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砂塵の王  作者: 秋山 和
追うもの、逃れるもの
63/220

14

 青白い光が六つ、目に入る。


 その光は、投槍が突き立ち、あるいは転がっていた場所で瞬いている。


 六つの光のうち、四つはアシャンとウァンデ、そしてキシュの立つ場所の目の前で光っていた。エンティノとハサラトが投じた投槍はアシャンたちに特に危険をもたらすことはなく、まばらに散らばって砂の上に突き刺さった。その投槍が、今、光を放っているのだ。残りの二つは、シアタカたちの近くで光っている。


 数度瞬いた後、光は消え、そこには人が立っていた。


 アシャンたちの前に四人、シアタカたちの側に二人。


 その男たちは背が高かった。長身のシアタカやウァンデに勝るとも劣らない。白い腰布をまいただけの褐色の半裸の体。その肉体は細身ながら鍛え上げられている。その手には古びた青銅の剣と見たことのない紋様が描かれた盾を持っていた。頭に白い布を被ったその下に、顔は無かった。顔としての輪郭はあるが、鼻や口、目の形はなく、滑らかな平面だ。しかし、それは仮面などではない。半裸の体と同じように褐色の肌に覆われていたのだ。


 突然目の前に現れたその男たちに、キシュは混乱していた。男たちには全く匂いがない。アシャンは、男たちのまとう気配に総毛立つ。彼らは人ではない。それどころか、この世の存在ものではないのだ。


「兄さん、こいつら……」

「ああ、悪霊か妖魔の類だ」


 ウァンデは厳しい表情で大槍を構えた。兄は戦士として魔物と幾度も戦った経験がある。そのために、直感的に異質な者たちだと理解したのだろう。


「どうやら、奴らの奥の手がこいつらのようだな。ウル・ヤークスの呪い師を連れてきたのか」


 アシャンは、ウァンデの視線の先に目を向けた。砂丘の頂に白い外套の人影が立っている。


「呪い師が操ってるってこと?」

「そうだ。よこしまな呪い師が悪霊を使役するように、こいつらを操っているんだろう」


 キシュガナンは、人が死ぬことによって魂は二つの行き先があると信じている。多くの者はこの世から去り、父祖の霊とともに子孫を見守る。そして、偉大なるラハシはキシュと共に在ることを許され、一つになる。しかし、邪な恐るべき術師は、それらの魂を捕らえ、歪ませて、悪霊として己のために使役するという。キシュガナンは、その永遠の囚人ともいえるおぞましい死後を何より恐れていた。


 ウル・ヤークスに囚われた時、ヴァウラという男は、魔術師によって魂を書き換えると脅してきた。彼らはそんなことができるのだ。悪霊や魔物を使役することができても不思議ではない。アシャンは恐怖と嫌悪から、思わず身を震わせた。


「さて、俺の槍がこいつらに通じるか……」


 口元に浮かべた笑みをアシャンに見せつけるようにして、ウァンデは一歩進み出る。


「兄さん……」

「心配するな。お前には近付けさせんよ」

「うん……、気をつけて。キシュも助けてくれるよ」


 いつも自分は守られているだけだ。ただ頷くだけしかできない自分に嫌気が差す。自分の好きな人たちには、誰も戦って欲しくないし、傷ついて欲しくない。それがアシャンの望みだったが、不可能なことであることも理解している。生きるためには命を懸けて戦わなければならない。それが人として生まれた者の運命なのだろう。そんな諦めがある。


