27 新学期 教室で
私、高槻由真は蕪木路香の予言めいた言葉にげんなりしながら、隣人の吉田鷹広と3人で学校へと向かっていた。
学校に近づくにつれて生徒の姿が増えていく。少し私たちを見て何かを話している人たちがいたけど、夏期講習の時のようなことを言っているのだろう。
「おはよう、吉田―」
「おはよう、沢渡くん」
靴箱のところで沢渡と会った。
(……というか沢渡、お前はもう呼び捨てなのか)
そんなことを思ったけど沢渡が私たちに挨拶をしてきたので、私は余計なことを考えるのをやめた。
「高槻と蕪木もおはよう」
「おはよう、沢渡」
「おはよ」
4人で階段を上り後ろの扉から教室へと入った。
「由真―、おはよう~」
早速片倉花南が挨拶をしながら、そばへと寄ってきた。路香の予測と違ってニコニコと笑っている。
「みっちーと沢渡と吉田君も、おっはよ~」
「おう、はよ~」
「おはよう、片倉さん」
「おはよ。って、花南、機嫌がいいじゃない」
「そりゃそうよ。学校なら由真に会えるもの。それに、はい」
と、花南は手に持っていた袋を私へと差し出してきた。受け取りながら「これは?」と聞いてみる。
「見ればわかるよ~」
袋の口を緩めて中身を出してみる。見ろというくらいだから、学校に持ってきても大丈夫なものだろう。
「あっ、出来たんだ」
「そう。もちろん、私もお揃いだよ」
はしゃぐようにいう花南の手には、私とお揃いのティッシュケース。ポケットティッシュが入るやつ。……と見せかけて、本当は女の子の日のあれをいれるためのもの。一応ポケットティッシュもいれるけどね。カモフラージュのために。
これはこの間花南のところに行った時に、最近小物作りにハマったという花南のお母さんに頼んだものだ。……本当は頼まされたというほうが正しいのだけど……。他にもいろいろ作りたがったおばさんに、エプロンとトートバッグも頼んでいる。
で、一番小さいティッシュケースが最初に出来上がったのだろう。
これで機嫌が直る花南もお手軽でかわいいと思ってしまっちゃ、駄目なんだろうな。
そんなことをしていたら、早乙女琴音と会田結花、委員長の田中に永井と小梁もそばに来た。
みんなと挨拶を交わして、委員長が話題を振ってきた。
「片倉さん、花火の時はありがとう。帰りを送ってもらえて助かったよ」
「そうそう。俺も、ありがとう。父さんがお礼を言っとけって言ってた」
永井、そこはお礼だけで止めておこう。
「社員さんにありがとうって、伝えてください」
小梁も真面目な顔をして花南に言った。
「俺も~! 片倉の親父さんの車ってスゲーの。あんな高級車が家の前に停まったから、親父なんてびっくりして、サンダルを履き損ねて飛び出してきてさ~。ペコペコ頭下げてんの。面白かったわ~」
沢渡、それはお礼の言葉じゃないぞ。
「おははは~、いいよ~。気にしないで~。でも、伝えておくね」
ニコニコと花南が答えた。
「僕たちも助かりました。ありがとうって、篠原さんに伝えてください」
彼も花南にお礼を言った。
(いや、車を降りる時にちゃんとお礼を言っていたよね)
と心の中で言うにとどめて、私は何も言わずに花火大会の日のことをワイワイと話すみんなのことを見ていた。
花火大会の日は、終わった後、私たちは花南のお父さんや社員の方に送ってもらった。私と彼は私の父と彼の母と4人なので、篠原さんという人に送ってもらった。
ルート的に路香と沢渡が花南のお父さんに、他の5人も琴音と結花、田中と永井、小梁が同じ車で送ってもらっていた。
混みあう電車で帰らないですんで、とてもラッキーだった。
「何よそれ。あんたたちばっかりずるいじゃない」
案の定八木と鈴木が私たちの会話を聞きつけて、文句を言いだした。
「何がずるいのよ」
「なんで路香たちばっかり」
「そりゃあ、当たり前でしょ。私たちは親同士も親しくしているもの」
路香の返答に一瞬言葉に詰まる八木たち。子供の私たちの仲が良いことで、私たちの親も仲が良い。なので、花火大会も花南の父親の会社の屋上で見るということで、安心して送り出してくれたのだ。
「で、でも、男子まで一緒だなんて」
「あー、それね。実は参拝した時に押されちゃって、結花が足首を捻っちゃったのよ。歩くのもままならなくなって、ちょうどそばに居た委員長たちが、花南のお父さんとの待ち合わせ場所まで送ってくれたのね。そうしたら花南のお父さんが『どうせなら一緒に』と誘ってくれたというわけよ」
路香が説明した内容に変なところはないからか、悔しそうに唇を噛んだ八木。
最初から花南のお父さんの会社を目指していたことは内緒だけど、結花が足を捻ったことは本当だ。
あの時、参道に入って直ぐの屋台の人だかりで押された結花が、軽く足を捻ってしまったそうだ。
それで、結花たちは参拝するのは諦めて、すぐに会社のほうへと行くことにしたんだって。
ゆっくり歩いていたから、会社に着くまでに路香たちが追いついて一緒になったそうだ。
私と彼がなかなか来なくて心配したそうだけど、大丈夫だろうと思っていたとか。
「で、でも……そうよ! 吉田君と由真は親と合流すると言ってたわ。なのに、なんで花南たちと一緒にいたのよ」
ギッと私のことを睨みながら八木は言った。
「なんでって……父も花南のお父さんに誘われていたからだけど」
「そうしたら、同級生の親だからって、僕の母も一緒にどうぞと言ってもらえたのだけどね」
私と彼は屋上で親と顔を合わせた時のことを思い出しながら、答えたのだった。




