3 マンションで 前編
私の投稿文字数の目安は2000文字です。
改稿により「マンションで」も長くなりましたので、前後編にしました。
こちらも2019/1/16に、前後編を投稿します。
(ふうー、今日も暑いなぁ~)
朝食を食べたあと、洗濯物をベランダで干しながら、私、高槻由真は昨夜のことを思いだしていた。
19時30分頃に、父が帰ってきた。
夕食を食べ終わりくつろいでいると、玄関のチャイムが鳴った。
たぶん20時を少し過ぎた時間だったと思う。
うちの家事は父との分担制だ。
時間的にも夕食は私が作ることが多い。
代わりに洗い物は父がする。
父が夕食を作った時には反対になる。
なので、このときも父は洗い物をしていたので、私は応対するために玄関へと行った。
ドアの外には知らない女の人と、昼間に知り合った彼がいた。
「はい」
「夜分遅くにすみません。私は305に引っ越してきた、吉田といいます。遅ればせながら引っ越しのご挨拶をとおもいまして」
「あー、ちょっと待ってください。お父さ~ん」
部屋の中に向かって声をかけると、すぐに返事が聞こえて来た。
多分、この会話は父にも聞こえていたのだろう。
父はすぐに出てきた。
「305に引っ越してきました、吉田です。どうぞよろしくお願いします」
吉田さんは頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします?」
あれ? 父の挨拶の語尾が疑問形になったような気がする。
横目に父のことを伺うと、驚愕に目を見開いていた。
「吉田、美良子さん?」
「えっ、まさか……」
名前を言い当てられたらしい女性も、驚いたように目を見開いていた。
「俺だよ、高槻広彰!」
「ええっ! 高槻君? 本当に高槻君なの」
「そうだよ。そうか、こっちに帰ってきたのか」
「ええ、……まあ……ね」
「立ち話もなんだから上がらないか」
「ええっと、……それじゃあ少しだけ」
玄関での立ち話ではなんだということで、家の中に吉田親子を招きいれた父。夕方に彼と向かい合って座ったリビングのテーブルに4人で座った。
でも、何でしょう、この展開。ついて行けないんですけど。
「えーと、改めて、こっちが娘の由真です」
「息子の……鷹広というのよ」
家に招き入れる時は少し強引な感じがした父は、向かい合って座ったら借りてきた猫のようにおとなしくなった。
吉田母も、もじもじと落ち着かない風に話している。
二人の様子を、私は一歩引いた気分で見つめていた。
(なんだこれは。どこのドラマの話よ。
現実にはあり得ないでしょう。
引っ越した先で元同級生に会うなんて)
父は少し浮かれているみたいだけど、吉田さん……美良子さんは、なんか気まずそうに見えた。
「娘は今、中3なんだ」
「そう……なのね。鷹広も中3なのよ」
「そうか。由真と同級生か。学校の手続きとか終わったかい」
「ええ。転入の手続きはすんだわ」
「そうか」
あきらかに挙動がおかしい吉田母。視線を合わせようとしないのに、父はそのことに気がつかないのか、嬉しそうに見つめていた。
(なーに、一人で納得してんのよ。
明日も仕事があるんだから、引き留めちゃ駄目でしょう。
仕方がない、一肌脱ぐか)
私は時計をわざとらしく見てから言った。
「ねえ、お父さん。明日も仕事でしょ。あまり引き留めたら悪いわ。旧交を温めたかったら、別の日に誘えばいいじゃない」
「ああっ、そうだったな。悪い。つい、懐かしくて」
「いえ。私も知っている人が近くにいると思うと、心強いから」
吉田母は口元に笑みを浮かべた。
「ああ、なんかあったら、頼ってくれ」
「そうね。その時にはお願いするわ」
「じゃあ、引き留めて悪かった」
「いいえ、これからよろしくお願いするわね」
そうして、二人は帰って行ったのでした。
「よし、これで終わり」
つい、声が出てしまった。
洗濯物を干し終わったので、次はお風呂の掃除。ついでに、1週間ぶりの洗面台の掃除もする。
とりあえず、今日する予定の家事は終わった。
一休みしようと麦茶をだし、コップに氷と共に入れる。
私が椅子に座るのを待っていたように、携帯が鳴った。
見ると友達の片倉花南からだった。
「はい」
『由真、おはよう』
「おはよう、花南。どうしたの」
『暇なら遊びに行かない?』
「えー」
『えー、じゃないし』
「だって、暑い。めんどい。外に行きたくない」
『そう言いながらも、図書館には行っているんでしょう』
「図書館は涼しいし、勉強できるし、うちの光熱費が助かるし」
『どこの主婦よ、それ』
花南がすかさずつっこんできた。
「何とでも言って。それにうちら、受験生だしね」
『もー、由真ってば真面目すぎ。一日ぐらい遊んだっていいじゃん』
「んー、ごめん。今日はやめておくよ」
『えー、行こうよ』
「なら、図書館に行こうか」
『うちからだと遠いし~』
「だから、またにしよ。ね」
『うー、仕方ないな。じゃあ、明後日に夏期講習があるじゃん。その時に決めようよ』
「はぁー。仕方がない。付き合ってやるか」
『いやいやならいいも~ん。付き合ってくれなくても』
「あっそ。なら、行~かな~い」
『あー、うそうそ。じゃあ、明後日ね』
「うん、じゃあね」
花南の遊ぼう口撃を避けることが出来て、私はホッと息を吐き出した。
別に遊びに行きたくないわけではないのだけど、花南も言っていたように家が離れているのだ。
自宅の時だったら、歩いても5分くらいで花南の家に行けたのに。