「ああ、アシャンも、出来るだけ後ろに下がっているんだ。俺の振り回す槍で頭を打ってしまうからな」


 ウァンデは冗談めかした口調とともに、左手で背後の砂丘を指した。兄の気遣いに、アシャンは無理に笑みを浮かべて頷いてみせた。


 無貌の兵たちがこちらに向かってゆっくりと歩き出す。


 キシュも無貌の兵たちへ向けて進み出た。アシャンを守るために、有利な位置を取ろうとしている意志が伝わってくる。その動きを見ながら、ウァンデも駆け出した。キシュガナンの戦士は、キシュの動きを読み取りながら連携して戦うことを体得している。最も効率がよいのは戦士でありラハシである者が指揮をとることだ。ラハシがキシュと人の意思を仲介することによって、互いに最善の連携をとることができるのである。アシャンの父はまさしく優れた仲介者だったが、アシャンはそうではない。戦士としての経験がない彼女には、正しく戦いを導くことはできなかった。皆の無事を祈りながら、ここで見守るしかない。


 アシャンは、駆けるウァンデの後姿を見つめた。





 地を這うようにしてキシュが進む。三体とも、地形の高低などないかのように一定の速度で足並みをあわせていた。そのすぐ後ろを、大槍を肩に担いだウァンデが駆ける。走りながら、無貌の兵の動きに違和感を覚えて目を凝らす。そして、すぐにその違和感の理由がわかった。


 彼らの動きは、その流れが不自然なのだ。手足を動かす一連の流れの中で、本来なら滑らかに連続し、繋がっている動きの一部が切り取られているように認識できない。それは、筋や骨に力が通っている人の動きではない。いや、生き物ですらなかった。その動きは、まるで背後から別の力で操られている人形のようだった。


 ゆっくりとした歩みだった無謀の兵たちが、突然素早く駆けた。目がないにもかかわらず、その動きには何の澱みもない。向かってくるキシュへ踏み込むと、剣で切りかかる。


 そこへ、駆け寄ったウァンデが跳躍すると、大槍を横薙ぎに振るった。


 無貌の兵は、その一撃をとっさに盾で防いだ。しかし、その強烈な力に踏みとどまることが出来ない。倒れ、砂塵を撒き散らしながら地面の上を転がる。


 地を踏みしめたウァンデへ、無貌の兵たちが殺到した。 


 ウァンデは両手に構えた大槍を跳ね上げると、斬撃を防ぐ。そのまま動きを止めることなく石突を別の兵に突き込んだ。まともに喰らい、仰け反る兵を見届けることなく、返す槍でもう一体の兵を激しく突く。


 その一撃は盾で防がれたが、ウァンデはその場にとどまらない。素早く後ろに飛び退くと、兵たちの反撃は空を切る。その空隙へキシュが跳び込んだ。キシュはそれぞれ、頭から無貌の兵の足下へとぶつかって行く。その強烈な突撃に、兵たちは足下をすくわれて次々と転倒した。


 ウァンデはその隙を突いて再び駆けた。


 倒れた兵の背中めがけて槍を繰り出すが、切っ先は砂に突き刺さった。無貌の兵が素早く転がり逃れたのだ。


 ウァンデはさらに踏み込んで槍を突きおろす。しかし、その追撃もかわされた。無貌の兵は、まるで天から糸で吊り上げられたように、立ち上がるという動作を見せないまま、すでにウァンデの前に直立している。


「何!?」 


 ウァンデは驚きの声とともに大槍をかざす。同時に剣が振り下ろされていた。激しい衝撃と金属音。その凄まじい力にウァンデは何とか耐えた。受け止めた刃を支点に槍を捌くと、流れるような動きで柄を兵の頭へ叩き込む。無貌の兵が揺らいだ。


 動きを止めることなく振り下ろす大槍の刃を、兵は盾で防いだ。真紅の刃は盾に喰いこむ。


 まずい。危険を察知して力をこめて槍を引き戻すと同時に身を屈める。頭上を横払いの剣が薙いだ。ウァンデは低い体勢のまま槍を繰り出すと、兵の足を切り払う。その一撃を無貌の兵は飛び退いてかわした。


「くそっ、腕の立つ奴だ」


 ウァンデは唸るとすぐに身を起こす。すでに横から別の無貌の兵が切りかかってきたのだ。その一撃を、こちらも大槍を打ち当てて迎え撃つ。兵は剣を取り落とすことはないが、身体が仰け反った。しかし、ウァンデはその隙に付け込むことができない。さらに別の兵がウァンデに向かってきたからだ。


