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第1話:月島薫の不幸の始まり

自分の17年間の生活を振り返ると、広がるのは何だろうか。

初めの5年間くらいは、楽しかった気がする。

その後は、―…正直な所、生きてこれたのが奇跡に近いくらいだったかもしれない。

人から見たら不幸なのかも知れない。

それはそうだ。自分でも幸せな人生と言えるものでは無いと思う。

だけど、俺は立っている。

まだ地面に根をはれている―…。



世界中の何処を探したって、幸せって言うものは売っていない。

当たり前だ。人には価値感が存在するから。

例えば、誰かにとってはゴミのようなものかも知れない。

けど、それは自分にとっては大切な物なのかも知れない。

ようするに、自分で見つけるしかないんだ。

幸せのより所って奴を。

「ふぁぁ〜…」

大きく欠伸をしてから、身体を起こす。

今日の身体の体調はいつも通り。

良くも無く、悪くも無く。

大きく伸びを入れてから、時刻を確認する。

電子時計はしっかりと8:25と表示していた。

一瞬目を疑って、自らの携帯電話を確認する。

時刻は一つ進んで8:26。

ハハ、と渇いた笑いを浮かべて月島薫(つきしまかおる)は猛スピードで着替え、古アパートのドアを思い切り開き、狭い通路を走り、駐輪場の自らの自転車に勢い良く跨った。

薫の住むアパートから学校まで自転車で約10分。

朝のHRは8:30。

どう考えても間に合わない。

一瞬諦めようかと考えて、自転車を漕ぐスピードを緩めたが、ブンとサボるような頭を振り、足に力を入れる。

真面目―…な訳ではない。

が、ただ単に薫は責任感が強い…のかも知れない。

とにかく、中途半端が嫌いだった。

引き分けとか、そういうのが大嫌いなのだ。

しっかりと白と黒をつける。

簡単に言ってしまえば灰色的立場が嫌いなのだ。

道中、2、3度車にクラクションを鳴らされ「すいません!」何て腰の低い態度を見せながら、足は緩めなかった。


「それじゃ、授業始めるぞー」

学校について、自分のクラスに入ったときに聞いた第一声だった。

静かな教室のドアをガラっと勢い良く開けて、オマケに肩で息をする薫にクラス中の視線が集まる。

「あ、…すいません遅れました」

ペコリと一礼。

瞬間、教科担任はハァとため息をつく。

「…ギリギリ出席にしといてやる、ほら、準備しろ月島。」

現国の担当の鈴村(すずむら)静華(せいか)

新任の教師にも関わらず、ふてぶてしく、男らしい態度だが、容姿もそして教え方も悪くは無い。むしろこの学園の教師陣の中では、まさしく華と言って良いだろう。

最も、静か、とは程遠いのだが。

「月島っ!ボケっとしてねーでとっとと座れっ!」

「はっ!はいー…」

クラスから失笑が漏れる。

少し恥ずかしそうに顔を伏せて、自分の席である窓側の後ろから二番目の席に座る。

ようやく息を整えてから、机の中に埋まった現国を取り出す。

…ページがわからない。

静華はサラサラと黒板に何やら要点だどうのだのを書いている。

不意に、薫は後ろからシャーペンで突かれた。

何だろう、と思い後ろを振り返ると、無言で開いた教科書をトントン、と指差す。

どうやらページを伝えたいようだ。

122ページ…か。

「サンキュー助かった。」

「五月蝿いぞ!月島っ!」

静華が勢い良くチョークを飛ばす。

そのチョークは見事に薫の眉間を捕らえていた。

ハァ、と薫の後ろの席の女生徒は頭を抱え、知らん振りを決め込んでいた。

クラスからまた失笑が漏れて、薫は顔を真っ赤にしていた。


「まったく、アンタ何の為に私がジェスチャーで伝えたかわからなかったの?」

授業が終わり、後ろからその一言。

振り返るとネクタイをつかまれ、身体をギュっと引き寄せられた。

この、ショートカットに意志の強そうな切れ目をした、容姿端麗の女生徒は薫の幼馴染でもある日村朝日(ひむらあさひ)だ。

その鋭い眼光に、思わず身を一歩引いてしまう。

「え、えと…すみません」

と、とにかく謝ってしまう。

「…まぁいいわ、アンタには最初から期待してないし」

深いため息をわざとらしく入れて、朝日は肩を落とした。

「なぁ、朝日。あんま気負いすぎると老けるぞ?」

「誰のせいよ!」

瞬間ボディブローが薫に入った。

「…い、良い拳持ってるな…朝日…」

「…うっさいわ!」

顔を真っ赤にして、とどめの一撃。

一体俺が何したっていうんだ…。


朝は遅刻。注意されて赤っ恥。現国は静華に「お前補習決定」と笑顔で言われ、今は朝日の良い拳を身体で受け止める…。


あぁ…今日も俺、不幸なのかもしれない…。



何て自分は不幸なんだろうか。

そう思う瞬間は人間誰でもあると思う。

だけど、時々俺は思うんだ。


―とてもじゃないが、俺は不幸すぎやしないだろうか?

