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EscapeGoat  作者: 鈴木崇嗣
11/27

Extra Episode 白露の暴露話



西暦4192年4月1日。

時刻が深夜0時を過ぎ今日が昨日に、明日が今日になった現在の日付(ひづけ)は4月2日。

とある飲み屋の片隅(かたすみ)で彼女達は語らっていた。


「ありがとう・・・やっぱり白露(はくろ)に相談してよかった」


「・・・」


「えぇ?ダメだよ、あんな三佐(ゴリラ)じゃ・・・マジメなのはわかるけど戦場のイロハと、乙女の心は別物。強くてマジメで料理が出来ても堅物(かたぶつ)だしムキムキゴリラだし・・・まぁそういうのが好きな人にはいいだろうけど」


「・・・」


「何言ってんだよ。つーかそんな事ばっか言ってるとあらぬ(うわさ)が立ちますぞ?白露(はくろ)三佐(さんさ)の事が好きなんだって」


「・・・」


「えっ・・・今なんて?ウソでしょ、えぇっ!?いや、ちょっ・・・マジで!?」


「・・・」



(かえで)の思いに感化(かんか)されたのか頬を赤らめた白露(はくろ)は今まで誰にも言えなかった"想い人への気持ち"をカミングアウトする。

とんでもない暴露(ばくろ)話に(かえで)の身体はまさに石化した。

(かたわら)にスタンバイさせていたオレンジジュースを一気に飲み()すと、わざとらしく自分の頭を指でグリグリしてみては白露(はくろ)の言葉の意味を理解しようとする。

何か深い意味があるのか?それともそのままの意味なのか?もしそうだとしたら・・・。

言葉のニュアンスを変えながら白露(はくろ)に問い掛け、何度も何度も確認をした結果(かえで)はとろけたスライムのような、なんとも言えない不思議な表情を浮かべ1つの結論を(みちび)き出した。

途端(とたん)先ほどまでの泣きっ(つら)がまるで嘘のように彼女の顔は明るくなる。

(むし)ろこれは涙のあとに芽吹(めぶ)く花。

この瞬間2人のスイッチはシリアスからファニーに180度路線を切り替え、本音と本音がぶつかり合い可憐(かれん)にして残酷を地で行く禁断の花園(はなぞの)、乙女の恋バナモードへとシフトチェンジする。

陳腐(ちんぷ)な飲み屋の一角(いっかく)(つど)うは恋に恋する恋の虫。

そしてそれらを(さそ)い込んでは(ことごと)く喰らい尽くす蠱惑(こわく)の花とネペンテス。

一度(ひとたび)覚醒状態になった(かえで)はもう止まらない。

ガンガンッ!と(から)のグラスをテーブルに打ち付け木槌(ガベル)()るう裁判官よろしく彼女はビシッと人差(ひとさ)し指を立てながら早速(さっそく)白露(はくろ)に突きつける。


「んんっ!被告人駿河(するが)白露(はくろ)に問う。(なんじ)は、なにゆえに山本(やまもと)三佐(さんさ)好意(こうい)(いだ)くのか?」


「・・・♡」


「コラッ!ニヤけながら答えるな!相手はゴリラだって事をわかってるの!?」


「・・・」


「いや、見た目じゃないってそりゃわかるけど・・・そもそもキッカケはなに!?(しゅ)を超えた愛が芽生(めば)えたキッカケってヤツは!?」



ほろ酔い気分の白露(はくろ)(かえで)に振り回されるままその()()めを語る。

(さかのぼ)れば5年前の冬。

当時17歳の女学生だった白露(はくろ)は"ある事"がキッカケで源以(げんい)三佐(さんさ)の2人と出会い、まさにそれこそが運命の始まりだった。

ある意味で生涯(しょうがい)忘れる事のできない出会いとなったそれを()に、寡黙(かもく)な乙女は10歳以上の歳の差をモノともせず非合法組織の三佐(ゴリラ)に初恋を(ささ)げる事となる。

これを白露(はくろ)に言わせれば"あの時、三佐(さんさ)さんが現れなかったら自分は今頃どうなっていたか"との事なのだが、それに対する(かえで)の反応は"大袈裟(おおげさ)だなぁ"の一言だけで以降(いこう)その()()め話が発展する事はなかった。

しかし白露(はくろ)の言う"今頃どうなっていたか"とはそんな簡単な言葉で()まされるモノではなく本当の意味で生きるか死ぬかを意味していた。

そんな事など(つゆ)知らず、早く次の段階に進みたい一心(いっしん)(かえで)()かされ結局1番肝心な部分は語れず(じま)い。

自ら話をふっておきながら好きな物から先に食べ尽くすタイプの(かえで)にとって前置き(オードブル)など無用の長物(ちょうぶつ)

それでも白露(はくろ)に言える事、それはかつて源以(げんい)が語った "福祉技研(ふくしぎけん)内部は十人十色(じゅうにんといろ)決して隠す事の出来ない様々(さまざま)な闇を(かか)えた者達が(ひし)めき合っている"という言葉には当てはまらず、(むし)ろその闇を三佐(さんさ)()(はら)ってくれたからこそ今の彼女がいると言う事だけ。

