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図書館で出会って  作者: 山之上 舞花
第1章 出会い編
16/43

16 喫茶店の家で その3

 彼、吉田(よしだ)鷹広(たかひろ)の言葉に、私、高槻(たかつき)由真(ゆま)を含めたみんなの動きが止まった。

 彼の自己評価の低さは知っていたけど、ここまでだとは思わなかった。


「ええっとさ、吉田。もの好きって、なんでそう思うんだ」


 沢渡(さわたり)は呆けたような声を出した。彼は沢渡に不思議そうな顔を向けた。


「さっきも言ったけど、彼女たちは転校生が珍しいだけだよ。あと、さっきは普通って言ったけど、容姿で劣る僕に話しかけたのは、もの好き以外のなにものでもないだろう」


 路香(みちか)を含めてみんなして彼に向けて指を指して、私のほうを見てきたけど……。


「というかさ、人に指を向けるのはマナー違反でしょ」

「あっ、すまん」

「ごめん」


 私の言葉に呆けた顔をやめてから、みんなは口々に彼に謝った。


「それで吉田、お前のどこが容姿で劣るって?」

「高槻さんにも話したけど、今まで女子には手を繋ぐことでさえ嫌がられていたんだよ。目が合えば視線を逸らされたりもしたし。見るのも嫌って態度をされれば、嫌われているってわかるよ」


 ……うん。さすがに彼に指を向けるのをやめたけど、私に向けるみんなの視線の意味は分かるから。


 田中が何か思案したあと、口を開いた。


「吉田君、どうやら君と僕たちとでは認識に差があるようだね。それはまた今度話すことにしよう。それよりも聞きたいことって何かな」

「あっ、そうだね。えーと、一つ目は……花火大会ってどこでやるのかな。皆の話だと、電車で移動するみたいだよね」


 彼の疑問にみんなして「あっ!」と、いう形に口を開いた状態で固まった。そういえば彼を花火大会に誘ったものの、詳しいことは話していない事に、今更ながらに気がついた。沢渡がバツの悪そうな顔をして、彼のことを見た。


「悪い、吉田。肝心なことを言ってなかったな。花火大会って言うのは、尾久川(おくがわ)で開かれるんだ。会場へは電車で一駅な。そこから川原まで屋台が出ているんだよ。ついでに途中にある『おたま様』で、参拝するのが一般的な楽しみ方だな」

「おたま様?」


 彼が不思議そうに呟いた。沢渡は「うぐっ」と変な声を出した。どうやら言葉に詰まってしまったようだ。


「おたま様というのは稲荷神社のことだよ。この神社には『おたま狐』というお狐様の話が伝えられていて、親しみを込めて『おたま様』と呼んでいるんだ」

「へえ~、稲荷神社なんだ」


 田中がすかさずフォローしていた。彼は感心したように言った。それから、何故か私に視線を向けてきた。つられたようにみんなの視線も私に集まった。


「何かな」


 視線に耐え切れずに訊いてみた。だけど彼は口を開こうとしなかった。


「吉田君、次に聞きたいことは何かな」


 また田中が、彼が言いやすいように、フォローしている。さすが委員長なだけはあると思った。


「えーと……」


 と、まだためらう彼。そんなに言いにくいことなのだろうか?


「聞くなら今のうちかもよ」

「どうして」


 軽い感じに言ったら、すぐに言葉が返ってきた。


「今なら何も知らないということで、答えてあ・げ・る! で、新学期からは答えて、あ・げ・な・い・よ!」


 私は人差し指を立てて、節を取るような言い方をした。彼は少し目を丸くして私を見たけど、すぐに笑みを口元に浮かべた。


「そんなことはしないでしょ、高槻さんは」

「そうそう。口ではなんやかや言いながらも、面倒見いいもんな~」


 沢渡がフォローするかのように口を挟んできた。他のみんなも頷いているけど、そんなことないのにと、心の中で思っておく。だから、少し顔をしかめてから私は口を開いた。


「で、私に聞きたいんでしょ。何?」

「う~ん、二つほどあるんだけど……」

「だから、どうぞ」

「えーと、まずは、学校で言っていた噂って、何?」

「あー、それね。一昨日学校に来たのを、部活に来ていた後輩に見られたじゃない。それで、噂になったのよ」


 そう答えたら、彼は眉を寄せて私を見てきた。それから、はあ~と息を吐き出している。


「ごめん」

「えっと、何が?」

「僕みたいのと噂になってしまって」

「いや、待って。意味がわかんないんだけど?」

「高槻さんの隣に僕みたいのがいたんじゃ、良くないね」

「いや、違うでしょ」

「違わないよ。つり合いが取れないって噂になったんでしょ。高槻さんの面倒見の良さにつけこんだって」

「だから、そんなんじゃないってば」

「だって迷惑だろう」

「迷惑なんかじゃないわよ」

「それじゃあさ、僕のそばにいてくれる?」

「いるに決まってんじゃない!」


 売り言葉に買い言葉じゃないけど、彼の言葉に叫ぶように答えてから、ハッとなった。

 今の会話って、取りようによってはあれな会話じゃない?


 そんなことを思って、みんなの顔を恐る恐る見ていった。案の定、口を開けてぽかんと私達のことを見ていた。

 路香が気持ちを立て直したのか、口を開くのが見えた。


「そ……」

「あー、よかった。初めての異性の友達に、変な噂のせいで嫌われてしまったんじゃなくて」


 彼が心の底から安堵したという風に声を出した。


『はっ?』


 みんなして声を揃えるようにだしたけど、私達は悪くないよね?


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