェ・シェリーに連れて行ってもらうかな。きっとそこで本当の自分が取り戻せる。そして本当の自分にさらに磨きをかけることができる。そうなることを心から願っている自分にあらためて気がついた。

 もう少し寝ることにするか。そう思ってみたものの、一度目が覚めてしまったらなかなか寝付けるものではない。私はもう一度外の景色に目をやる。この雪が私の人生を変えてくれた。いや、変えたんじゃない。本来行くべき方向に向かわせてくれた。きっとこの雪は神さまからのプレゼントなんだろう。そう思ったら、思わず天に両手をあわせてしまった。

 そして再び目をつぶる。明日という日を夢見て。きっと明日は、いやこの先はずっと楽しい日になるだろう。本当の自分がそこにいるから。そしていつしかまた私は眠りについていた。


「酒井さん、酒井さん」

 遠い意識の向こうで名前を呼ばれた。

「酒井さん、新幹線動き出しましたよ」

「え、あ、あぁ…」

 目を開けるとまばゆいばかりの光。空は青く、太陽が雪に反射して目に照りつける。そうか、昨日は新幹線に閉じこめられてたんだった。

「これでやっと家に帰れますね」

 となりには相変わらずにこやかな顔をした真鍋さん。そうだった、私はこの人のおかげで人生が変わる、いや磨きがかけられることに気づいたんだった。

「えぇ、そうですね」

 私も笑顔でその言葉に返事をした。それから乗り換えの駅に向かうまで、昨日の話の続き。といっても、真鍋さんがしゃべることの方が多かったが。最終目的地が一緒なので、乗り換えた後も隣に座って話をした。おかげで真鍋さんという人がさらに見えてきた。

「ではまたお会いしましょう」

 駅についてからは別々の方向へ。真鍋さんがそう言って別れようとしたとき、私は言い残したことを伝えた。

「あ、真鍋さん。今度カフェ・シェリーに連れて行ってくださいよ」

「えぇ、もちろん喜んで。私の連絡先は名刺にありますので、いつでも遠慮無く電話してくださいね」

「はい、ではまた!」

 こうして私は新たなる一歩を踏みしめた。


「酒井さん、こっちこっち」

 真鍋さんと出会った翌週の土曜日。駅前で待ち合わせて一緒にカフェ・シェリーへと向かうことになった。真鍋さんはあれから一度カフェ・シェリーへと足を運び、私のことを話してくれたそうだ。マスターも店員のマイさんも私と会うのを楽しみにしてくれているとか。

「へぇ、この通りにあるんですか」

 パステル色のブロックが敷き詰められた細い通り。道の両端はブロックでできた花壇が並んでいる。何度か通ったことはあったが、こんなところに喫茶店があるとは知らなかった。

「ここですよ」

 真鍋さんは二階へ上がる階段を指さした。なるほど、二階だから気づかなかったのか。

 足取りも軽く先行して階段を上る真鍋さん。私は胸をドキドキさせながら一歩一歩踏みしめるように階段を上る。真鍋さんがドアを開ける。

カラン、コロン、カラン

 心地よいカウベルの音。それと同時に甘い香りが漂ってくる。期待に胸をふくらませて、私は店の中へ一歩足を踏み入れる。そして目に入ったのは、カウンターでにこやかに笑う男性と若い女性の姿。マスターとマイさんだ。

「いらっしゃいませ。カフェ・シェリーへようこそ」

 ここから私の物語の第二章がスタートした。


<雪の降る日に 完>

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