第6話 夢オチは突然に
ちょっと、ホラー風味かもしれません。『うつつまくら』もしくは『邯鄲の枕』にインスパイアされたといいますか。
「やっぱり、お前は私達の本当の娘ではないのだな」
「え、なに、突然どうしたの!?お父さん」
「一度火葬までされて、再構成されたのが今のお前なのだろう?なら、部屋で看取った優美だけが、本当の優美だ」
「そ、そんな、そんなこと…」
「…この家から、出ていけ」
「お父さーん!」
◇
がばっ。
はあ、はあ、はあ…。
「ゆ、夢か…。あれ、あたし、泣いてた…?」
こんな夢を見るなんて、あたし、ファザコンなのかなあ…。
学校に行く支度を整え、一階のダイニングに降りていく。
「やあ、優美、おはよう」
びくっ。
「ん?どうした、優美?また、死にかけているなんて言わないだろうな?」
「お、おはよう、お父さん。や、やあねえ、そんなお約束、あるわけないじゃない」
「しかし、な。部屋でお前が倒れていた時のこと、今でも時々思い出してしまう」
「お父さん…」
あ、また涙が出そう。
はー、なんかやっぱりお約束っぽいなあ。でも、死にかけたとかって普通はないよね。
「え、えっと、優樹とお母さんはもう出たの?」
「ああ。お母さんは今日は朝イチで会議があると言っていたな。優樹は、朝練か」
「そっか。あたし、まだ時間があるから、少しお話しよっか」
「なんだ、いつものことじゃないか」
うふふ。あはは。
◇
がばっ。
「どうしたの、優美。まだお昼休み終わってないわよ?」
「あ、うん…」
クラスの机でうつ伏せになって寝ていたらしい。瑞穂が声をかけてきた。
…えっと、あたしとお父さんは仲いいよね?お父さんはお母さんとの方がもっと仲いいけど。うん、何もおかしいところはない。
「寝ぼけてるの?それとも、あの日?」
「瑞穂、お約束とはいえ、それを口に出して言わないで。違うけど」
瑞穂って、草薙くんと付き合うようになってから、性格がちょっと変わったような。少し大胆になったというか…。はっ、まさか。
「なに?」
「ううん、なんでもない。お約束すぎて聞きたくないわー」
「?」
まあ、後で草薙くんの方を尋問しよう。その方が手っ取り早い気がする。たまにはお約束を利用せねば。
「あ、優美のお父さんの新作、読んだわ。まさか、ラノベとして売り出すなんて」
「最近、マンネリ化してたって言ってたからね。あたしもまたネタを提供しちゃった」
「そうなの?でも、よく思いつくわよねえ。『テンプレートブレイカー』なんて」
「…へ?」
ちょっと待って、あたしそんなダサいネーミング知らないわよ?でも、えっと、神の使いとやらは確かに『ブレイカー』って言っていて、『テンプレート』はお約束って意味もあるから…。
「ねえ瑞穂、お父さんの新作、今持ってる?」
「うん。優美にサインもらってきてほしいなあって」
「ちょっと、見せてくれる?」
ぱらぱらっと。
え、なにこれ…。おじいさんが200歳近くとか、試験の一夜漬けとか、松永先生の奥さんとか、美術部の出来事とか…。話してない。こんなこと、お父さんに話してない!
「でも、優美のお父さんもスゴいわねえ。自分の娘を一度死んだことにするなんて」
「え、いやでも、それは既に世界的に知られていて…え?」
「私は、生き返るなら異世界がいいかな。あ、もちろん、悟くんと優美も一緒に♪」
「…あたしは…死んでない…?」
そ、それじゃあ、これまでのことって、お父さんの書いたラノベの内容?それを、昼休みの夢として見てただけ?瑞穂が『悟くん』とか、いつの間にか下の名前で呼んでることより衝撃的よ!
「そ、そんなお約束…いや、夢オチも御都合主義の一種だから、お約束じゃないの…?いや、お約束だったとしても、そもそも夢だったんだから…」
「優美、どうしたの?ホントに変よ?」
「そんな…そんな…」
◇
…ピピ、ピピ、ピピ、ピピ。
スマホにセットしてあるアラームが鳴り響く。朝か。
学校に行く支度を整え、一階のダイニングに降りていく。
「やあ、優美、おはよう」
「…おはよ」
「どうした?寝起きが悪いのか?」
「うん、まあ。まだ時間があるから、ゆっくり食べて目を覚ますわ」
「そうか。ところで、今考えている小説なんだが」
「『テンプレートブレイカー』なんてダサいタイトルはやめてね?」
「…よく、わかったな。じゃあ、」
「『お約束なんていらないっ!』も却下」
「おおう…」
よし、絶好調だ。
最終話じゃないですよ?まあ、次は第1章のエピローグですが。