Extra Episode 白露の暴露話
西暦4192年4月1日。
時刻が深夜0時を過ぎ今日が昨日に、明日が今日になった現在の日付は4月2日。
とある飲み屋の片隅で彼女達は語らっていた。
「ありがとう・・・やっぱり白露に相談してよかった」
「・・・」
「えぇ?ダメだよ、あんな三佐じゃ・・・マジメなのはわかるけど戦場のイロハと、乙女の心は別物。強くてマジメで料理が出来ても堅物だしムキムキゴリラだし・・・まぁそういうのが好きな人にはいいだろうけど」
「・・・」
「何言ってんだよ。つーかそんな事ばっか言ってるとあらぬ噂が立ちますぞ?白露は三佐の事が好きなんだって」
「・・・」
「えっ・・・今なんて?ウソでしょ、えぇっ!?いや、ちょっ・・・マジで!?」
「・・・」
楓の思いに感化されたのか頬を赤らめた白露は今まで誰にも言えなかった"想い人への気持ち"をカミングアウトする。
とんでもない暴露話に楓の身体はまさに石化した。
傍にスタンバイさせていたオレンジジュースを一気に飲み干すと、わざとらしく自分の頭を指でグリグリしてみては白露の言葉の意味を理解しようとする。
何か深い意味があるのか?それともそのままの意味なのか?もしそうだとしたら・・・。
言葉のニュアンスを変えながら白露に問い掛け、何度も何度も確認をした結果楓はとろけたスライムのような、なんとも言えない不思議な表情を浮かべ1つの結論を導き出した。
途端先ほどまでの泣きっ面がまるで嘘のように彼女の顔は明るくなる。
寧ろこれは涙のあとに芽吹く花。
この瞬間2人のスイッチはシリアスからファニーに180度路線を切り替え、本音と本音がぶつかり合い可憐にして残酷を地で行く禁断の花園、乙女の恋バナモードへとシフトチェンジする。
陳腐な飲み屋の一角に集うは恋に恋する恋の虫。
そしてそれらを誘い込んでは悉く喰らい尽くす蠱惑の花とネペンテス。
一度覚醒状態になった楓はもう止まらない。
ガンガンッ!と空のグラスをテーブルに打ち付け木槌を振るう裁判官よろしく彼女はビシッと人差し指を立てながら早速白露に突きつける。
「んんっ!被告人駿河白露に問う。汝は、なにゆえに山本三佐に好意を抱くのか?」
「・・・♡」
「コラッ!ニヤけながら答えるな!相手はゴリラだって事をわかってるの!?」
「・・・」
「いや、見た目じゃないってそりゃわかるけど・・・そもそもキッカケはなに!?種を超えた愛が芽生えたキッカケってヤツは!?」
ほろ酔い気分の白露は楓に振り回されるままその馴れ初めを語る。
遡れば5年前の冬。
当時17歳の女学生だった白露は"ある事"がキッカケで源以、三佐の2人と出会い、まさにそれこそが運命の始まりだった。
ある意味で生涯忘れる事のできない出会いとなったそれを機に、寡黙な乙女は10歳以上の歳の差をモノともせず非合法組織の三佐に初恋を捧げる事となる。
これを白露に言わせれば"あの時、三佐さんが現れなかったら自分は今頃どうなっていたか"との事なのだが、それに対する楓の反応は"大袈裟だなぁ"の一言だけで以降その馴れ初め話が発展する事はなかった。
しかし白露の言う"今頃どうなっていたか"とはそんな簡単な言葉で済まされるモノではなく本当の意味で生きるか死ぬかを意味していた。
そんな事など露知らず、早く次の段階に進みたい一心の楓に急かされ結局1番肝心な部分は語れず終い。
自ら話をふっておきながら好きな物から先に食べ尽くすタイプの楓にとって前置きなど無用の長物。
それでも白露に言える事、それはかつて源以が語った "福祉技研内部は十人十色決して隠す事の出来ない様々な闇を抱えた者達が犇めき合っている"という言葉には当てはまらず、寧ろその闇を三佐が薙ぎ払ってくれたからこそ今の彼女がいると言う事だけ。
