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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第2章 中学3年生9月編
29/43

28 新学期はいろいろで

 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)は、八木(やぎ)の言い掛かりに辟易しながらも、チラリと時計を見た。そろそろ先生が来る時間だ。


 八木に視線を戻すと、悔しそうに唇を噛んで下を向いていた


「八木、もういいでしょう。あんた、おたま様で由真に突っかかったんだって? それも由真の言い分を聞かないで。いい加減にしなよね」


 蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)がそう言うと、八木は何も言わずに席へと戻っていった。


「謝らなかったね」

「そうだね」


 心持ち声のトーンを落として早乙女(さおとめ)琴音(ことね)会田(あいだ)結花(ゆか)が言った。


「別に謝って欲しいとは思ってないよ」

「ゆまってば、やさしい~」

「そんなんじゃないって。ただ、もう絡んでこないでくれればいいな~、とね」

「それは無理ね」


 琴音が茶化すように言ったので、本心が口をついて出た。それを間髪入れずに路香に否定されて、苦笑が口元に浮かんだ。

 そこにチャイムの音が聞こえてきた。同時に望月(もちづき)先生も教室に入ってきた。席から離れていた人は慌てて自分の席へと戻っていった。


 ショートホームルームが終わり、体育館への移動。簡単な始業式(校長の挨拶と夏休み前に産休に入られた先生の代わりの人の紹介だけ)の後、学年別に分かれての訓示。

 いや訓示という言い方はおかしいか。私たち3年生は2学期になると本格的な受験モードへと移行することになるから、心構えと言ったほうがいいのかもしれない。それに諸々の注意事項を言われて教室へと戻った。


 教室では教科ごとに課題を集めて、明日の課題テストのことの説明を受けたら、本日はもう終わりだ。そういっても、なんやかやでもう11時30分になる。挨拶をして教室を出て行こうとした望月先生が振り返って声を張り上げた。


「高槻、吉田(よしだ)、このあと職員室に来てくれ」


 それだけ言うと望月先生はさっさと教室から出ていってしまった。


「何、由真、なんかしたの」

「した覚えはないんだけど……」


 路香の問いに困惑しながら隣の彼、吉田鷹広(たかひろ)のことを見たら、彼も困ったような顔をして私のことを見ていた。


「望月先生の用って、なんだろ。俺、高槻たちに話したいことがあったのに」


 沢渡が不満そうに言い出した。


「あら、由真に話したいことって、何かしら。まさか?」


 沢渡のことを揶揄(からか)う気満々の路香は、意味ありげに聞こえるように言葉を止めた。


「蕪木、今日はお前の遊びにつき合う気はないぜ」

「あら。珍しいわね」


 沢渡は不機嫌な声でそう言うと、近づいてきた委員長の田中(たなか)永井(ながい)小梁(こはり)、それから琴音と結花、片倉(かたくら)花南(かなん)へと、視線を向けた。


「この後時間をちょっともらえないか」

「構わないけど、ここでは言えないことかい」

「出来れば他のやつに聞かれたくない」


 真面目な顔で言った沢渡に委員長が聞いた。その返答に委員長は少し考えるようにした。


「それなら沢渡の家に寄ってもいいかい」

「ああ。というか、みんなに家に来て欲しいと言おうと思っていたんだ」


 沢渡の言葉に私たちは顔を見合わせた。こんな真剣な顔をする沢渡は珍しい。


「それならお邪魔させてもらおうかな」


 委員長はそう言うと永井と小梁へと目を向けた。二人も頷いた。


「ねえ、それって私たちもなの」

「出来れば!」


 沢渡の真剣な顔に私たち女子も顔を見合わせた。みんなの表情を確認した後「仕方がないから、行ってやるわよ」と路香が答えた。


 ……ということで、私と彼以外は先に沢渡の家に行くことになった。沢渡の家は学校を出て、目の前の道を渡って一本裏通りということだった。


「えっ? 僕も?」

「ああ、吉田もついでに!」

「って、私、沢渡の家なんて知らないわよ」

「それなら僕が待っているよ」

「委員長に案内させるなんて悪いよ」

「いいから、由真と吉田君はさっさと職員室に行きなさい。それで話を聞いたら速攻で沢渡ん家に来ること! いいわね」


 彼はついでと言われたことで複雑そうな顔をしていた。それでも最後は路香に押し切られる形となってしまった。



 というわけで、職員室です。


「失礼します」


 と声をかけて入ると、望月先生は自分のデスクのところではなく、後ろの長机の方にいて「こっちに」と手招きをした。そばに寄ると何やら紙を渡してきた。

 自転車通学許可申請書なる言葉を読んで、「これは?」と聞いた。


「読んだ通りだよ。高槻と吉田が住んでいるマンションは自転車通学の許可範囲なんだ」


 と、望月先生。その言葉に疑問が2つ沸いた。


「先生、それならなんで私が引っ越した時に言ってくれなかったんですか」

「あー、それなー」


 望月先生は苦笑いを浮かべて教えてくれた。


 私と彼が住んでいるマンションは学区としてはこちらの中学なのだけど、距離的に隣の中学も同じくらいにあるので、どちらにするか選べるのだそうだ。最近はこの近辺の子は隣の中学を選ぶ子が多かったそうで、3年前にこのマンションから通った男子以来いなかったという。

 たまたま彼のところに夏休みの課題を届けたことを、世間話的な流れで他の先生に話したのが昨日で、話を聞いた3年前の男子の担任をした笠間(かさま)先生が自転車通学のことを思い出したそうだ。


「先生~」


 思わずジトーとした目で見てやった。


「まあまあ高槻さん。私たちもわからなかったのよ。だから望月先生を責めないであげてね」


 曽根(そね)先生がおっとりと取り成すように言ったので、私も子供っぽく拗ねた真似をするのをやめたのだった。


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