虹
数年前に、文化祭で配布した部誌に書いたものをベースにしています。
もし仮にそれを読んだという方へ(いないと思いますが)
大丈夫です、安心してください。多少内容が似てても書いてる人は同じです。
──虹の下には幸福があるという。
「ねぇ、見て!お姉さん、虹!」
雨上がり。
澄み渡った綺麗な青空に、見事な弧を描く虹が出ていた。
「…あら」
近所に住む兄妹の妹が指差すほうを見上げて、微笑む。
──あぁ、本当に。…綺麗な虹だ。
「…そういえば虹の根元には幸福が埋まってるんだって」
「え?お山の向こうじゃないの?」
「ふふ、まるでカール・ブッセの詩みたいね」
「カール・ブッセ?」
「ぼく、聞いたことあるかも」
「そうねぇ、有名な詩だから。もしかしたら、教科書に載っているかもしれないわね」
──山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとと尋めゆきて、
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。
綺麗な詩だ。不思議と、心が揺さぶられるような何かがある詩でもある。
「お姉さん、すごーい!」
「ありがとう」
「…でも、幸せって、遠いんだね」
「あら、どうしてそう思うの?」
「だって、そうでしょう?お山の向こうも、虹の根元も、とてもとても、遠いじゃないか。ぼくたちには、とうていたどり着けそうもないよ」
「…ふふ、そうかしらね?そうとも限らないわ。限界を決めるのは、いつだって自分たちだもの。諦めなければ、山の向こうの幸せにたどり着くかもしれないし、虹の根元に埋まってる幸福だって、見つけられるかもしれないわよ?」
何があるかわからないからこそ、人生というものは楽しいのだ。視線をあげたその先には、きっとまた、それまでとは違う、さまざまな景色がたくさん見えているはずなのだから。
「ねえ、見て、お兄ちゃん!」
妹の声につられた彼は、驚いたように目を見張ったあと、嬉しそうな顔をして、幸せそうな顔で、笑った。