昔からそうだ。

マラソン大会の日は決まって横ッ腹が痛くなったし、

プールに入ると何故か風邪引くし。


横断歩道が青なのに今までで20回以上は弾かれかけてるし。

アパートの自分の部屋だけ雨漏りが猛スピードで進行するし。


まるで何かに憑かれてるじゃないか、と思うくらいだ。

昼休み、そんな他人にしてみればくだらない事を考えていた。


「あややー?意外と鋭いですね…えーと…月島薫さん?」

自分の頭上から声がした。

とても信じられないかも知れないが、そこにはキレイなくらい真っ黒で、その声の主の身長と同じだけ伸ばされた黒い髪が伸びていた。

―彼女は教室の天井に張り付いていた。


目を疑った。

何だこれ、ホラーか?あぁ、何だホラーか。アハハー。

状況についていけないのか、些か錯乱した。

「大丈夫です!怪しいものじゃありません!」

「…ジョークか?その格好で」

自分の名前を呼んだ…その、天井に張り付いた彼女は俺の視界にただ長く漆黒な髪を揺らしている。どう見たって怪しい。

「えと、気付いてるみたいなので姿現しちゃいました。テヘ☆」


ここでようやく薫の思考が追いついた。

この余りの非常自体をどうすれば良いのか。

しかしまぁ、良く自分がこの状況下で叫ばなかった冷静さを持っていたものだと関心した。

どうすべきか。決まってる。逃げるのだ。

勢い良く自分の席を立ち上がり。もうダッシュ

の、予定が足がもつれて見事に教室のドアに突っ込んだ。

「グハァ!」

余りに勢いが良すぎたのか、ドアは外れかかっていた。

その様子を見て朝日はハァ、とため息を入れて薫に歩み寄る。

「薫。…アンタもうちょっと落ち着いて生活できないの?」

「あぁ…その…すいません」

どうにも、この幼馴染の朝日には頭が上がらない。

昔からの仲だからかも知れないが、それだけでもない気もする。

この日村朝日と言う少女には、有無を言わせない何かがあるのかも知れない。


「そ、そうだ!朝日!お、落ち着いて聞いてくれ!と言うか落ち着け!」

「…アンタがね」

そう言って、わき腹にまるで常人には見えないくらいの速度の拳が入る。

肺にたまった空気が全て吐き出される。

そんな感覚に薫は襲われ、その場に(うずくま)る。

「…どうかしら?落ち着いた?」

「えぇ、おかげさまで…」

もしかしたら、不幸の元凶はコイツかも知れない。


「あぁ、えーとそれは違うですよ♪不幸の原因は多分恐らく絶対、私の仕業なのです♪」

えぇ、気付いたら目の前は漆黒で覆われてたんです。

いえ、幻想とかじゃなくてですね。

え?何で笑うんですか。

クスリ?そんな事してませんよ。馬鹿にしてるんですか?

あ、いえ、すいません。言いすぎました。ホントすいません。勘弁してください。


と脳内会議は思わぬ方向へ進みつつも、先ほどより大きなショックに薫は襲われた。

その黒髪の少女は、見事にドアにのめり込んで、顔と髪だけを出しているのだ。

「えへへー。ちょっとビックリさせてみました。」

「…」

声にならない声を出しながら、薫は目で朝日に助けを訴える。

「…当たり所が悪かったのかしら?アンタ平気?主に頭とか。」

「おま!自分でやっといて!…じゃなくて!目の前見ろよ目の前!」

と思い切り指差した。

朝日は薫が指差した方向に目線を当てるが、朝日の視界にはただ外れかけたドアがあるだけだ

「…まぁ学校だし、修理代までは請求されないでしょ。」

実に冷静な見解だった。

「ですよねー。薫君安心したよー!じゃなくて!変なのが!のめりこんでるの!」

そう言った瞬間、朝日は心底馬鹿にしたような目で薫を見つめたあと、

自分のおでこの熱と薫のおでこの熱を比べるように手を当てた。

「…診断結果でました」

「いつからお前医者になったんだよ…」

「バカです」

「ケンカうってんだろ?朝日。」


とにかく、薫以外にはこの新種ともいえる貞子は見えてないようだ。

どうしたものだろうか。

本当に俺は脳をやられたのかも知れない。

「大丈夫ですよー?幸与(さちよ)が見えてるのは薫さんだけですから♪貴方は正常です♪」

先ほどからどうやらコイツは心が読めるらしく、考えたことが会話へと繋がる。

それが何よりの証拠だ。

「正解です。さっちんは、考えが読めちゃうんです♪すごいでしょ?」

あぁ、凄い凄い。良かったなさっちん。


「さっきから何ボケッとしてんのよ?」

現実に引き戻される声。

「あ…朝日か。」

「アンタこそケンカ売ってんでしょ?」

青筋を立てて笑う幼馴染。これ以上怖いことがあるんだろうか。

とにかくこの場に居たらまたボディブローが飛んでくることは必至だ。

「…ちょっと風に当たってくるわ…」

逃げるようにして薫は教室を出た。


とりあえずお前、話があるから付いて来い。

「了解なのです♪ちなみに私の事は、先ほどのように親しみを込めて『さっちん』とお呼びくださいね♪」

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