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お約束なんていらないっ!  作者: 陽乃優一
第1章 異世界拒否編
5/7

第5話 ハーレムに王道なし

今回はノーコメントでお願いします(謎)。

 やっぱひとりの部活はいろいろ問題よね、ということで、クラスメートを中心に勧誘を進めてみた。しかし。


「それよりも、バスケどう?片桐さんならきっとすぐうまくなるわよ!」

「吹奏楽部に来なさいよ!楽器が弾けないなら指揮でもいいわ!」

「将棋はいいぞ!開始時刻さえ間違えなければバッチリだ!」


 熱心な逆勧誘をくらいまくった。関心がないわけではないけど、どれもこれも熱の入れようがハンパない。幽霊部員を兼ねていたあたしには疲れそうだ。ところで将棋部、時事ネタは風化が激しいってお約束があるわよ。



 なんとなくあきらめかけて、放課後の廊下をふらふらと歩いていたら、


「わっ」

「きゃっ」


 角で男子生徒とぶつかった。なんというお約束…。まあ、起きてしまったものはしかたないわね。ここから更なるお約束に発展することだけは避けてみせるわっ。

 決心を胸にあらためて男子生徒を見ると、隣のクラスの桂木啓太くんだった。確か、草薙くんが噂していた…。


「だ、大丈夫?ごめん、ちゃんと前を見てなくて」

「大丈夫よ。こっちこそごめんね。あ、あたしも拾うわ」

「ありがとう、助かるよ」


 彼は美術部員だ。持っていた画材用紙やらなにやらをぶちまけてしまったのだ。

 ふたりでそれらを集め、一緒に美術部の部室に向かって歩いていく。


「ごめんね、持たせちゃって」

「いいわよ、どうせ暇してたし」

「そうなの?片桐さん、最近忙しそうに走り回っていたけど」

「空回りだったけどね。…って、あたしのこと知ってるの?」

「そりゃあ、最近生き返った女子高生、で有名だし。世界的に」

「世界的に!?」


 あたし、天気予報以外はあんまりニュースとか見ないから、世間でどれだけ話題になったかなんて知らなかった。マスメディア攻勢はお約束感知で避けまくったし。あ、でも、道とか歩いてると、小さな子に指さされることがよくあるか。


「僕は、桂木啓太。君のとなりのクラスだよ」

「ああ、うん、桂木くんね。よろしく」


 知ってたけどね。草薙くんからの…『あいつは、女の子をはべらかしている』って噂で。



 部室に着き、画材とかを所定の位置にしまっていく。


「これで最後ね。それにしても、たくさん買ったのね」

「外出許可をもらって駅前の店に買いに行ったんだけど、ひとりだったからうまく持ちきれなくて」

「他に部員はいないの?」

「あー、うん、今日はみんな、用事があるとかで」


 ふーん…?こう言ってはなんだけど、ハーレムの主どころか、ぼっち感が漂ってるんですけど。お約束の匂いも、あまりしない。


「紅茶飲む?こんなものしかないけど、お礼に」

「ありがとう。せっかくだから頂くわ」


 こぽこぽ、とお湯を注いでお茶を淹れていく桂木くん。

 のほほほんとした子だなあ。背は低めで大人しくて。前髪がちょっと長くて、どこぞの顔がよく見えないギャルゲー主人公風ってところくらいしか、お約束は感じられない。いや、これは感知じゃなくて、あたしの先入観だわ。


「はい、どうぞ」

「ありがと。…はー、おいしいわ。お茶入れるのうまいのね、桂木くん」

「ティーバッグで大げさだよ。あ、もちろん、出涸らしじゃないよ?」

「袋から取り出したばかりの出涸らしがあったら、見てみたいわね♪」


 ぼっち感が強かったけど、コミュ障ではなさそうだ。いいねいいね、お約束じゃない。



「さて、あたしは戻るわね…あら?」

「どうしたの?」

「この彫刻、頭のところが大きく欠けてる」

「ああ、うん。デッサン用だけど、これしかなくて」


 横を見ると、描きかけのデッサンでも、欠けた姿そのままが描かれている。

 こういう彫刻って、高いって聞くよね。でも、こんなに欠けたの描いても、出展とか厳しいんじゃないかな。ローカルのコンクールだったとしても。


「ごめんなさいね。もしかして、ウチの残念な部が予算食いつぶしているせいかも」

「いや、需要の問題だよ。彫刻デッサンするの、僕くらいだし」

「そうなの?確かに、美術の時間では使わないって聞いてるけど」

「うん。この学校では、お互いがお互いを描く人物デッサンで済ませているね」


 そうなのか…。それなら…。


「ねえ、それなら、あたしが…」


 と言いかけて、はっとする。


 今、あたし、何言おうとした!?『あたしが、デッサンのモデルになろうか?』なんて、お約束もいいところの台詞を、このあたしが言いかけたの!?この夕暮れ時の、ふたりっきりの美術部の部室で!?

 なにより驚いたのは、未だに『お約束』として感知できていないことだ。これってもしかして、あたし自身が無意識にでもやってしまうお約束はわからないってこと?あたしの判断に世界の一部を委ねる、ってそういうことなの?


 ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。お約束なんかいらないって言いながら、あたしがお約束を振り撒いたら意味がない。おかずのマンネリ化は嫌と言いながら旬の魚を買いまくるようなものだわ。ああ、あまりの動揺に、例えが自分でもよくわからない。


「片桐さん?」

「え、いえ、なんでもないわ。じゃ、じゃあね、たまには音楽室も覗いてね!」

「ああ…うん。今日はありがとう」


 廊下に出て扉を閉めて、深呼吸する。…うん、悪い子じゃ、ないんだけどね。


 などと思いながら廊下を歩き始めた時、向こうから3人の女子生徒とひとりの先生が走ってきて、すれ違う。あ、美術部に入ってった。


「ちょっと桂木、買い物に行くなら声をかけてよね!風紀委員とのかけもちとはいえ、私も部員なんだから!」

「そうですわ、桂木さん。わたくしの美貌をこれでもかと表現するには、共に画材から選んでいくべきですわ。たとえ、お祖父様の祝賀パーティを欠席することになったとしても」

「15:34から16:12までは時間がとれた。実験スケジュールの調整は問題ない。私は準部員として、桂木啓太への責務を果たしたい」

「顧問まで置いてくってどういうこと?啓太くん、幼馴染のあたしじゃ信用できないってことなの?」


 えええ…。

 なに、まさかあたしも、あのハーレムの要員のひとりになりかけてたの?


「いや、みんなちょっと落ち着いて。忙しそうだったから、僕だけで買ってきて…」

「あ、なにこのカップ!?誰かといたの?女!?」


 あたしは一目散に走り去った。

今回はノーコメントでお願いします(再)。恋愛ネタは苦手なんすよ…。

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