第2話 お約束な家族
気がついたら、家の前にいた。夢とかではなかったのは間違いなさそう。さて、どうしようか…。
「ただいまー」
何も思いつかなかったので、普通に帰宅してみた。当たって砕けろよ。
「「「ひっ…!」」」
家族が砕けた。あ、錯乱し始めた。
「ちょっとちょっと、落ち着いて。気持ちはわかるけど」
「で、でも…!」
弟の優樹が辛うじてまともに反応するようになった。両親はまだ蒼白状態だ。お互い抱き合って。仲いいよね、ウチの両親。
「優樹、アンタの机の一番下の引出しの奥のエロ本、場所変えた方がいいわよ。中2にもなって、お約束過ぎる」
「え…姉ちゃん、知ってたの?」
「そりゃあねえ。ていうか、あの女優、なんとなくあたしに似ていて…」
「わー、わー!」
はて、なんでいきなり優樹のエロ本なんぞ思い出したんだろう。おかげで、優樹は私だと信じてくれたようだけど。
「お、お前、本当に優美なのか…?」
「そうだよ、お父さん。あ、今回のことも小説にする?最近、お約束ばかりでマンネリ化してたんでしょ?」
「おお…信じられん、部屋で発見した時は確かに息をしていなかったのに」
あう、あたしを発見したの、お父さんだったんだ。小説家でいつも家にいるから不思議じゃないけど。でも、ネタをよく提供していたとはいえ、お父さんの小説が今どうかなんて、あたしが詳しく知るはずないのに。
「優美、生きてたのね。でも、どうやって…?」
「それが、あたしにもよくわからないのよ。あ、お母さん、あたしの制服全部返して。ナニに使うなとかお約束なこと言いたくないから」
「ちょっ…!そんなこと優樹の前で言わないで!」
知らないわよ。お母さんってばキャリアウーマンで息子とかの前ではカッコつけてるのに、あたしやお父さんの前ではまるっきりだらしないんだから。さすがに、あたしの制服でナニしてることまでは気づかなかったけど。
しかし、なるほど、そうか。相手のお約束のような事柄がはっきりわかるようになったのか。異世界がお約束とか叫んで戻ってきたからなあ。でも、この程度ならまだテレパシーの劣化版みたいなもので、摂理の変革とか中二病的な力とは言えないわよねえ。
「とにかく、いつまでもお約束のようにうろたえてないで、あたしを受け入れなさい!」
「そうだな、生きていたんだから喜ばなくては」
「嬉しいわ、優美。あなたとまた暮らせるなんて」
「姉ちゃん…姉ちゃん…!」
あ、こら優樹、抱きつくんじゃない!ちょっと、変なとこ触るな!
ま、いっか。この調子で、あたしの存在を定着させていこう。友達と御近所、病院、警察、市役所、学校。めんどい。チート能力のお約束なら、こう、一発でぱぱぱーっと…お約束だからダメなのか。
ちなみに。
「私はミステリーが専門で、ファンタジーはちょっと…」
「そんなお約束いらないわよ!新ジャンル開拓したら?」
数か月後、お父さんはラノベ作家としてもデビューを果たした。これはお約束じゃないわよね…?
なお、本人が自覚していないため、優美が超絶美少女&成績優秀&スポーツ万能のモテモテ、というお約束設定はブレイクしません。なんてこったい。