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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
23/43

23 花火大会で その6(仲直り)

 私、高槻(たかつき)由真(ゆま)は彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)へと苦笑を向けた。


「私の今日の髪形ね、琴音(ことね)がやってくれたの。いつもは他のみんなを先にやって、私が一番最後なのよ。なんかさ、それをみんなは申し訳なく思ってくれていたみたいで、今日は私が最初だったの。それで、気負ってしまったみたいで、駅のところまで肩に力が入っていたみたいなの」


 そう私が言えば彼は「ああ~」と納得したような声をあげた。そう、身構えた分、八木(やぎ)さんたちが来ていなかったことで、力が抜けてしまったようだ。


「でも、手を握られるのを嫌がっていたよね」

「えっと……嫌だったわけじゃないのよ。その……先に行ったクラスメイトの誰かに見られて、からかわれるのが嫌……というか、恥ずかしかったの」


 言葉を探しながら話していて、口から滑り出た言葉に、私自身もやっとわかった。彼が手を繋いできたのは、彼が言ったようにはぐれないようにというためだ。だけど、他の人から見れば、そうは捉えられないかもしれない。

 先週に学校に行った時だって、勝手な憶測から噂が流れたし……。


 そうか。私はそれが嫌だったんだ。


 もやもやしていたものの正体がわかってすっきりとした私は、すぐに彼に失礼な態度をしていたことに気がついて狼狽えた。


「あの、吉田君。私のほうこそごめんなさい。吉田君が厚意でしてくれたことを否定するようなことをして」

「あっ? ああ……」


 謝ったことに不明瞭な変な返しに戸惑って彼のことを見たら、額に手を当てて目を瞑って何か考え込んでいる彼の姿が見えた。


 その様子にもっと戸惑っていると、彼は目を開けて私のことを見てきた。


「うん、えっと、気にしないで、高槻さん。これは僕が悪かったんだから」

「ううん、吉田君は悪くないよ」

「違うよ。やっぱり僕が悪いよ。いくら人混みで離れないようにするためとはいえ、声を掛けずに手を繋いだりしたからさ。それに先週のことを考えれば、噂になりたくない高槻さんの気持ちもわかるもの。あの視線は……ちょっとね」


 彼は苦笑いを浮かべた。それから何かに気がついたように辺りを見回した。


「思ったよりも時間が経っちゃったようだね」


 私も周りを見回して気がついた。先ほどより、木々の陰影が濃くなっている気がする。


「本当だわ。急いでお参りしに行こう」


 私と彼は混み合っている参道には戻らずにそのまま木々の間を抜けて、南からの参道のほうから参拝をすることにした。其方はメインではないから先ほど歩いた参道よりは()いていた。


 上手くメイン側の人波に紛れることができ、参拝も無事に終わらせた。本道である参道を戻るように歩きながら、一応辺りを見回してみる。

 やはり路香(みちか)たちはいないようだ。


「うーーーー」

「どうしたの、高槻さん」


 思わずうなり声を上げたら、彼が訊いてきた。


「ごめん、吉田君。完全にみんなとはぐれたよ」

「ああ、それね。……いや、謝るのは僕だって。あそこで参道を外れたりしなければ、みんなとはぐれることにはならなかったんだから」

「いや、でも」


 言いかけた私はハタッと気がついた。このままでは、謝り大会になってしまうだろうことに。


「うん。仕方がなかったのよ」

「仕方がなかった?」

「そうよ。あそこで言い合いをするわけにはいかなかったじゃない。それよりも、みっちーの言う通りになったよね」

「はっ、いっ? 蕪木(かぶらぎ)さんの言う通りって?」

「何かあった時のペアだって言ってたじゃない。それにはぐれたといっても、合流する場所は決まっているんだもの。迷子ってわけじゃないんだからさ。それならお祭りを楽しもうよ」


 そう言って彼のことを見たら、彼は目を丸くしていた。けどすぐに目元を和らげて訊いてきた。


「いいの? 誰かに見られるかもしれないよ」

「もういいわよ。というか、先週のあれで私が吉田君と一緒に居ること自体は、おかしいことではないと認識されているでしょ」


 そう答えたけど、彼からすぐに言葉は帰ってこなかった。


「あんなに嫌がったのに」


 ぼそりと小さな声で言われて、思わず目を吊り上げて彼のことを睨んだ。


「それとこれとは別でしょ! 手を繋がなければいいのよ」

「あっ、そっちか」


 意味不明な呟きに再度彼のことを睨もうとしたら、彼越しにたこ焼きの看板が見えた。というか、焼いている店主は……。


「今回はここなんだ」

「えっ、何が?」

「たこ焼き屋のこと。そこの。いつも買っているところなの」

「へえ~、美味しいんだ」

「それは……他と比べてないからわからないけど」

「買うの」

「うん、買いたい」


 人の隙間を縫って屋台に寄って、一パック買った。


「買ったはいいけど、どうする?」

「また、外れて食べようか」

「他にも何か買わないかい。これだけじゃ足りないだろ」

「あっ、それなんだけど、このあと行くところで用意してあるから、余計なものは買わない方がいいよ」

「用意してあるって?」

「えーと、とにかく行けばわかるから」


 私はそう言って誤魔化すように笑った。これは路香に言われていることで、花火を見る場所のことは男子には何も話すなと言われたのだ。路香は中1の時に行って驚いたから、それを他の人にも味あわせたいと言っていた。


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