つまり彼女がこの非合法組織に居続ける理由は他に行き場がなかった事よりも三佐に対する感謝と忠、それから"淡い恋心"にあった。
いつか来るべき時が来たらその事についても話そうかと思っていた白露だが、少なくとも今はその時ではないらしくグラスにそこそこ残ったリキュールを一口で飲み干すと、また新しくグラスを頼む。
楓からは"よく飲むねぇ"と煽りを食らうが今日だけは特別。
久々に楽しいと思えるこの一時に乾杯して彼女は何度目かのリキュールを口にする。
「で、結局どうなんだ!?白露は三佐と付き合いたいとか考えてるのか?」
「・・・」
「そっかぁ・・・じゃいつか"山本白露"って名前になるのかぁ」
「・・・!!」
「えぇ?だってそうじゃん?そう言えば今月の終わりって振替休日だったよね!?そん時に2人で休み合わせてデートでもしちゃえばいいんだよ!」
先走る楓は突拍子もなくデートプランを語り出す。
どうやら彼女の脳内シュミレーションでは現状よりも5ステップほど話が進んでいるらしい。
喜ぶべきか困惑すべきかとりあえず愛想笑いで言葉を返した白露はグラスを片手に一応楓のプランに耳を傾ける。
「まずね、今のままじゃ服装がダメなの。白露はスタイルいいのに、そのチノパンにシンプルすぎるシャツが全部を殺してるんだよ。だからスバリ言うと脚を出した方がいい!まだちょっと寒い季節だけど大胆に脚を魅せてみよう!それから靴もスニーカーじゃなくてサンダルブーツとかでエロさを演出して髪も解いてみたり・・・あとはそのビン底メガネだね」
「・・・」
「別に変じゃないよ!寧ろその地味な服装の方が変だよ!なんかガードが固すぎるというか、守りに入りすぎて全然ダメ!!」
意外に確かな目利きを披露して本来の彼女が隠し持っていた素材の良さを見極める楓は辛口ジャッジのもと次々に良い所、悪い所を指摘していく。
絵に描いたような理想的ボディライン、セミロングの清楚な黒髪、透き通るような色白の肌。
それら強力な武器を持っているハズの白露がいまいちパッとしないのはやはり自他共に認める彼女の代名詞にして最大のネック、全ての元凶にして最も忌むべきオッドアイを隠す為に使用しているビン底メガネが原因だと結論付けた楓はそこにメスを入れていく。
「他人の視線が怖いのはわかるよ。白露にとってそれがトラウマだって事も知ってるし・・・でも三佐の前だけなら大丈夫でしょ?寧ろ大丈夫でなきゃ困る!」
「・・・」
「わかんないよ?だって、あのゴリラ絶対に女慣れしてないでしょ?だからメガネの奥に隠した素顔を魅せれば案外1発かもよ?ほら、よくギャップ萌えって言うじゃん」
「・・・?」
「えぇ?なにを基準にギャップかって?そりゃアレだよ・・・ほら・・・わかるでしょ!?」
しかし所詮は楓のプラン、詰めが甘いのもお約束。
肝心なところでビシッと決められないあたり、なんだかんだ言ってもやっぱり楓だなぁと嘲笑いながら、女を魅せる為の貴重な意見として彼女の言葉を一語一句欠かす事なく記憶した。
その後、話題のビン底メガネを白露から奪い取った楓はそれを装備してオレンジジュースを片手に大炎上、時間が経つにつれて調子も絶賛右肩上がり。
そんな楓に対して若干の温度差を感じながらもまんざらではないリアクションをする白露。
内気で奥手で困った事があるとすぐ、あたふたしてしまう彼女だが今回ばかりは自らの意思で本気の覚悟を決め、来たる日に向けて自分を磨く事を宣誓する。
誰にも語らず静かに燃やしていた恋の炎を宿した白露に対して、方や自分が恋バナの中心にいようとは夢にも思っていない料理上手な三佐。
果たして2人はどうなるのか。
この結末は西暦4192年4月30日(デート予定日)の振替休日にわかるとして、今は彼女達に期待しつつ吉報を待て。
願わくば乙女の行く末に光があらん事を・・・。