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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
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6 学校で 中編

 望月(もちづき)先生は鍵を開けて中に入っていった。

 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)も中に入ろうとしたら、彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)が話しかけてきた。


「いつもこんななの?」

「なにが」

「先生に話すのが」


 これは口調のことを言っているのだろう。


「うーん。まあ、そうね」

「ふうーん」

「そちらも何か含みがあるような?」

「前の学校じゃあ、先生と親しく話すことなんてなかったから」

「そうなの? んん~、まあさ、私は4月からこき使われてるからさ~」


 ニカッと笑って彼に言ったら、先生から抗議の声があがった。


「お~い、高槻。その言い方だと、先生が生徒に雑用を押し付けてるみたいじゃないか」

「実際そうでしょう。私が部活に入っていないのをいいことに、用事を頼みまくってくれてますよね。自分のクラスに持っていくものならいいけど、何で他のクラスのも、持っていかなきゃならないのよ」

「いや~、いいところにいてくれたからさ」


 悪びれずに答える先生を見てから、彼の方を向いた。肩をすくめて言い放つ。


「ほら、ね。こき使ってくれているでしょう」

「うん。ひどいね。そのクラスの生徒に頼めばいいのに、高槻さんに頼むんだ」

「おいおい」

「こういうのをパワハラっていうんじゃない」

「そうかも」

「わ、悪かったから、そのぐらいにしてくれ」


 私は彼と顔を見合わせて、プッと吹き出して笑いあった。

 先生は私達の会話に顔をしかめていたけど、棚から必要なものを取り出してくれていた。

 プリントをまとめて長机の上に置いたので、私達も近づいた。


「これが県内の高校をまとめたやつだ」

「県内ですか、先生」

「こんなにあるんですね」

「1枚目が公立で2枚目が私立だ」


 一覧表を横から見た私は言った。


「先生、私も欲しいです」

「高槻、渡しただろう」

「いつですか」

「最新版を夏休み前に」


 渡しただろうと先生の目が語っているけど、先生はある事実を忘れているようだ。

 だから、軽蔑の意味を込めて半眼で先生のことを、もう一度見てやる。


「もらってないです、先生~。私、終業日にでてないから」

「あー、そうだったな。休んだもんな」


 思いだしたのか、罰が悪そうな顔をする先生。


「先生、この前、夏休みの課題を取りに来た時に、なんで入ってなかったんですか~」

「いやー、すまん。枚数を間違えて1部足りなかったのを忘れてた」

「……わかりました。2学期からは雑用は一切受け付けませんから」

「すまん。悪かった。この通り」


 望月先生が軽く頭を下げて手を合わせて、お願いポーズをした。

 私は彼のことを見た。彼も口元がひくついている。

 私たちは顔を見合わせて、声を出さないように笑いあった。


「おーい、教師が生徒に頭を下げてるってのは、どういうことだー」


 入り口から軽い調子で声が掛かった。

 振り向くと扉に手をついてのぞき込んでいる男性教師がいた。

 ニヤニヤ笑いが顔に張り付いている。


「他の生徒に示しがつかんな~、望月先生」

榎本(えのもと)先生、望月先生がひどいんです」

「こら、待て」


 すかさず私は榎本先生に訴えかけた。

 望月先生が焦ったように声をかけたけど、知らないもん。


「ほー、何をされたんだ」

「生徒に渡さなければいけないプリントを忘れたんですよ」

「それはひどいな」

「ええ、ひどいんです」

「だから、悪かったと」

「何のプリントだって」

「これです」


 私は彼が持っているプリントを指さした。

 そばに来てプリントを見た榎本先生は、大げさな身振りを加えて言った。


「おー、これはひどいなー。言い訳できないなー」

「ですよねぇ」

「これは、なんかで埋め合わせをしてもらわないと、割りに合わないよな」

「榎本先生もそう思いますよね~」

「おい、お前ら」

「ああ。いたいけな生徒の心を傷つけるなんてな~。とんだ担任がいたもんだ」

「ですよね~。普段から私のことをクラス委員だからって、こき使ってくれるのに、忌引きで休んだことを忘れて、これですもの」

「いや、だから」

「そりゃあ、ひどいな。高槻に頼って(らく)しているって、聞いているのにな~」

「でしょ、でしょ~」


 と、榎本先生と望月先生いじりをして遊んでいたら、隣で彼は口を押えて肩を震わせ出していた。

 あれ? と思って彼のことを見つめたら、堪えきれなくなったように笑いだした。


「ぷー、くっ、あはははははははははぁ~」


 お腹を抱えて笑っている彼のことを、榎本先生が興味深げに見た。

 そして、彼のことを指さして望月先生に訊いている。


「望月、こいつ誰だ?」

「転校生の吉田だ」

「ああ、終業日に挨拶に来たやつか」

「吉田君、大丈夫」

「あははははは、お、お腹、痛い。くっくっ、ははははは」

「君って笑い上戸なの」

「ははは~、そ、そんなこと、くっくっ、ない、んだ、けど、はははっ、なんか、つぼった、ははははは~」

「だ、そうですよ。先生」

「俺だけのせいにするな」

「そうだな。高槻もだな」

「えー、なら、榎本先生もでしょ」

「も、もう、やめて。くっくっくっ、笑い死にするーーー。はははははぁ~」


 彼の笑いがおさまるまでしばらくかかった。

 今は息も絶え絶えな様子で、椅子に座っている。

 榎本先生に何かを言って、席を外していた望月先生が戻ってきて、ペットボトルのお茶を差し出した。


「これでも飲んで落ち着いてくれ」

「はい。あり、がとう、ございます」

「先生、おごりですか」


 私の前にもお茶が置かれたので訊いてみた。


「おう。いつも手伝ってもらっているからな。ご褒美だ」

「えー、お茶だけですか。せこいです」

「そんなことを言うやつには、これはやらん」


 お茶に続いて袋から出てきたのはアイスだった。


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