24 花火大会で その7(遭遇)
「あれ~、吉田君。ここに居たんだ~」
突然そばで聞こえた声に、視線をそちらへと向けた私こと高槻由真と彼、吉田鷹広は、その人物たちを見て瞬間固まった。と思う。
「ひどいよ~。なんで先に行っちゃうの。集合場所に行ったら、居ないんだもの」
「少しくらい遅れたからって、先に行くなんてずるいよね」
八木と鈴木は、そう言いながら彼の両腕に纏わりつくように腕を掛けた。
彼は一瞬眉を寄せると「手を離してくれないか」と言った。それから。
「別に先に僕らが来たのは酷くないだろ。集合時間と場所は伝えていたし、強制ではないことと、電車が混むだろうことも言っていたよね。早く移動した方がいいことがわかっているのに、なんで遅れた人を待っていないといけないのかな」
と、言った。八木たちは頬を少し膨らませて上目づかいにして彼のことを見上げた。
「遅れたって言っても、少しなのよ。それに私たちが行くことは分かっていたんだから、待っていてくれたっていいでしょう」
「それってさ、君たちが集団行動を出来ないって言っているようなものでしょう」
「ちょっと、それってひどくない」
「そうよ。そこまで言うことないじゃない。……というかさ、吉田君は何で一人なの。あっ、みんなからはぐれちゃったのね。それなら私たちと一緒に行動しようよ。ねっ。沢渡たちを一緒に探してあげるからさ」
……うん。なんとなく気がついていたけど、私のことはガン無視ですか。……まさか、見えていないわけじゃないよね。
彼も呆れたように八木たちのことを見た。それから腕を彼女たちから引き抜くと一歩離れた。
「誰が一人だって? 僕の横に高槻さんがいるのが見えないんだ」
「えっ? 由真?」
「はっ?」
八木たちの目が彼の斜め後ろにいる私へと向いた。……というか、本当に気がついてなかったのね。
「ええー! 由真なの」
「うそー。どこの高校生かと思ったわ」
そう言って驚いた二人は、すぐに目を吊り上げて私に詰め寄ってきた。
「ちょっと、由真。どういうことよ。なんで吉田君と二人でいるわけ」
「そうよ。抜け駆けにもほどがあるわよ」
「別に抜け駆けしたわけではなくて……」
「これが抜け駆けじゃなくてなんなのよ。というかさ、吉田君の意思を無視して連れまわすなんてどうかと思うわ」
「そうよ。由真は家も近くなんだから、こういう時くらいみんなに譲りなさいよ。彼が他の人と仲良くできないでしょ」
言い訳……もとい、私の言い分を聞く気がない二人は、私がしゃべるのを邪魔してきた。勝手な言い分に開いた口が塞がらなくなる。なんでこんなふうに考えることが出来るのだろう。
「いい加減にしてくれないかな」
つい、明後日の方向に考えていたら、彼の低い声が聞こえてきた。底冷えするような冷たさを含んだ声に、私を責めていた二人も言葉を止めた。
「勝手な憶測で決めつけないでくれないか。僕と高槻さんはこのあと親と合流することが決まったんだよ。だから沢渡君たちと別れて時間潰しで屋台をゆっくり見ていたのさ。君たちは僕たちの都合を聞こうとしないで、勝手なことばかり言うね。他の人の都合を考えられない人たちと一緒に居たいと、僕は思わないよ。行こう、高槻さん」
彼は八木たちを睨みつけると、私へと手を差し出した。私は一瞬ためらったけど「うん」と言って、その手を取った。そして二人を置いて歩き出した。
神社を出て、尾久川のほうへと歩いて行く。もちろん人の流れはそちらへと向かっているので、なんとなく流されるままに歩いていた。
「ええっと、その、なんか、ごめん」
「いや、吉田君は悪くないって。……というか、まさか会うとは思わなかったから」
「それは……僕も思ったよ。というか、あそこで会ったってことは、待ち合わせ時間にちょっとどころじゃなく遅れたってことだよね」
「うん。私もそう思う。……それとも、少し遅れてきて、みんなが居ないかと探していた……なんてないよね」
「さあ、それはないんじゃないかな。だってさ、彼女たちって自分本位でしょ。そんな人が他の人を探すだなんてしないと思うよ。まして自分たちが遅れてきたってわかっているならね」
「そうかな?」
まあ、このことは悩んでも仕方がない。路香たちと合流したら、相談するしかないか。
楽しい気分が半減したまま、私たちは花火を見る予定の花南のお父さんの会社へと着いた。
「えーと、もしかしてこのビルの上から見るの?」
「そうよ。このビルより高い建物は尾久川までの間にないから、よく見えるのよ」
案内係の社員の方に連れられて屋上まで上がると、路香たちはもう来ていた。彼女たちは私たちを待つことなく、料理を堪能しているようだ。
「遅かったわね」と言われたので、彼とのいざこざは話さないで、八木たちに会ったことをみんなに話した。
「災難だったわね。でも、とりあえずそのことは忘れて、花火を楽しみましょう」
「でも、親と合流だなんて言っちゃったんだよ。どこからかバレたりしたら、また絡まれるじゃない。めんどくさいことは嫌だよ~」
私が泣き言を言えば、路香はすました顔で「大丈夫よ」と言った。そして人差し指をある方向へと向けた。
「お父さん?」
「母さんも……」
目を向けた私たちは茫然と呟いた。私たちの視線に気がついた父と、吉田母が近寄ってきた。
「片倉さんに誘われてね、今年は参加することが出来たよ」
「私までよかったのかしら」
「同級生の親なのだから、どうぞと言ってもらっただろう」
「ええ、そうなのだけど」
仲良く話す親たちの様子に、言葉を失くして見つめる私と彼。
「まあ、とにかく合流は果たしたんだから、嘘ではないわよね」
にんまりと路香は笑ったのだった。