 このままでは囲まれる。恐れを感じて、ウァンデは駆けた。一端距離をおいて、槍を構える。彼を追って、三体の兵が向かってくる。戦場を見回せば、キシュが連携して無貌の兵と戦っている光景が目に入った。兵は前後左右に素早く動き、剣と盾を巧みに操って三体のキシュを翻弄し、寄せ付けない。いや、自分を囮として引き付けているのか? ウァンデは気付いた。キシュは、一度脅威だと判断すると、自らの前に立ちはだかる敵を排除することに拘る傾向がある。大きな群れや戦士でもあるラハシに指揮されていれば別だが、小群である場合、思考の範囲が狭くなり、迂回や遊撃といった変則的な行動を思いつくことができなくなってしまう。戦いに猛るキシュをなだめる事は、戦いの経験がないアシャンにはまだ難しいだろう。どうやらキシュの手助けは当てにできそうもない。


 まずは俺を始末しようということか。ウァンデは口の端を歪めると、向かってくる無貌の兵たちを見やる。この目も口もない無貌の兵たちがどうやって連携しているのか理解できなかったが、優れた戦士であることは間違いない。


 ウァンデは大槍を掲げると獣のような咆哮をあげた。


 向かってくる無貌の兵たちへと駆ける。


 攻められる前に攻める。


 ウァンデは無貌の兵に大槍を振り下ろした。しかし、大身の穂先は、しっかりと盾に受け止められた。


 視界の端に、自分の背後へ廻り込む別の兵の姿がうつる。


「しっかり構えてろよ!」


 ウァンデは叫ぶと、相対する兵の盾を蹴って跳躍した。体をひねり、振り返る。そして、背後に廻りこんだ兵へと槍を繰り出した。


 上方から振り下ろされた刃は、剣を振り上げていた無貌の兵の右腕を切り飛ばした。出血はない。ただ、剣を握り締めた肘から先が、地面に転がる。着地すると同時に、身を屈めたままさらに槍を振るった。腕を失った兵は、さらに左足を切り払われて、地に倒れた。


 こいつに俺の槍は通じる。


 ウァンデは手応えと確信に笑みを浮かべると、向かってくる別の兵が振り下ろした剣を受け止めた。剣を穂先にのせたまま身を転じると、相手の体勢を崩しながら柄を叩き込む。兵はその打撃に大きく揺らぐが、次の瞬間には立て直す動作も見せずにすでにウァンデに向けて剣を構えている。


 その不自然な動きにも動揺はしない。ウァンデは、連続する流れを止めることなく一撃を繰り出した。


 鋭い突きがまともに無貌の兵の喉元に突き刺さっていた。


 これが人ならば死んでいる。しかし、ウァンデの直感が、違うと警告する。その警告に従い、ウァンデは手の内で柄を強く捻った。


 大槍の巨大な穂先が、回転する。


 首に槍を突き刺したまま、無貌の兵は剣を振り上げたが、その刃がウァンデに届く前に、兵の首は引き千切れるように吹き飛んだ。


 無貌の兵は砂原に倒れこむ。その体はゆっくりと崩壊していき、塵となっていく。しかし、ウァンデにはそれを見届ける余裕はない。 


 今だ無傷の無貌の兵が、鋭く切りかかってくる。振り返りながら、その斬撃に槍を合わせた。激しい金属音とともに、刃は逸れる。


 無理な体勢で受けたために、ウァンデの姿勢は崩れた。一方の無貌の兵は、すでに元の体勢に戻り、次の一撃を繰り出しくる。逃れようと、身を投げ出した。


 刃が額を切り裂く。激しい衝撃に視界が揺れる。しかし、傷は深くない。ウァンデは歯を食いしばりながら、槍を杖にして体を転じた。剣を振り上げ、無貌の兵が迫る。


 大槍を下から跳ね上げる。


 振り下ろされた剣と槍が衝突した。無貌の兵の膂力に、ウァンデの槍は叩き落された。しかし、それによって一撃は逸れ、ウァンデの肉体に刃が届くことはない。叩き落された槍に吊られて、ウァンデの体は左に泳いだ。


