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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第2章 中学3年生9月編
33/43

32 翌日の放課後 沢渡の家で

 課題テストは無事に終わりました。


 ……って、いきなり話が飛んでしまいすみません。私、高槻(たかつき)由真(ゆま)はテストが終わって、固まった体をほぐすように軽く伸びをしています。


 昨日、沢渡(さわたり)のお願いにより、私たちは沢渡の家で勉強をしました。えーと、まず、比較的沢渡の家から近い、田中(たなか)が歩いて家まで戻り、永井(ながい)小梁(こはり)は自転車を借りて自宅に帰りました。


 片倉(かたくら)花南(かなん)が手配してくれた車で、私と彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)が一緒に移動をし、もう一台の車で花南と早乙女(さおとめ)琴音(ことね)会田(あいだ)結花(ゆか)が自宅に向かった。


 戻ってきて……勉強会は楽しかったです。意外にみんなの得意科目が被らなくて、それぞれのわからないことを教え合いました。


 沢渡は……とりあえず、課題で出されたところの中で、的を絞って覚えさせました。幸いにも、その部分がテストに出たので、少しは点数が取れているんじゃないかと思います。



 で、今の状態はいうと、沢渡の家にいます。結局昨日は、沢渡の勉強を見ることをどうするのか決めてなかったんだよね。


「みんな、ありがとう~。今までで一番手ごたえがあったよ」


 にこにこと笑いながら言う沢渡。それから昨日のように正座をすると表情を引きしめた。


「それで、昨日のお願いのことなんだけど……駄目かな?」


 恐る恐る訊いてきた。私たちはまた顔を見合わせた。みんなは微妙な表情をしている。私もだけど……。


 昨日はみんなと勉強をして教え合うのは楽しかった。なんといっても、沢渡の家は学校から近いから寄るには好都合なんだよね。


「えーと、私からでいい?」


 花南が右手を肩の辺りまで上げて訊いてきたから、私たちは頷いた。


「私ね、昨日は嬉しかったんだ。今までは由真と家が近かったから、テスト勉強は由真としていたんだけど、離れちゃったじゃない。夏休み前の期末テストは、別々にテスト勉強をしたのね。わからないところがあったけど、すぐに聞けなくてね。だから昨日は久しぶりに由真と勉強できたのが嬉しかったの。言い方は悪いかもしれないけど、沢渡の家に寄らせてもらえるなら由真とまた勉強ができるかなって思ったんだ。もちろん私でわかるところなら沢渡に教えるよ」


 花南の言葉に沢渡は嬉しそうに笑った。けど、すぐにまた表情を引き締めて他のみんなを窺うようにみた。


「俺は……塾がある日は来られないよ。塾に行く前に宿題を終わらせなきゃいけないしな。だから、それ以外なら寄ってもいいよ」


 永井がそう言うと、小梁も「me too~」と言った。


「そうだな、逆に塾に行く前の時間つぶしに寄らせてもらおうかな」


 田中の言葉にみんなは(クエスチョンマーク)を浮かべた顔をした。その顔を見て苦笑を浮かべた田中は、誰かが疑問を口に出す前に続けて言った。


「僕が行く塾は家と違う方向で、日によってはそのまま塾まで行くんだよ。家に帰るには時間が微妙でね、少し時間が足りないんだ。一度家まで帰って自転車で向かったことがあったけど、遅刻してしまったのさ。それからは木曜日だけ直接行くんだけど、それだと早すぎてね。どこかで時間を潰さなければならなくて。それを沢渡のところでさせてもらえるなら、助かるよ」


 と、さわやかな笑顔で言ったのだった。私は路香、琴音、結花と顔を見合わせた。琴音と結花は困ったように眉根を寄せている。彼の方をチラリと見たら、俯き気味に考え込んでいた。


「私はあんまり協力出来ないと思うけど、時間がある時に寄ってもいいかな」

「そうだね。私も琴に同じよ」


 琴音と結花は「週一くらいかな」と付け加えながら、頷き合っていた。その言葉に沢渡は嬉しそうにうんうんと頷いている。


「由真はどうするの」


 路香が聞いてきた。


「私は……ごめん。返事はもう少し保留でいい?」

「え~、どうして~」


 私の返答に花南が不満の声をあげた。私は言葉を探すように考えながら言った。


「えーと、うちは父と二人暮らしでしょ。家事は二人で分担しているのよ。父は……気にしないでいいといってくれたけど、私がね、嫌なの。それに……塾も9月から行っていいといってくれているのよ。……毎日行くわけではないのは分かっているんだけど、どうなるかわからなくて……。そういうわけだから、安易な返事は出来ないよ」


 私の言葉に、花南はぐっと呻くような声を出して黙った。花南はうちの事情を知っている。だから、言葉を飲み込んでくれたのだろう。


「僕も……高槻さんと同じで、保留させて欲しい」


 花南が黙ったことで、彼が口を開いた。みんなは怪訝な顔で彼のことを見つめた。


「僕の家も、母と二人暮らしなんだ。高槻さんと同じで僕も家事をやっている。母は学校が始まったから、夏休みみたいに家事をしなくていいと言ってくれたけど、僕も嫌なんだ。やれることはやりたいと思っているからね」


 彼の言葉に、みんなは納得したように頷いた。そしてみんなの視線は路香へと集まった。


「私は無理だね。学校まで最低30分はかかるし、これからは日が落ちるのが早くなるでしょ。同じ方向へ帰る由真は自転車通学になるから、一緒には帰れないでしょ。親に心配かけたくないもの」

「それなら、俺んちまで自転車で来たらどうよ」

「あんた、馬鹿―? いや、馬鹿だったわ。そんなことできるわけないでしょ」


 無責任発言をした沢渡は、路香に怒られたのでした。


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