第2話:月島薫と不幸の元凶
どうも、赤頭巾です。
このような駄文ではありますが、精一杯やっていくのでこれから何卒、よろしくお願いしまっす!
チャイムの音が鳴ったのは、月島薫が風を当たってくるといってから
ものの2〜3分もしないうちだった。
「…アイツ、ホントに打ち所悪かったんじゃないかなぁ…」
少しだけ不安に駆られる日野朝日ではあったが、
まぁいいや、と不安を振り切り授業の準備をする。
午後の最初の授業―…。数学の教師が入ってきたのは丁度その時だった。
「で…?お前何?」
屋上でもなお、自分の頭上にフワフワ浮く幸与を見る。
自分でも驚くほど、自分は冷静だったと思う。
こんな時だけ自分のトラブル処理能力に感謝すべきかもしれない。
そもそも、自分はトラブルに巻き込まれることが多い。
何故か知らないがよくケンカの真っ只中に居て、
見ず知らずの人達の仲裁役になってしまうのだ。
薫本人としては、好きなだけやらせるのが良いと思う。
人は白黒しっかりつけるからこそ、納得できる生物だと思うから。
と言うか、生物全体にいえるような気もする。
しかしそういうわけにもいかないのだ。
周りの目、と言うものがある。
トラブルはトラブルを呼ぶ事は薫自身良く知っていた。
だからこそ、早く事態を収拾するのが一番良い事も知っている。
だがさすがに、幾ら自分が不幸な人間と自覚して生活していてもだ。
今回の事は流石に初めてのケースだ。
「さっちんは、さっちんなのです♪」
帰ってきた返答は実に子供らしい答えと言うか、卑屈な答えと言うか。
ただ頭上に浮かぶ少女に悪意は感じられない。
当たり前の事に当たり前に反応しただけだ、といわんばかりの笑顔を浮かべていた。
「質問を変えようか。何で俺にだけ見えるんだ?」
「取り憑いていますから♪」
改めて聞かされる取り憑くという言葉。
「あー…さっちん?」
「はい?」
「俺取り憑かれるような事したかな?」
んー?と頬に指を当て小首を傾げる姿はとても愛らしい。
状況が状況で無ければ、本当に心奪われていたかも知れない。
「それは光栄です。」
「…気安く人の心読むなよ…」
若干うな垂れて、屋上の柵に体重を預けた。
「あ。」
声を零したのは幸与だった。
恐らく月島薫に言わせれば不幸と言う奴かも知れない。
偶然にも屋上に取り付けられた柵は、薫の体重を預けた箇所だけ外れかかっていたのだ。
「え?」
気付いたときは、既に視界は逆さになっていた。
俺…もしかして落ちてる?
「えぇ、そのようです♪」
あああああぁぁぁ…と叫びながら、月島薫は15メートルほど下の地面へと落下していった。
結局アイツ、サボる気なのかしら?
窓側の一番後ろの席から目の前の席に目をやる。
ポツンと空いた席を見て、時計に目を移すと既に授業終了5分前。
「ま、今更着たってね…」
誰にも聞こえない声で朝日は呟いてから、ハァとため息をつく。
何処で何してるのかしらね…と窓の外に顔を向けた。
外では体育に励むクラスの姿が見える。
暑い中良く頑張るわね。何て感想を抱きながらただ呆然と外を見ていた。
瞬間、目の前が暗くなった。
いや、視界が遮られた。
「…ぁぁぁあああぁぁぁ…」
落下するそれと朝日は目があった。
ほんの一瞬ではあったが、確かにその落下物は月島薫だと朝日は理解した。
だが理解は出来るのだが、状況がまるで飲み込めなかった。
本当にアイツは頭がおかしいのか。
それともおかしくなったのか。
あぁ、もしかしたら私がおかしいのか。
「先生。ちょっと顔洗ってきます。」
とにかく冷静にならなくては。と思い朝日は教師の返答など聞かず教室を出て行った。
朝日が教室をでた瞬間に、終了のチャイムがなった。
「…あれ・・・?俺…生きてる?」
とりあえず自分の顔や、頭、身体を手当たり次第触ってみる。
