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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
5/43

5 学校で 前編

「本当に行くの」

「もちろん。何のためにここまできたのよ」

「そうだけど、部外者感が半端ないんだけど」

「気のせい、気のせい」

「他人事だとおもって」


 学校の正門前で、私、高槻(たかつき)由真(ゆま)と彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)は、立ち止まって話をしていた。

 あれから私たちは学校にやってきたのだ。

 学区の外れのほうにマンションはあるので、学校まで来るのに45分かかった。


 そして今の状況はといえば、彼が校門前でしり込みをして立ち止まっているのである。

 私も彼の気持ちはわからなくもないのだ。

 彼にとってはなじみがない学校だから、入りにくいのもわかる。

 これが保護者と一緒なら、また違うのだろう。

 だけど、ここで立ち止まっていても話は進まないので、私は彼の腕に手をかけて引っ張るようにして、校舎に向けて歩き出した。


 職員室に行き3年の先生に会うつもりでいるのだが、その前に事務室に寄ることにした。来客用のスリッパを借りることを、断ろうと思ったからだ。

 事務室をのぞき込むようにして、声をかけた。


「こんにちは」

「あら、高槻さん。珍しいわね。今日はどうしたの。なあに、デート?」

蒼井(あおい)さん、違いますよ。彼は転校生です。ちょっと高校のことを聞きたくて来ただけです。デートならこんな色気がないとこに来ませんから」

「あら、言うわね。でも、そうね」


 蒼井さんは事務員だ。たしか今年、大学を出たばかりだと聞いた気がする。

 明るくて話しやすい女性で、男子たちに密かに人気がある。

 蒼井さんがいたことで、私は当たりだと思った。


「それで、上靴を持ってきていないので、スリッパを借りてもいいですか」

「もちろんよ。どうぞどうぞ」

「ありがとうございます。それでは、職員室に行くので失礼します」

「今日は望月(もちづき)先生がいたはずよ」

「本当ですか、ありがとうございます」


 私の要件を聞いて、欲しい情報をくれた蒼井さん。担任がいることが確認できて、ラッキーだった。

 私たちはスリッパを履くと、職員室に行った。


「失礼します」

「……失礼します」


 入口で少し大きな声を出して中に入る。もちろん、彼もついてきた。

 私の声に望月先生が振り返った。そばに近寄ったら、余計なことを言ってきた。


「おう、高槻。どうしたんだ。まさか、彼氏を見せびらかしに来たのか」

「んなことあるわけないじゃないですか」

「じゃあ、どうしたんだ。ん。もしかして、吉田か」


 からかい気味に言ってきたけど、彼のことを見つめた先生は、彼が誰か気がついたようだ。


 というか、なにこれ。

 父たちに続いて自分たちにも、漫画なんかでよくある話(というか、設定?)が降ってきたようだ。


 私は少しげんなりとしながら言った。


「えっ、もしかして、彼、うちのクラスですか」

「お前たちは知り合いだったのか」

「ぐ・う・ぜ・ん・に、隣の部屋に引っ越してきました」

「ほー、偶然ねえ」


 偶然だと強調したのに、疑わしそうに見てくる先生。

 本当にそれ以上でも以下でもないから、と、心の中で呟きつつ、先生のことを半眼で見つめ返した。


「それよりも望月先生、今、時間はありますか?」

「う、ん。今なら大丈夫だけど、何か用か」

「私じゃなくて吉田君が」

「吉田が? 何の用だい?」

「あの……高校の資料があれば、いただけないかと思いまして」

「ああ、そうか。県外からじゃ学校がわからないか」

「はい」

「高校の資料は、指導室だったな」


 そう言うと先生は立ち上がり、職員室を出て行く。

 私達もその後をついていった。


「さすがクラス委員だな。もう、面倒を見ているのか」

「そんなんじゃないですよ」


 生徒指導室に向かうために歩いていると、先生がニヤニヤと笑いながら言ってきた。


 これは絶対何かを勘違いしているに決まっている。

 それとも前に先生に彼女がいないと聞いて、からかったことの仕返しなのだろうか?


 そうしたら私たちの会話に興味を持ったのか、彼が訊いてきた。


「クラス委員なんだ」

「似合わない?」

「いや、らしいなと思って」

「お前たち、仲良さそうだな」

「そう、見えます?」

「どう、知り合って……あ、引っ越しのあいさつでか」


 先生がたどり着いた結論に、彼と目を見交わしそっと笑い合った。


「いえ、違います」

「じゃあ、どうやって知り合ったんだ?」

「図書館で」

「図書館~?」


 先生は素頓狂な声をだした。

 そんなに意外だろうか。まかりなりにも受験生の私たちには、お似合いの場所だと思うのだけど。

 一応変な出会いではないことをアピールするために、もう一言説明をする。


「図書館カードを落としたのを拾ってくれたの」

「ほうー」

「なんですか」

「いやー、何でも」


 またニヤニヤと笑いながら相槌をしてくる先生に、わざとらしくため息を吐いてやる。


「おじさんの勘繰りってやあねえ」

「先生に向かっておじさんはないだろう」

「今の言い方って、仲人小母さんの言い方に似ていたからね、先生」

「いやらしい意味ではなくて、ほほえましいという気持ちを込めてだな」

「あー、わかりました。でしたら、変な相槌を打たないで、見守る姿勢を持った方がいいとおもいまーす」

「高槻……お前なー」

「あっ、ここがね、生徒指導室だよ」


 そんなことを話している間に2階の指導室に着いたので、私は先生のことを放って彼に振り向いたのだった。



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