 ウァンデはその動きに逆らうことなく、そのまま身を転じながら踏み込んだ。無貌の兵の盾と、ウァンデの肩が激突する。骨が軋むが、それに構わず咆哮とともにさらに踏み込んだ。同時に、槍の石突を兵の足下に差し込んで、払う。


 無貌の兵はこらえ切れずに仰向けに倒れた。


 立ち上がらせない。人には不可能な動きで立ち上がる前に、方をつける。


 ウァンデは無貌の兵に圧し掛かりながら、槍を振り下ろす。同時に、下から兵が剣を突き出した。


 曲線の動きである大槍よりも、直線の動きである剣が、より早く肉体に届いた。切っ先は柄を握る左腕に突き刺さる。しかし、ウァンデは止まらない。腕を貫く刃に構わず、大槍を振りぬく。


 真紅の穂先は、その顔のないおもてを斜めに切り裂いた。





 シアタカは、忘我の境地に達していた。


 繰り出される槍や剣を受け、かわし、反撃する。無数の刹那を繋いでいく戦いの中で、思考は消え去り、シアタカはただ一振りの刃と化していた。


 振り下ろされた剣をかわし、そのまま懐に入る。人ではありえないことだが、無貌の兵はその時にはすでに剣を構えなおしていた。しかし、シアタカはそれにすぐさま対応する。盾をそのまま押し当てると剣の動きを封じ、刀で突く。


 刃は兵の体を貫通するが、血は出ない。それどころか、痛みを感じた様子もなく動く。


 シアタカは素早く刀を引き抜くと、身を転じた。盾を構える。


 背後から迫っていた別の無貌の兵が剣を振り下ろした。盾がその一撃を阻む。同時に、盾の下から刀が振るった。飛び出した刃は、兵の右足を切り払う。片足を失った無貌の兵は激しく転倒した。


 シアタカは動きを止めることなく前に踏み込む。寸前までいた場所を、無貌の兵の剣が薙いだ。足下から、周囲の気配が伝わってくる。それは、落雷や太鼓の音が肌を震わせることにも似た、体全体で受容する奇妙な感覚だった。調律で強化された五感ともまた違うその感覚によって、背後にいる者の動きも感じることができる。


 シアタカは素早く振り返ると盾を突き出す。繰り出されたエンティノの槍は、弾かれ、泳いだ。目の前には驚愕の表情を浮かべるエンティノ。その顔へ、すでに刀の切っ先は迫っていた。


 エンティノは咄嗟に顔を逸らす。真紅の刀身は彼女の兜の側頭部を切り割り、耳を半ばまで切り裂いた。


 振り下ろした刃を返すと同時に振り返る。


 無貌の兵の振り下ろした剣を、盾で受け止めた。大きな音ともに、剣身が盾の半ばまで切り割った。酷使に耐えられなくなったのか、傷の部分から大きく開き、二つに分解してしまいそうな状態だ。切っ先はシアタカの左腕まで達したが、その傷は深くはない。シアタカは体を開きながら体勢を入れ替えると、剣を盾に挟みこみながら無貌の兵の姿勢を一瞬崩す。


 盾を半ば放り捨てるようにして手放した。無貌の兵が前のめりになる。


 次の瞬間、無貌の兵はシアタカにも認知できない速さで、元の姿勢に戻っていた。しかし、すでに遅い。


 刃が、兵の首を刎ねた。


 シアタカの動きは止まらない。倒れこむ無貌の兵を背に、エンティノへ向き直る。繰り出された槍の穂先に差し出した切っ先を合わせた。火花を散らしながら、槍は刃の上をはしる。シアタカは刀を傾け、肩に担ぐようにしながら槍を導き、受け流した。同時に、身を低くしながらエンティノの懐に跳び込む。


