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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第2章 中学3年生9月編
30/43

29 学校側もいろいろあるようで

 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)は先ほど思ったもう一つの疑問を聞くことにした。


「それでは望月(もちづき)先生、どうして前の家では自転車通学の許可が出なかったんですか」


 私の問いに望月先生はきょとんとした顔をした。


「何を言っているんだ、高槻。あちらは全然範囲外だぞ」

「えっ、でも学校まで来るのに、マンションからと時間が変わらなかったんですけど」

「そんなはずはないだろう。丘越えを差し引いても、5分以上早く着くはずだぞ」


 望月先生はそう言うと職員室の後ろの壁に貼ってある、学区の地図のところへと行った。私も近寄って見てみる。


「ここが学校で、高槻の家はここだろ。そしてマンションはここだ。どうだ。はっきり距離の違いが判るだろ」

「あー、本当ですね。それじゃあ、私の思い違いか勘違いですね」


 首を捻っていると他の先生の声が聞こえてきた。


「高槻、お前さん、確か片倉(かたくら)といつも一緒に来ていなかったか」

「そうです、榎本(えのもと)先生」

「それは待ち合わせをしていたのか」

「いいえ。通り道だったから、いつも私が花南(かなん)の家に寄っていました」


 そう答えて、私は思い違いをした理由がわかった。私の表情を見て、私が理解したことが解ったのか、榎本先生はニヤッと笑った。


「どうやらわかったようだな」

「ええっと、……はい。私の勘違いでした。すみませんでした」

「謝るほどのことではないだろう。というよりも、謝るのはこっちだな。この学校の教師として、生徒に通学で負担を掛けたんだからな」

「いえ、それは……まあ?」

「なんで疑問形になるんだよ。まあ、それは置いておいて、そういうわけだから、保護者に記入してもらって提出するように。それと、ヘルメット着用が義務だから、持っていないなら購入してもらうことになるんだが」


 確かにあと半年しか中学に来ないのに、ヘルメットの購入は少し……そう、少し理不尽……いや、残念だ。それでも決まりだというのなら仕方がない。


「あー、そうですね。私は部活で使うとかなかったので、持っていないです。父に話しておきます」

「吉田もわからないことがあれば、高槻に聞いてくれ」


(ちょっと、先生!) 


 と心の中で突っ込みを入れた私。口に出そうかと思った時に隣から先に抗議(?)の声があがった。


「望月先生、それはおかしいですよ。ちゃんと教師としての義務を果たしてください」

「おっ、おおっ」


 望月先生は彼に言われると思わなかったからか、たじろいで変な返事を返していた。


「おぅ~お、言われてるな~、望月先っ生~」


 少し離れた棚のところにいる榎本先生が、楽しそうに望月先生のことを揶揄うように言った。そして、何やら探していたものが見つかったようでコピー機のそばに行った。そしてそれを持って私たちのほうに来た。


「ほら、これ。ヘルメットの注文書だ。店の名前もあるからここに行ってもいいし、注文をして学校に持ってきてもらうでもいいぞ」

「学校で受け取ってもいいんですか」

「ああ、部ごとに注文して学校に持ってきてもらったりしていたからな。だけど、ヘルメットが来るまで、自転車通学は許可しないからな。……っと、その前に自転車を持って学校に来るように」

「どうしてですか?」

「一応規定があってな。確認しなきゃならんのだよ……っと、これこれ」


 また榎本先生は棚に戻って何かを探し出すと、それをコピーをして私たちへと渡してくれた。今度は自転車についての注意事項が書かれたものだった。……というか、普通はスポーツサイクルって乗らないよね。


「ヘルメットに自転車? 今から自転車通学なのかしら」

大久保(おおくぼ)先生。転校生と引越しで自転車通学となりまして」

「あらあら。もしかして忘れていたとか?」

「いや、そういうわけではなくて。というより範囲を解っていなかったのが……」


 新たに職員室に入ってきた大久保先生が、プリントを片手に話している私たちのそばに来て、話に加わってきた。他にも何人かの先生がそばに来て、自転車通学の範囲がどうのと話しだした。このままここに居ると、帰るのがどんどん遅くなりそうだと思い、私は彼のことを見た。丁度彼も先生たちから私へと目を向けてきたところで、アイコンタクトで頷き合った。


「先生、他になければ帰っていいですか」

「おっ、そうだった。もう帰っていいぞ」

「気をつけて帰れよ」


 望月先生と榎本先生に言われて、私たちは「失礼しました」と言って、職員室を後にしたのでした。


 靴箱のところに行くと委員長が待っていた。私たちは上履きから運動靴に履き替えて校舎を出た。


「先生の呼び出しって何だったんだい」

「自転車通学についてだった」

「自転車通学?」

「そうなんだよね~」


 委員長は驚いた顔をしている。


「えっ、いま?」

「そう、なんだよねえ」

「どうして?」

「う~ん、もう一度みんなにも説明しなきゃならないだろうから、沢渡の家についてからね」


 私がそう言うと委員長は「わかった」と言って、説明を後回しにすることを了承してくれた。


 沢渡の家は彼が言っていた通り、学校前の道を渡ってその一本裏の道を左へと歩いて行ったところにあった。学校前の信号をタイミング良く渡れれば、3分もかからないだろう。


 そういえば委員長はカバンを持っていなかった。ということは先に沢渡の家に行ってから、私たちの案内のために戻ってくれたのだろうか。

 それとも、カバンは先に行った誰かに持っていってもらったのだろうか?


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