42 法事の日で 後編
和尚様に挨拶をして法事が行われる本堂……ではなくて、その隣の控室……待合室のほうがあっているのかな? そこに来てくれた親戚を通した。
奥さんが用意してくれていたお茶を入れていると、おばさんたちが湯呑を渡すのを手伝ってくれた。
「由真ちゃんはしっかりしていて、いいわね」
などと言われて、父の顔がにやけている。法事の主催者なんだから、もう少ししゃっきりしてほしい。などと思っている間に、親戚は全員揃った。
法事に呼んでいるのは祖父母の兄弟の家がほとんどで、お年も召している方ばかりだ。若いと言えるのは熊本から来た父の従兄弟だろう。
時間になり本堂に移動して一周忌の法要が始まった。……前も思ったけど、和尚様の読経の声を聞いていると、どうして眠くなるのだろう。あくびをかみ殺していると、分けられた経本から私たちも読経することになった。指示されたページを開いて声に出して読んでいくけど、独特の節回しで、息継ぎの場所に困ってしまった。読経が終わると焼香をして本堂での法要は終わった。それからお墓に移動して和尚様が読経する中お線香をあげた。
法要が終わり会食のためにそれぞれの車で料亭に移動した。お寺まで家族に送ってもらった人もいたのでその人たちは他の人の車に乗せてもらっている。うちの車にも熊本の父の従兄弟が乗った。
「わざわざ此方まで来ていただいてすみません」
「それはお互い様ですよ。皆さんには九州まで足を運んでもらったではないですか」
父と助手席に座った従兄弟はそんなふうに話を始めた。
「昨夜はどちらに?」
「本所の伯母さんのとこに泊めてもらいました」
「本当ならうちに泊まってもらうつもりでいたのですけどね」
「ああ、それは仕方がないことでしょう。トラックに突っ込まれたんでしたか」
「ええ。母屋は大きな被害が無いように見えたのですが、柱が歪んでいると言われましてね。おかげでふた月も早くに家を出なければならなくなりましたよ」
「それは大変でしたでしょ」
「まあ、予定が前倒しになったのはいいことなのか、悪いことなのか」
「そういや、家は新しく建てるんですか」
「大幅なリフォームでお願いしたのですが、柱が使えるかどうかでいろいろ変わってくるようです」
そんなやり取りを、私は後部座席でおとなしく聞いていた。もうすぐ料亭に着くかという時に、従兄弟の方が私に話しかけてきた。
「由真ちゃん、お葬式の時には遠いところを来てくれて、ありがとうな」
「いえ。えーと、不謹慎かもしれないですけど、私も楽しかったので」
言うべきことじゃないかなと思いながら、私はそう言った。そうしたら従兄弟の方は納得したように頷いた。
「お~、わかる、わかる。俺も子供んときはそうだったからな」
「えーと、おじさんもって?」
「言葉通りだよ。うちは九州だろ。本州のましてや東京なんてのは、修学旅行ぐらいでしか行くことはないんだよ。それが東京や神奈川に親戚があるだろ。父さんが夏休みに帰省で連れてってくれるのが、嬉しかったさ。由真ちゃんはうち以外には、遠い親戚はないんだよな」
「はい。今回のことで初めて知りました」
「それなら広彰兄さんに、遊びに来いって云っときゃよかったな」
気さくにそう言ってはははと笑う従兄弟の人。いや、従兄弟の人呼ばわりは、失礼だよね。
名前は高槻敏行さん。まだ三十歳になったばかりだと言っていた。うちの父が三十七歳だから、七歳差だ。兄と姉がいるのに、家のことを押しつけられたそうだ。
さて、料亭に着いて会食は、和やかムードで進んで行った。
我が家にトラックが突っ込んだ話から、私の受験のことなども話題に出たけど、やはり祖母を偲ぶ話が多かった。
祖母は今から一年前のお彼岸が明けた日に倒れて、そのまま意識が戻ることなく亡くなった。
本当なら法事は来週が良かったそうだけど、来週は私の中学最後の体育祭が行われる。
そこを考慮した結果が今日というわけだ。
親戚と会うのは、今では結婚式かお葬式くらいだ。それも大概は祖母や父が出席していたので、私まで出たのは家に一人で置いておけないからと、お通夜に着いて行った時くらいだ。
それも小学生の時で、祖父の姉の旦那さんの時と、祖母の姉の旦那さんの時だった。あとはうちの祖父が亡くなった時に親戚が集まった時と、この間のあれだった。
他は、祖母に連れられて祖母の兄弟の家に行くくらいだったから、そんなに懇意にしていたわけではなかった。
それでも自分に年が近い人は何となく覚えていた。
だから、まさか中学であの人たちに合うことになるとは思わなかった。
あの人たちもまさかとは思っていただろう。
というかはとこって、近しい間柄って云えるのかな。
祖母のお通夜に顔を出してくれたけど、少し遅い時間に来たから私の友人たちと顔を合わすことがなかったので、学校のみんなには親戚だと知られてないし。
私の学校の話から、孫が教師になっている祖父の姉と祖母の姉が、話の中心になった。
他にも祖母の弟の孫も教師になる予定だと言っていた。
そう言えば祖母も、もともとは小学校の教師をしていたと前に聞いた。高槻の曾祖母の具合が悪くなったので、仕事を辞めて家に入ったんだったか。あまり長く休まずに亡くなり、祖父は復職することを許したというけど、祖母はそのまま復職することはなかったと聞いた。
『ほほほ。せっかくだから家のことをやるついでに、やりたかったことをやることにしたのよ~』
と、祖母が満足そうに笑っていたのを思い出して、私はクスリと思い出し笑いをしたのだった。




