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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
20/43

20 花火大会で その3(満員電車)

 クラスのみんなに告げた集合時間の17時。集まったのはクラスの半分くらいだった。もちろんごねていた八木(やぎ)さんと鈴木(すずき)さんも……って、居ない?


 私こと、高槻(たかつき)由真(ゆま)は集まった人たちを見回した。やはり八木さんたちは来ていなかった。私が首を(かし)げていると委員長の田中(たなか)が耳打ちしてきた。


「八木さんたちはまだ来ていないみたいだね。どうする」

「う~ん。どうしようか。一応強制ではないと言っておいたしね」


 私と田中が困惑気味に相談していると、蕪木(かぶらぎ)路香(みちか)が話に加わってきた。


「来ないんなら仕方ないんじゃない。強制ではないと言っておいたんだし。それよりも電車を一本逃すと、もっと混むわよ。一応臨時で出るみたいだけど、早めに移動するに限るでしょう」

「そうだな。あの時高槻さんは強制ではないことと、電車が混むだろうことも言ったんだ。待ち合わせに来る来ないは、彼女たちの自由だよ。ということで、みんな。これから移動をするけど、僕らは中学生らしく節度を持った行動をしよう」


 真面目に田中がそう言うと、みんなは頷いて移動を開始した。切符を先に買っていた人はそのまま改札を抜けてホームへ。切符を買っていない人は切符を買いに並んだ。

 私たちは先に路香と沢渡(さわたり)が人数分の切符を買ってくれていたので、そのまま改札を抜けた。


「あー、わざわざ切符を買わないで済むようになりたいなー」

「ということは、沢渡は市内の高校に行かないつもりなのか」

「そうじゃないけど。でもピッてやるだけなら楽じゃん」

「そうでもないようだぞ。姉貴が言ってたけど、たまに残額の確認を忘れて、通れないことがあるんだってさ。そういう時は急いでいる時が多くて、チャージするのが手間だって言ってたぞ」


 沢渡の電車用電子マネーが欲しい発言に、永井(ながい)は進学先のことを、小梁(こはり)はお姉さんが実際に使った時のことを話している。

 その様子をなんとなく見ていたら彼、吉田(よしだ)鷹広たかひろの声がすぐそばでした。


「沢渡君のことが気になるの?」

「違うよ。高校のことを言っていたから見ていたのよ」

「高校、か。資料を見てみたけど、よくわからなかったよ」

「そうでしょうね。9月になったら学校公開をしているから、見に行くといいかな」

「高槻さんはもう行ったの」

「私は一校だけ。本当はもう二校行くつもりだったけど、お葬式に行ったことで行けなくなっちゃって」

「それは大変だったね」


 彼とそんなことを話していたら、電車が来た。私はあまり電車に乗ることはないけど、いつもより混んでいると思う。降りる人を待って、電車に乗り込んだ。


「きゃっ」


 反対側のドアのほうへ寄ったら、急に背中を押されて小さく声が出た。扉に押さえつけられているようだった。でも、すぐに圧迫感は和らいだ。


「大丈夫、高槻さん」

「うん。押されて驚いただけ」


 向きを変えようとしたけど、再度体に圧力がかかった。


「ごめん。苦しくない」


 そう声がして顔の向きを変えようとしたら、腕が顔の横に見えた。咄嗟に左右を確認すると両方に腕が見えた。それと共に圧迫感がすこし和らいだ。

 何とか顔だけ後ろを向き、すぐそばに彼の顔が見えて、どきりと心臓が音を立てた。


「あの、よ」


 彼に話しかけようとしたら電車が動きだし、揺れてまた少し圧力がかかった。


「くっ」


 小さなうめき声が聞こえた。どうやら彼は私が潰れないようにしてくれているようだ。後ろを振り向けない私の耳に、彼の息が掛かる。カーブに差し掛かりまた、彼が小さく呻いた。


 私は身動きできないままじっと扉に体を寄せていた。


 電車が減速するのを感じたと思ったら、彼の腕から少し力が抜けたのがわかった。出口は反対側なので、気の早い人はそちらに寄ったのか、圧迫感が薄れたのだろう。


 扉が開き、人々が降りていく。ほっと息を吐きながら後ろを向くと彼と目が合った。


「行こうか、高槻さん」


 手を差し出されたので、私は自然と彼と手を繋いだのだった。


 ◇


 ホームに降りても、やはり人混みがすごくて一緒に同じ車両に乗ったはずの路香たちが見えない。流されるままに改札のほうに向かったのだろう。

 私と彼は反対側の扉のところに立っていたので、電車から降りたのは最後のほうだった。彼に手を引かれるように、ホームを階段のほうへと歩いて行く。


「あの、ありがとう」


 階段を下りる時に並んだので、彼にお礼の言葉を伝えた。


「たいしたことはしてないよ」

「でも、あの混雑から庇ってくれて……嬉しかったから」

「庇ってって、それは男ならすることだろう。それよりも僕のほうこそ防ぎきれなくて、何度も高槻さんを潰しそうになってごめんね」


 言い淀んで、付け加えるように言った言葉は小声になり、彼には聞こえなかったようだ。『それよりも』と続けて言われた言葉に目が丸くなる。先ほどの電車の混雑は想定内だし、一緒に居たから彼に迷惑をかけたわけで……。


 あれ? 迷惑をかけたんだよね?


「あっ、いたいた。吉田~、高槻~、こっち~」


 改札を出たら、少し離れた所から伸びあがっている沢渡から声を掛けられた。やはり私と彼が、最後になったみたいだ。沢渡のところに行くと、みんなはもう少し離れたところにいると、私たちを連れて行ってくれたのでした。


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