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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
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2 図書館で 後編

 少しきょとんと彼のことを見ていたけど、唐突に笑いの衝動が込み上げてきた。


「プッ……くくっ、ふっ……あははははははー」


 堪えきれずにおもいっきり噴き出した。


(おもわず吹き出して大笑いをしてしまったよー)


 必死な顔で言い募る彼がおかしくて、自分の勘違いと相まってしばらく笑いが止まらなかった。

 やばい、涙まででてきた。


「くっ、くっ……ご、ごめん。えー、事情はわかったから」


 何とか笑いをおさめて目尻の涙を払いながら、言葉を絞り出す。

 手元に視線を向け、さっき買った紅茶を開けて飲み、気持ちを落ち着ける。

 それから、ニッと笑ってから私は言った。


「じゃあ、あらためて、私は高槻(たかつき)由真(ゆま)です。中学3年だよ」

「あ、ごめん。自己紹介していなかったね。僕は吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)。君と同じ中3だよ」


 彼はそう言って図書館カードを見せてくれた。


 このあと、彼は引っ越してきた事情を話してくれた。彼は両親の離婚により母の生まれ故郷に近いこの町にやってきたそうだ。兄弟はいなくて、母と二人暮らし。母の実家の祖父母は健在で戻って来いと言われたけど、伯父の一家もいるから甘えられないとマンションで暮らすことにしたそう。マンションといっても、築30年のエレベーターのない5階建て。家賃もそこそこらしい。


 私も自分の事情を簡単に話した。父と二人暮らしで、実はこの辺はあまり詳しくないことを言った。家を建て替えることになり、手頃なところが家の近くに見つからなかったので、もともとの家から学校を挟んでほぼ同じくらいの距離にある、この図書館に近いマンションに住んでいることを、図書館を出て街を案内しながら話をした。


 彼とは家の方向がほぼ同じだったので、他より野菜が新鮮で値段もちょっと安いスーパーに寄り、一緒に買い物をした。

 お互いに食事は自分たちが作ることが多いと知った。

 スーパーのところで別れようと思ったけど、まだ、帰る方向は一緒だった。

 マンションに着いて、やはり同じか、偶然だね、と言いながら階段を上がる。

 3階に着いて右と左に分かれて、お互い階段の隣の部屋の鍵を開けた。

 そこでおもわず見つめ合ってしまった。


「そこ、ここに来たときは、空いていたのに」

「引っ越しの挨拶に行ったときいなかった部屋」


 お互いの言葉に二人して笑い出した。

 とりあえず、食材を片付けるためにお互いの部屋へと入っていった。


 閉め切っていた部屋はとても暑くなっていた。

 エアコンをつけて台所の換気扇を回す。扇風機も使って部屋の温度を下げる。

 食材を片付け終わったら、チャイムが鳴った。

 出てみると彼だった。引っ越しの挨拶用なのか、タオルを持っていた。


「隣の305に引っ越して来た、吉田と言います。これからよろしくお願いします」


 彼は真面目な顔で挨拶をして、タオルを差し出して来た。

 私はプッと吹き出してしまった。


「高槻です。ご挨拶をありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 取り繕って挨拶を返してから、笑顔になって彼に言った。


「良ければ寄る?」

「じゃあ、少しだけ」


 私は麦茶を用意して彼の前に置いた。

 彼は部屋の中を見回していた。


「どうしたの」

「荷物が少ないなとおもって」

「ああ、どうせまた引っ越すでしょう。使わない物や、今必要ない物はトランクルームに預けてあるの」

「そうなんだ」

「そう」


 彼と目が合った。というか、見つめ合ってしまった。

 何で、目をそらさないのよ。


「それで、なんで居なかったの?」

「お父さんの出張に付いていったの」

「は?」

「と、いうのは冗談で、遠方の親戚に不幸があって居なかったのよ」

「なんだ」

「そういうこと」

「ここに来たのはどれくらい」

「う~ん、6月の終わりかな? 本当は夏休みに入ってからの予定だったけど、住めなくなっちゃったから」

「何かあったの」

「うん。家にトラックが突っ込んだの」

「えっ、何それ。大変じゃないか。怪我はなかったの」

「うん。学校に行ってる間だったから。でも、びっくりしたよ。3時間目だったかな。先生が教室に駆け込んできて家が大変だっていわれたの。慌てて帰ったら家が半壊してて。あ然呆然ってかんじでね」

「まあ、そうだろうね」

「幸いだったのは突っ込まれたところが、あまり使ってない部屋で大した物はおいていなかったことかな」

「へえ~」

「でも、予定が早まったせいで住むところがここになるし、荷物の運び出しには困るし、学校に行かなきゃならないしで片付けるのが大変だったのよね」

「それは、ご愁傷さま? だね」

「でしょう」


 苦笑いを浮かべていると、彼は壁の時計に目をやった。


「そろそろいくよ。また、いろいろ教えてもらうかもしれないけど、これからよろしく」


 そう言って、彼は右手を差し出してきた。私も右手を出し軽く握る。おもっていたより強く握り返された。


「こちらこそ」

「麦茶ごちそうさま。じゃあ、またね」


 さわやかな笑顔を残して彼が帰ると、私はグラスを洗い、夕食の支度を始めた。

 そして自然と口元が緩んでくるのを、何度か引き締めながら私は機嫌よく料理をした。


(ふふふっ、やったね。

 名前をゲットだけじゃなくて、いっぱい話をしちゃった。

 それに、何たる偶然。同い年だって。

 引っ越してきたって言ってたし、学校はうちのところよね。

 もしかしたら、一緒のクラスになれるかな。

 吉田鷹広君。

 今どきのキラキラネームじゃないのもいいなー。

 よーし、同じ受験生だし、一緒に勉強して、同じ高校に。

 って、まだ気が早いか。

 でも、もっと仲良くなって告白して「かれかの」になれたら、いいなー。

 ふふふっ、よーし、がんばるぞー。

 おー!)


 この時の私は、初恋に舞い上がり、明るい未来が待っていると思ったのでした。


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