つまり彼女がこの非合法組織に居続ける理由は他に行き場がなかった事よりも三佐(さんさ)に対する感謝と(ちゅう)、それから"(あわ)い恋心"にあった。

いつか来るべき時が来たらその事についても話そうかと思っていた白露(はくろ)だが、少なくとも今はその時ではないらしくグラスにそこそこ残ったリキュールを一口で飲み()すと、また新しくグラスを頼む。

(かえで)からは"よく飲むねぇ"と(あお)りを食らうが今日だけは特別。

久々に楽しいと思えるこの一時(ひととき)乾杯(かんぱい)して彼女は何度目かのリキュールを口にする。


「で、結局どうなんだ!?白露(はくろ)三佐(さんさ)と付き合いたいとか考えてるのか?」


「・・・」


「そっかぁ・・・じゃいつか"山本(やまもと)白露(はくろ)"って名前になるのかぁ」


「・・・!!」


「えぇ?だってそうじゃん?そう言えば今月の終わりって振替(ふりかえ)休日だったよね!?そん時に2人で休み合わせてデートでもしちゃえばいいんだよ!」


先走る(かえで)突拍子(とっぴょうし)もなくデートプランを語り出す。

どうやら彼女の脳内シュミレーションでは現状よりも5ステップほど話が進んでいるらしい。

喜ぶべきか困惑すべきかとりあえず愛想(あいそ)笑いで言葉を返した白露(はくろ)はグラスを片手に一応(かえで)のプランに耳を(かたむ)ける。



「まずね、今のままじゃ服装がダメなの。白露(はくろ)はスタイルいいのに、そのチノパンにシンプルすぎるシャツが全部を殺してるんだよ。だからスバリ言うと(あし)を出した方がいい!まだちょっと寒い季節だけど大胆(だいたん)(あし)()せてみよう!それから靴もスニーカーじゃなくてサンダルブーツとかでエロさを演出して髪も(ほど)いてみたり・・・あとはそのビン底メガネだね」


「・・・」


「別に変じゃないよ!(むし)ろその地味な服装の方が変だよ!なんかガードが固すぎるというか、守りに(はい)りすぎて全然ダメ!!」



意外に確かな目利(めき)きを披露して本来の彼女が隠し持っていた素材(スタイル)の良さを見極める(かえで)は辛口ジャッジのもと次々に良い所、悪い所を指摘(してき)していく。

絵に描いたような理想的ボディライン、セミロングの清楚な黒髪、透き通るような色白の肌。

それら強力な武器を持っているハズの白露(はくろ)がいまいちパッとしないのはやはり自他(じた)共に認める彼女の代名詞にして最大のネック、全ての元凶にして(もっと)()むべきオッドアイを隠す為に使用しているビン底メガネが原因だと結論付けた(かえで)はそこにメスを()れていく。



「他人の視線が怖いのはわかるよ。白露(はくろ)にとってそれがトラウマだって事も知ってるし・・・でも三佐(さんさ)の前だけなら大丈夫でしょ?(むし)ろ大丈夫でなきゃ困る!」


「・・・」


「わかんないよ?だって、あのゴリラ絶対に女()れしてないでしょ?だからメガネの奥に隠した素顔を()せれば案外1発かもよ?ほら、よくギャップ()えって言うじゃん」


「・・・?」


「えぇ?なにを基準にギャップかって?そりゃアレだよ・・・ほら・・・わかるでしょ!?」



しかし所詮(しょせん)(かえで)のプラン、()めが甘いのもお約束。

肝心なところでビシッと決められないあたり、なんだかんだ言ってもやっぱり(かえで)だなぁと嘲笑(あざわら)いながら、女を()せる為の貴重な意見として彼女の言葉を一語一句(いちごいっく)()かす事なく記憶した。

その後、話題のビン底メガネを白露(はくろ)から奪い取った(かえで)はそれを装備してオレンジジュースを片手に大炎上、時間が()つにつれて調子も絶賛右肩上がり。

そんな(かえで)に対して若干(じゃっかん)の温度差を感じながらもまんざらではないリアクションをする白露(はくろ)

内気で奥手(おくて)で困った事があるとすぐ、あたふたしてしまう彼女だが今回ばかりは自らの意思で本気の覚悟を決め、来たる日に向けて自分を(みが)く事を宣誓(せんせい)する。

誰にも語らず静かに燃やしていた恋の炎を宿(やど)した白露(はくろ)に対して、(かた)や自分が恋バナの中心にいようとは夢にも思っていない料理上手な三佐(ゴリラ)

()たして2人はどうなるのか。

この結末は西暦4192年4月30日(デート予定日)の振替(ふりかえ)休日にわかるとして、今は彼女達に期待しつつ吉報(きっぽう)を待て。

願わくば乙女の行く(すえ)に光があらん事を・・・。

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