 肩に担がれた刀が振り上げられ、そして振り下ろされる。僅かに遅れて、エンティノが身を投げ出すようにして飛び退いた。


 その斬撃は大腿部を守る草摺を切り裂き、足を半ばまで断った。


 エンティノはその場で倒れこむ。


 シアタカは無言でエンティノの前に立った。血に塗れたエンティノは、シアタカを見上げる。その目に浮かんだ感情を、シアタカは理解できない。理解しようとする思考すら浮かんでこなかった。目の前にいるのは、排除すべきただの障害だった。


 シアタカが刀を振り上げる。


 その時、少女の悲鳴が響いた。


 シアタカは我に返った。声の主を求めて、振り返る。


 砂丘の斜面を、アシャンが狗人によって引き摺り上げられている。必死に抵抗しているが、狗人の膂力には敵わない。そして、砂丘の頂には鉛灰色の肌をもつ少年が弓に矢を番えていた。


「ウィト!!」


 シアタカが叫ぶ。


 ウィトはその声に、縋るような表情を浮かべてシアタカを見つめた。しかし、憤怒の雄叫びとともに駆けてくるウァンデに、すぐに視線を向ける。


「近寄るな!」


 ウィトはウァンデに弓矢を向けて威嚇した。ウァンデは立ち止まると唸る。その左腕からは出血が酷い。その背後にはキシュも控えている。


 シアタカは、戦場を見回す。戦いに没入した結果、現状を認識できていないことに今更ながら気付いた。目の前にはエンティノ。離れた場所には、倒れ伏すハサラトとそれを見下ろすカナムーン。死んだのか? しかし、ハサラトは苦痛に顔を歪めながらも体を仰向けに転じた。生きている。思わず安堵する。あの魔術師は。背後の砂丘を一瞥すると、白い外套の人影は、座り込んでいるように見えた。無貌の兵の姿が消えているところを見ると、魔術の使ったことによって力尽きているのかもしれない。


 視線を戻したシアタカは、ゆっくりとウィトとアシャンのいる方へと歩き出す。


「ウィト。それにラゴだな。……アシャンを放すんだ」


 ウァンデの傍らに立ったシアタカは、砂丘の頂の三人を見上げた。


「騎士シアタカ……」


 弓を構えるウィトの声は微かに震えている。


「俺はもう騎士じゃない」

「あなたは、紅旗衣の騎士です。それ以外の何者でもない」


 ウィトは激しく頭を振った。


「蟻使いの娘は捕らえました。今帰れば、ヴァウラ将軍も許してくださいます。騎士シアタカ、戻ってきてください!!」

「蟻使いの娘じゃない。彼女は、アシャンだ」


 シアタカの答えに、ウィトは顔を歪める。


「騎士シアタカ、帰りましょう、サラハラーンに。皆が待っています……」


 懇願するような弱弱しい声に、シアタカは頭を振った。


「もう、俺に帰る場所はないんだ」

「あなたはこの女に騙されているんです。きっと、ヴァウラ将軍が何とかしてくれます」

「ウィト。俺は、誰に言われたからでもない。自分の意志でここにいる。これまでの自分の罪を悔い改めるために、アシャンを守ることを誓った」

「悔い改める……。紅旗衣の騎士であったことは、罪だったというのですか?」


 ウィトは、愕然とした表情でシアタカを見つめる。シアタカはその視線を受け止めて、頷いた。


「そうだ。俺は、紅旗衣の騎士として、罪を重ねた」

「そんな、そんな……」


 呆然として、ウィトは、よろめく。


「ああああーっ!!」


 ウィトは絶叫すると弓矢を放り出した。腰の短刀を抜くと、アシャンに向かって振りかざす。


「お前さえ、お前さえいなければ!!」


 驚き、見上げるアシャンに、白刃が振り下ろされた。


「止めろ!!」


 シアタカは、絶叫した。

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