第4話 恐怖!御都合主義
いやあ、今回の話は書いていて辛かったです。リア充○ね。
あれから、草薙くんは瑞穂と毎日下校するようになった。ようやくくっついたわねこのやろう。いや、瑞穂の気持ちにうすうす気づいていて、でも自信がなくて避けていたんでしょうね。それがお約束ってものよ。クラス全員気づいていて『うすうす』もないけど。それもお約束か。
そういうわけで、親友の瑞穂と一緒に下校できなくなったあたしは、ひとりさびしく…
「歌うわよ!」
久しく幽霊部員だった軽音楽部で歌いまくる。なお、部員はあたしだけだ。幽霊を含めて。
「事実上のカラオケ部じゃないのか?」
「そうとも言う!」
楽器全然弾けないのよ。もちろん、作詞作曲も。CDのインストとかに合わせて歌うだけ。他にあるのは、顧問の松永先生との小粋なトークだけだ。
「ウチのヤツがなぜかお前のファンでなあ。今回も録音させてもらっていいか?」
「こんなんでよければ!」
まだ20代の松永先生には、ちょー美人の奥さんがいる。既に3歳の女の子と2歳の男の子がいて、夫婦どちらの実家とも仲がいい。圧倒的勝ち組だ。
なんで知ってるかって?先生が写真マメなのよ。スマホで妻がどーの子供がどーの親がどーのと、あたしに見せてくる。イマドキ珍しいわよね。お約束のカケラもない。
「これと、秋に予定している文化祭ライブ、いや、ライブなのか?それしか成果がない軽音なんて前代未聞だな。顧問が言うのもなんだが」
「部の維持に御尽力ありがとうございます。先生のおかげですよ!」
部員が足りないから廃部なんてお約束、つまらないわよね。実のところ、私が一度死ぬまでは結構危なかった。だから、まだあるかな?と不安だったけど、ちゃんと残ってた。お約束なんていらないわー、いえー。
◇
…なーんて、調子ぶっこいてた時期がありました。
「よう、おめー、ふざけてんじゃねーぞ?」
「そーよ、あたしらが演奏できないじゃん」
「ひとりで部屋独占してんなよ、ああ?」
松永先生が出張でいない日、部室の音楽室でちょっと、いや、かなり不良の入った先輩方に絡まれました。
な、なんでこの『お約束』がわからなかったの?使ってなかった時期に裏で許可なく使われてるなんて、よくあることじゃないの!
「だいたいおめー、気に入らないんだよ。1年のくせにでしゃばりやがって」
「ちょっと先公とうまくやってるからって、なんでもてめーの都合よくいくと思ってんじゃねー!」
そんな、都合よくなんて…。都合よく…。
・お約束→多くの人が期待する定番の展開
・多くの人が期待しない変則的な展開→?
「ごっ、御都合主義っ!」
「な、なんだ、いきなり」
そうよね、探偵が行く先々で事件が起きてたら、探偵が事件起こしてるんじゃないかって疑われてもしかたがないわよね。
あたしの場合もお約束を感知して先手を打ってるんだから、周りを思い通りに動かそうとしているように見えて当然よね。反省しよう。
…それはそれとして。
「で?誰に頼まれたんですか?」
「た、頼まれたって、何がだよ?」
「その楽器、使われている様子がありませんよね。音楽室を使ってたって、嘘ですね?」
そう、つまり、これはお約束じゃない。
「なっ、何言ってんだ、俺達がそんなこと」
「そうだな、何でこんなことしてるか、聞かせてもらおうか」
「先生!」
「やべっ」
諸先輩方はあっさり捕まった。出張だがらずっと先生がいない、なんてお約束はないのよ。なんて、最初から予定を知ってただけだけど。
◇
松永先生から事の顛末を聞いて、あたしは唖然とした。強引で無理がありすぎる…。
「あー、すまんな。ウチのヤツが後輩そそのかして、お前に嫌がらせをするように言った」
「なんで、先生の奥さんが…」
「あいつ、昔この学校で裏番張ってた」
「そうじゃなくて!なぜあたしに嫌がらせしたのかってこと!」
「えーと…嫉妬?」
「…はあ?」
なんでも、音声だけじゃなく、歌っている姿も見たいと言って、ビデオ撮影して見せたらしい。で、その時初めて、部員が女子高生であるあたしひとりだけ、ってことを知ったそうな。あれ、てっきり録音するために構えていたのかと思ってたわよ。
「…リア充補正はお約束じゃないってこと?いや、でも」
「なあ、俺がお詫びに何かおごるよ。何がいい?」
「そんなお約束、いらない」
「へ?」
それでまた奥さんに見られて恨まれるなんてお約束はゴメンよ。
お約束の変革って、要は主人公補正ってことだよなあ。…なんか優美に腹立ってきた(作者らしからぬ発言)。