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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
22/43

22 花火大会で その5(小さな仲違い)

 彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)と並んで歩きながら、私、高槻(たかつき)由真(ゆま)は言った。


「だってそうでしょう。大丈夫だって言っているのに、手を離してくれないじゃない」

「はぐれる心配があるからだって言ったよね。それを強引だって言うんだ」

「強引でしょう。最初に話した時だって……」


 手を離してくれないまま参道を進む彼に、少しイラつき気味に言って、帰ってきた言葉に尚更イラついて、言わなくていいことまで言いかけた。

 しまったと思った時には、彼は立ち止まって私のことを見てきた。


 が、立ち止まったことで、前から来た人に邪魔だと彼は押されてしまった。


「すみません」


 と、彼は謝ると素早く周りを見回して、屋台の隙間を見つけて「こっち」と私を連れていった。


 人混みから解消されたけど、人がいないわけではなかった。木々の合間に人がいるのが見えるから。

 彼は他の人たちから距離を取ったところに私を連れてくると、くるりと振り返って私と向き合った。


「ねえ、さっきの言葉はどういうことかな。もしかして最初に声を掛けた時に、本当は嫌だったけど、カードを拾ってもらった恩義で話をしてくれたということかい」

「そんなことは言ってないでしょう」

「じゃあ、クラス委員の責任感で嫌々つき合ってくれていたんだ」

「だから、そんなことは言ってないでしょう。勝手に変な裏読みしないでよ!」

「裏読み? させるようなことを言ったのは、高槻さんだろ。本当は僕じゃなくて、沢渡君か田中君と一緒がよかったんじゃないのかい。だから彼らと離れたことにイラついているんだろ」

「違うわよ。そんなことは思ってないわよ!」


 彼と言い合っていることに、私は泣きたくなってきた。


 なんでこんなことになっているのだろう。


 片倉(かたくら)花南(かなん)の我が儘につき合う態を装ったけど、本当は私も花火大会を楽しみにしていた。


 夏休みが終わったら受験モード一色になるだろう。私は塾に行っていないけど、お父さんも「行くか」と聞いてきている。自分一人の勉強で、本当に志望校に受かることが出来るのか自信がない。


 だから、その前に息抜き……というより、英気を養っておこうと思っていた。


 これまでは花南たちと女子だけで(プラス親もだけど)来ていたから、実はクラスのみんなと一緒なのを楽しみにしていた……だとか。


 そんな気持ちがぐちゃっとなって、涙が滲んできた。口から力を失ったか細い声が漏れてでた。


「私だって……わかんないよ。みんなと一緒に花火を……お祭りを楽しもうと思っていたんだよ。なのに……なんでイラついているのかわからないし、それでもまだ手は握られてるし」


 私がそう言ったら、彼はハッとしてから、パッと手を離した。

 だけど、手を離されたことが、今度は寂しく思う。


 本当になんなのだろう。なんでこんな気持ちになるんだろう。


「高槻さん」


 彼に呼びかけられて、いつの間にか下を向いていた目線を上げた。それと共にポロリと目元から一粒落ちていくものがあった。


「うっ」


 呻いた彼は、それから慌てたように胸のポケットを叩いてからズボンのポケットへと手を突っ込んだ。手を出して取り出したハンカチを私に渡してきた。


「あっ、自分のを使うから」


 手に提げていた巾着(みんなと色違いでお揃い)から取り出そうとしたら、彼は私の手にハンカチを押しつけてきた。


「いいから、使って」


 ここで返すのも悪いと思って、言葉に甘えて涙を拭かせてもらう。


 ……いや、これ、逆効果だわ。


 彼のハンカチを目に当てたら、逆に涙が溢れてきて止まらなくなった。泣き止もうと目に力を入れるけど、全然泣き止むことが出来なかった。


 彼も困ったようにそばで立ちつくしていた。


 時間にして……十何分くらいしてから、私はやっと泣くのを止めることが出来た。


「ごめん。かなりハンカチを濡らしちゃった。洗って返すね」


 そう言ったのに、彼にハンカチを取り上げられて、ポケットの中にしまわれてしまった。


「いいよ。……というか、ハンカチがないとこの後困ると思うから」


 そう言われて、確かにと思った。トイレに行った時にハンカチが無いのは困るだろう。


「それよりも、ごめん。高槻さんを泣かせるつもりはなかったんだ。言い方が悪くて、ごめん」

「ううん。私こそ泣いちゃってごめんね。吉田君が悪いんじゃないんだよ。……その、なんか、色々ぐちゃっとなって、気がついたら泣いていたというか」


 目線を逸らしながら、そう言ったら、彼は項垂れてしまった。


「でも、泣きたくなるくらいに追い詰めたんだよね」

「だから、違うから。さっきも言ったけどお祭りを楽しむつもりでいたのよ。なのに……駅からここまで、吉田君は何も話してくれないし……」


 そう、ペアだと言われてここまで来るまでに、会話らしい会話はなかった。さっきの激混みを抜けたところでのあれが最初だ。


「えっと、ごめん」


 彼は再度項垂れた。


「その、高槻さんがいつも以上に可愛くて、何を話していいのかわからなくなってしまったんだ。何か話すきっかけをつかもうと高槻さんを見てみれば、前を歩く田中君や沢渡君を見ていたから。……その、僕より彼らと一緒のほうが良かったのかと思ってしまって。……ごめん」

「ううん。私こそ、ごめん。えっと、言い訳じゃないけど、その、ちょっと疲れちゃったみたいで、ペアが吉田君で安心しちゃって」

「疲れたって?」


 と、彼は不思議そうに訊いてきた。


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