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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
9/43

9 学校からの帰り道で 後編

 なんとなくそれが癪な気がして、私、高槻(たかつき)由真(ゆま)も彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)に同じことを訊いてみることにした。


「そっちこそ、向こうに彼女を置いてきたんじゃないの」

「彼女なんていないよ」

「うっそ。あなたこそモテてそうじゃない」

「なんでそう思うかな」


 すごく不思議そうな顔で、彼は言ってきた。

 まさかとは思うけど、彼は自分の顔が整っていると、気がついていないのだろうか。

 疑問に思いながらも茶化してみた。


「バレンタインに鞄に入りきらないから、別にバッグを用意していったんじゃないの~」

「だから、なんでそう思うの? 今までバレンタインは、義理しかもらったことがなかったよ」

「え、義理だけ?」

「そう。今年はクラスの女子が全員で、クラスの男子に用意してくれたのだけだったしね」

「……そのあと別で届けに来た子は、いないの」

「一度もないよ。それどころか僕は女子に嫌われていたみたいだし」

「嫌われていたって……」

「僕が話しかけると女子は固まるか逃げるかで、男女でペアを作らないといけないときは、誰が僕のペアになるか相談して押し付けあっていたんだよ」


(ちょっと、それ、違うでしょ。牽制し合った結果でしょ。

 もしかして、彼って自覚無いの? 自分がきれいだって。

 男の子にきれいって変かもしれないけど、彼の容姿はかわいいではないし、かっこいいとも違うもの)


「だから、高槻さんが普通に話してくれたからうれしくて」


 ニッコリと笑った彼の笑顔はとてもまぶしかった。

 私は溜め息を吐きそうになって、息を飲み込んだ。

 そんな私に気がつかない彼が訊いてきた。


「この後どうする?」

「う~ん、と。買い物をして帰るかな」

「ところで、今夜って何を作るの」

「うーん、悩むところよね。これだけ暑いと食欲はなくなるしね」

「そうなんだよね。僕、まだあまりレパートリーはないから困るんだよ」

「いつから作り始めたの」

「去年の夏から。といっても最初は月に2~3回だったんだ」

「そっか~」


 何気ない会話に自然と笑みが浮かぶ。


「高槻さんは長いの?」

「私は祖母がいたから、小学生の頃から教わったかな」

「早くない」

「う~ん? でも、うちは母がいなかったし、手伝うのは嫌じゃなかったから。それにうれしかったし」

「うれしかったの?」

「うん。おばあちゃんに、これは高槻家の味よって、教えてもらうのがね」

「そうなんだ」

「それに、『いつまでもあると思うな親の脛』と『覚えて損はない』というのが祖母の口癖だったしね」

「あははは、素敵なおばあさんだね」


 彼の言葉に厳格な中にも、愛情をこめて育ててくれた祖母の姿が、脳裏に浮かんできた。


「うん。厳しかったけどやさしくてね。ただ、そのせいなのか友達に『どこの主婦よ』っていわれるし」

「いわれるんだ」

「夏休みになって図書館に通っているのを、『電気代の節約になるから』と言ったら、言われたのよ」

「あははははぁ~、それは、言われても仕方ないかもね」


 その言葉に少しカチンときた。

 なので、言わなくていいことを言ってしまった。


「3日連続図書館にいた人に言われたくない」


 彼は立ち止まって、私のことを見つめてきた。

 私もつられたように立ち止まった。


「……知ってたの」

「……」


 バツが悪くて答えられない。

 視線を逸らして、私は歩き出した。


「ってか、見てた?」


 彼は私に並んで歩きながら訊いてきた。


「うー、目に入っただけ」

「ふぅーん」

「なによ」


 意味ありげに言われて彼のことを横目でにらむように見た。


「気にしてくれたのなら、嬉しいな」

「そんなんじゃないわよ」

「そうかな~」

「だから違うってば。たまたま小さな男の子の相手をしているのが、目についたのよ」


 立ち止まってそう言ったら、彼は目を丸くした。


「あれを見られたのか~」


 彼は納得したように頷いて、今度は彼が先に歩き出した。


「ぜった……先だと思っ……のに」


 切れ切れに彼の呟きが聞こえてきた。

 私は彼に並ぶと訊いた。


「何か言った?」

「ん~、内緒」

「え~、内緒ってなによ」

「だから、内緒は内緒だよ」


 ニヒッという感じに笑う彼に、私は顔をしかめたのだった。


 マンションの前まで来たので、一旦部屋に寄ってからスーパーに行くことにした。

 部屋に入った私は、洗濯物を取り込んで買い物用のバッグを手に取り部屋を出た。

 まだ、彼は出てこないので部屋の前に行く。

 チャイムを押して待っているとドアが開いた。


「ごめん。もうちょっと待ってて」

「どうかしたの?」

「もう一回、洗濯機を回したのを忘れてて」

「あー、もう一度やり直しかぁ~」

「うん。やっぱ、夏は臭いがね」

「仕方ないよ。今日も暑いし、部屋を閉め切っていたら40度を超すしね」

「もしよかったら上がる」

「じゃあ、お邪魔します」


 部屋に入ると彼はエアコンをつけようとした。


「いいよ、つけなくても。すぐ出るし」

「でも、暑いだろ」

「窓、開けていい?自然の風でいいよ」

「いいけど。何か飲む? あ、家で飲んできた?」

「ううん。飲んでない」

「じゃあ、ペットボトルのお茶でいい?」

「ありがとう」


 出されたお茶を飲みながら、部屋を見回した。


「ほんとだね」

「なにが」

「同じ間取りなのに印象が違う」

「ああ」


 それから、他愛ない話をしながら洗濯機が止まるのを待った。

 ハンガーに干す彼に、手持無沙汰の私は、籠から洗濯物を広げては渡してやる。


「これいいね。すごく楽だ」


 と言って、彼は笑った。


 それから、一緒にスーパーまで買い物に行った。

 マンションに戻ると、明日は午前からお弁当を持って図書館に行く約束をして、別れたのだった。


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