…ケガも無い。
少し背中が痛む程度だった。
偶然にも落ちた先が茂みだったおかげだろう。
「…俺にしては珍しく幸運…て奴なのか?」
「いえ、それは多分恐らく絶対違うのです♪」
自分の幸運はあっけなく否定された。
否定したのは頭上に浮かぶ黒髪の少女。
長い長い髪が薫に当たってるように見えたが、実際の所感触は無い。
どうやら彼女は本当に霊的存在らしい。
「…で?何で俺が助かったのが幸運じゃないわけ?」
「えーと、正確に説明すると、幸運ではあったのですが、貴方本人のものでは無いのですよ」
「…はい?」
「詳しく説明しますとですね。貴方はには借運と言うものがありましてですね。
それをキッチリ支払っていただくまでは死なれると困るのですよ♪」
「まて、俺は借金なぞした覚えは無いぞ。」
「借運です。貴方がしてなくても、貴方の親がなさってるのですよ。ですが今現在貴方の親は残念ながら
生存は確認されていません。ならば子である貴方に支払って頂くのは当然でしょう?人間社会でも、
それは当たり前の事じゃありませんか?」
それはヤの付く仕事をなさっている方々の事だろうか…。
…ん?待てよ?それじゃ俺が普段不幸なのは…
「お前の…せいとか?」
「はい、お察しの通りです♪」
屈託の無い笑顔が、これ以上憎く見えるのか。
何か怒りを通り越して呆れるような顔を薫は浮かべた。
「それから私は『お前』でなく愛と親しみを込めて、『さっちん』とお呼びください♪」
「…えーと…なんだっけ?シャクウン?語呂ワリィな。それって借りれるなら返す方法あんだろ?」
立ち上がり、制服に付いた草や土を払いながら頭上を見上げる。
話を聞いた幸与は、おぉー、と拍手して見せた。
「ご名答♪いやぁー薫さんはアホっぽい顔して意外と鋭いですね♪」
「…アホっぽいは余計だ…。で、どうすれば返せるんだ?その借運はよ。」
「ずばり、労働していただきます♪」
ある程度予想はしていたが、まさか当たるとは思わず深くため息をついてうな垂れる。
「…なぁさっちん。借運とか言うのを返すのって…労働以外方法無いの?」
「ウーンとですね、返すというか、逃れる方法ならありますよ♪」
「まじか!どんなんだ?」
「子供に継承させるのです♪」
朝日は落下予想地点とも思われる中庭へと向かった。
半信半疑ではあったが、もしかしたらと言う可能性もある。
それにちょっと責任を感じていたからだ。
中庭まで行くと、頭上に向かって言葉を向ける月島薫の姿が目に入った。
ウワァ、心配した私がバカだった。と朝日は心底バカにした目で薫を見つめた。
しかし何も無い頭上に向かって話すなんて…本当に大丈夫かしら。
その時、薫はこちらに気付いたのか、朝日の目など気にせず走り寄ってくる。
「…アンタ、屋上から落ちたのよね?そのまま死ねばまだ幸せだっただろうに。」
「そんな事より朝日!俺がもっと幸せになる方法があるんだ!」
「えぇ…貴方の頭はホント幸せだと思うけど。」
「詳しい話は省くけど、俺と子供を作ろう!朝日」
空気が凍りついた。
いや、正確には凍りついたのは朝日だけなのだが。
顔を真っ赤にして朝日は震えていた。
「…えと、朝日?」
「ホントに、死ねばよかったのに。ていうか死ね!」
ヘビィ級のボクサーもビックリするほどのボディブロー。
見事に薫のみぞに決まり、薫はその場に崩れ落ちた。
「…心配した私がバカだったわよ!」
オラオラ!とまだやり足りないのか、倒れた薫をゲシゲシと蹴り続けた。
よほど良い拳だったのだろう。
薫が目を覚ましたのは放課後だった。
誰も居ない保健室。
薫に言わせれば頭上に一人いるのだが。
「なぁさっちん。」
「はい♪何でしょう?」
「労働は何すれば良いんだ?」
「実に賢明な判断なのです♪」