33 課題テストの結果で 前編
新学期が始まって4日目です。
教室に入りある二人の姿を見て、ため息をつきそうになった私、高槻由真です。隣で小さく息を吐きだした彼、吉田鷹広がぼそりと「まだ怒っているんだ」とこぼしたけど、スルーさせてもらいます。
一昨日は沢渡が蕪木路香を怒らせてしまい、宥めているうちに時間が経ち沢渡の家から帰ることになった。
で、私と彼の前の席である沢渡と路香は、今日も目を合わせようとしない様子が、目に入ったのですよ。多少げんなりしながらも、私たちは自分の席へと近づいた。
「おはよう、みっちー」
「おはよう、由真」
私の声に笑顔を見せたけど、私の方を向いたことで沢渡のことを視界に入れた路香は、すぐに渋面となった。
「おはよう、沢渡君」
「おはよう、吉田」
いつもならにぎやかに話す沢渡なのに、いまは挨拶だけで懇願するような目で彼のことを見つめた。彼はその必死な視線に困ったように笑い返した。
チラチラと路香のことを見つめながら、懇願の視線を向ける沢渡。言いたいことはわかるけど、余計なことを言って尚更怒らせるかもしれないと、困った笑顔を返す彼。
そんな二人を横目に見ながら、私は路香に言った。
「それで、一昨日のお馬鹿発言と昨日の失言について何か言ったの、これ」
行儀悪く人差し指を向けて言ったら、路香は一瞬目を丸くした。多分、私がそんなことをしながら、これ扱いの発言をしたことに驚いたのだろう。
「一応、今朝も謝ってきたわよ。でも見当違いのことを言われても、ねえ」
どうやら想像したとおりのことを言ったらしい沢渡に溜め息が漏れた。
「「ふう~」」
期せずして彼と重なってしまい、思わず顔を見合わせた。
「「なに(なんだ)よ。意味深にため息ついて(さ)」」
沢渡と路香の言葉も重なり、彼と二人してフッと笑みを口元に浮かべた。
「うん。もういいかなって、思って」
「はっ?」
「勝手にやっててね」
路香にそう言うと、私は沢渡へと言った。
「昨日、父と話して、4時までなら勉強してきていいって許可をもらったの」
「ほ、本当か」
「だけど、自転車通学になってから、実際にどれくらいに帰れるのか、見てから決めるって。それでいい?」
「いい! 少しでも教えてもらえるのなら」
沢渡が嬉しそうに大きな声を出した。クラス中の注目が集まり、田中たちがギョッとした顔をしているのが目に入った。片倉花南が慌てて席を立ってそばに来た。
「ちょっと、由真~」
「なあ~に、花南も一緒に勉強をしたいの?」
「もちろん! ……じゃなくて、それは」
花南が周りを気にしながら言葉を続けようとしたのに、被せるように私は言葉を続けた。
「でもねえ、先生から教室を使う許可って出るかどうか分かんないよね。あっ、下校時間って何時までだっけ」
「下校時間? どうだったかな?」
花南は首を傾げて考えだした。沢渡は私たちの会話を、口を開けてぽかんとした顔で聞いていた。が、下校時間の話でハッとした顔をして、口を開こうとした。が、そこに。
「へえ~、高槻さん。授業が終わった後に、沢渡の勉強を見てあげるの?」
「うん、そうなのよ。昨日も吉田君に数学のことを聞いていたでしょ。休み時間だけじゃ足りないようだから、放課後にちょっと一緒に勉強しようかってことになったの」
「でも、時間が短くない?」
「いや、教室が何時まで使えるかわからないし、家に帰るまでの時間を考えたら、妥当なんじゃないの。それに塾に行く時間を考えるならね」
そばに来た田中がうまい具合に話を繋げてくれた。周りで聞き耳を立てているクラスメイトも、頷いているから変なことを言ったことにはなっていないようだった。
「それなら、僕も加わってもいいかな」
「委員長も入ってくれるなら嬉しいな。私、理科で聞きたいところがあるのよね」
「それなら僕こそ、高槻さんに英語のことを教えてもらいたいな」
そう言い合うと、周りがそわそわとしだした。すかさず八木がそばに来て言った。
「私も! 参加していいんでしょ」
「もちろんよ」
「吉田君、数学のわからないところを教えてね」
八木はにこりと笑って彼のことを見上げるように見つめた。そこに他の女子たちも「私も!」「参加させて!」といいながら、彼の周りを囲んだ。
女子の勢いに押されるように、席を離れた沢渡と田中、花南、私。彼女たちから離れるように窓際へと寄った。路香まで嫌そうな顔をして、私のそばへと来た。
「詳しいことは体育の時間に吉田君から聞いてね」
沢渡と田中へと小声でそう言うと、私は路香と花南に合図して教室を出ていく。
「待ってよう~、由真~」
と言いながら、花南が小走りに追いかけてきた。私は花南と共にもう一つの校舎へと向かう渡り廊下のところへと行った。待つまでもなく、路香と共に、早乙女琴音と会田結花が、やってきたのだった。




