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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第2章 中学3年生9月編
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35 課題テストの結果で 後編

 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)は、昨夜の父や美良子(みよこ)さんとの会話を、彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)が話したことは端折って、簡単に話した。


「由真~」


 片倉(かたくら)花南(かなん)は胸の前で腕を組むと、祈りを捧げるようなポーズで感動したような顔を私へと向けてきた。


(いや、花南、私、別に花南のことは褒めてないよ。褒めてないよね? 

 なんか、花南の変なスイッチを押したんじゃなければいいのだけど……)


 若干引き気味に考えながらも、私は花南へと笑顔を返した。


「つーまーりー、由真はまたお節介にも吉田君の窮地と、沢渡への無料奉仕を決めたわけね」


 蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)が低い声でそう言った。じとーとした目で見られて、内心たじろいだ。


「まあまあ、みっちー。由真らしいじゃない。でも、由真のいうことには一理あるよね」


 会田(あいだ)結花(ゆか)がやんわりと口を挟んできた。路香はじろっと結花のことを見た。


「どういうことよ」

「やだなー。みっちーだってわかっているんでしょ。ああでもしないと、クラスの女子たちが沢渡の家に押しかけてくることになるでしょ」


 路香は面白くなさそうな顔をして横を向いた。


「そろそろ教室に戻らないと先生が来ちゃうね。続きはあとで話そうよ」

「……わかったわよ」


 早乙女(さおとめ)琴音(ことね)が路香に声を掛けた。路香は不承不承に答えると、さっさと歩きだした。その後を琴音と結花が肩を竦めてからついて行った。


 私と花南はワンテンポ遅れて歩き出したので、三人から三歩ほど離れてしまった。


「由真、みっちーもわかっているんだよ。だけど、なんか意地になっちゃっているみたいだよね」

「花南もそう思う? いつものみっちーらしくないよねえ」

「うん。拗ねるのは私の専売特許だけど、みっちーは拗ねているのとは違うと思うんだ。……なんかうまく言えないんだけど、沢渡の言葉の何かがみっちーの……えーと琴線? に触れたんじゃないかな」

「琴線って……」


 花南の言葉のチョイスに苦笑を浮かべたけど、なんとなく言いたいことはわかった。路香はいつも飄々とした態度でいて、動じる姿を見せることはあまりなかった。ある程度のことは受け流していたから、こんなに不機嫌なのを隠さないことは珍しい。


「うーーー、合う言葉が出てこないんだよう~」

「うん、わかってるから。花南が言いたいことは。みっちーの様子がおかしいってことは、琴もゆっかもわかっているようだし」

「そうだよね。でも、下手につつくと駄目なのは、わかるの」


 むんと拳を握って言った花南は心配そうな視線を路香へと向けていた。


 教室に戻ると、女子たちは彼の周りから消えていた。……ではなくて、自分の席に戻っていた。代わりに委員長の田中(たなか)永井(ながい)小梁(こはり)が立っていた。沢渡(さわたり)は彼の前の自分の席に座っていた。


「そろそろ先生が来るかな~」

「じゃないの?」


 などと言いながら立っていた三人は、私たちに片手を上げて合図をしてから離れていった。彼は何か言いたげに私のことを見てきたが、私は席に来てすぐに隅に追いやられたために鞄の中身を机の中に移していなかった。なので彼を無視する形で支度を済ます。


 鞄を机の上からどかした時に望月(もちづき)先生が教室の中に入ってきた。


 3時間目の体育が終わった後、田中たちが意味ありげに私のことを見てきた。どうやら彼から話を聞いたようだ。沢渡なんかは感謝の視線を寄越したけど、隣の席の路香が目に入ると、途端に渋面を作った。


 で、そんなことがありながら放課後です。早速女子たちが彼の周りを取り囲んだ。


「吉田君、ここがね、わからないの」

「えーと、どういうこと?」


 八木(やぎ)が可愛らしく教科書を広げて聞いてきた。


「だって、教えてくれるんでしょ」


 その言葉に彼は首を傾げて言った。


「今日からって言ってないよ」

「ええっ~!」


 女子たちが揃えて不満だと声をあげたけど、やっぱり私の話を聞いてなかったか。


「自転車通学になってからだって言ったよね」

「そ、それは由真が、でしょう」

「僕も同じだって思わなかったんだ」


 彼は声を落として呟くように言った。それから立ち上がると、鞄を手に持った。


「今日は無理だよ。帰りにヘルメットを受け取りに行くからね。それじゃあ、さようなら」


 彼はそう言うと、小梁が待つ前の入口へと向かった。残された女子たちの視線が私へと突き刺さる。


「由真~、早く行こう」


 琴音が自分の席から声を掛けてきた。私は「すぐ行く~」と答えながら、そばに居るみんなに「さようなら」と言って歩き出した。


 校門を出たところで、ほお~と息を吐きだした。


「お疲れ様、由真」

「うん」

「じゃあ、行こっか」


 私は琴音と並んで歩きだした。


 ヘルメットの譲渡のことは一応学校に確認してからということになっていた。学校側も残り半年ということで、新しく買わなくてもいいと言ってくれた。それで昨日私と彼は琴音と小梁に連絡をして、今日の帰りにもらいに行くことになったのだ。


 学校から500メートルほど離れたところに、彼と小梁が待っていた。琴音と小梁の家は同じ方角だった。


「おう、高槻、お疲れさん」

「あははは~」


 私は乾いた笑いを返しただけだった。4人で並んで歩いて琴音の家でヘルメットを受けとって、3人で小梁の家に寄ってヘルメットを受け取って。


 それから2人でヘルメットを抱えて家へと帰ったのでした。


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