15 喫茶店の家で その2
食べ終わった食器を台所に運んで、私、高槻由真と、彼、吉田鷹広で洗った。蕪木路香は他の男子たちに指示をして、洗い終わった食器を拭いて片付けていった。
食器を片付け終わり、路香が用意してくれた飲み物を持って、みんなでリビングに移動した。
「さてと、それで、なんで私達を追いかけてきたのかしら」
路香が男子に聞いた。
「わかってんだろ、蕪木」
沢渡が笑顔を私達に向けて言った。
「あのね、言われないとわからないこともあるのよ」
「へえ~、蕪木が」
「あんたは私をなんだと思っているのよ。まあ、いいわ。私じゃなくて由真に聞きたいんでしょ。それと吉田君に忠告かしら」
路香の答えに沢渡は田中たちと顔を見合わせた。
「やっぱ、蕪木はわかってんじゃん。そういうわけで高槻、なんで学校であんなことを言ったのか、教えてくれよ」
沢渡が私のほうを見てきた。私は肩をすくめてから答えた。
「仕方ないでしょ。八木さんも鈴木さんも納得しそうになかったじゃない。とりあえず少しの間一緒に行動すれば、納得するんじゃないかと思って」
「どうだか。あいつらがそれで納得するわけないだろう。ここぞとばかりに吉田に猛アピールするに決まってんだろ」
沢渡が咬みつくように言ってきた。気持ちは分からなくもないけど、咬みつく相手を間違えないでほしいと思う。
「それは、大丈夫だと思うけど」
「そうだね。大丈夫じゃないかな」
私が大丈夫な根拠を説明しようと思ったら、彼が口を挟んできた。
「転校生が珍しいだけなんだと思うよ」
彼の言葉にみんなは目を丸くして、見つめていた。
(……そうだった。吉田君は自己評価が低いんだった。そこを考えに入れるのを忘れてた)
「えーと、吉田? お前って、実は女子のあしらいがうまいのか?」
「女子のあしらい? えーと、僕みたいな普通なやつに、構おうって女子は少ないと思うけど?」
彼の返事に、今度は私のほうにみんなの視線が向いた。
いや、待って。そんな目をされても私も知らないから。
「吉田君、前の学校でモテたんじゃないの」
「またそれ? 高槻さんにも聞かれたけど、どちらかというと僕は女子に敬遠されていたんだよ」
もう一度、私に視線が集まったけど、目線で聞かないでと思う。
そこ。彼に向けて指を指すようにしないで。
「えーと、なんか……牽制し合った結果、距離を取られていたみたい」
私の言葉に腕を組んで考え出すみんな。
「ところで由真は、なんで大丈夫だと思ったの」
「それはさ、集まるために指定した時間よ。あの時間って一番人が動くじゃない。花火が始まる前に、屋台で買って食事を済ませたいでしょ。あと、花火を見るのにいい場所を取りたい人も多いでしょ。電車で一駅、移動もしなければならないわけなんだから、電車に乗る時も混んでいると思うのよ。皆で同じ車両は無理でしょ」
路香が訊いてくれたので理由を説明した。
「な~るほど。さすが高槻さんだ」
「あとね、彼女たちも浴衣を着てくると思うのよ。下駄なんて履きなれてないだろうから、人混みで引き離すことが出来るんじゃないかと思うのよね」
私の更なる説明にみんなが頷いている。
「でもさ、あいつらがそんなに簡単に引き下がると思えないけどね」
小梁が一学期のことを思いだしながら言った。
「そうなんだよな。だから蕪木たちのグループと俺たちと一緒に行動しないか」
沢渡がにこやかな笑顔で言った。対して路香ははっきりと顔をしかめて答えた。
「嫌よ。なんで私が八木除けになんなきゃならないのよ」
「現に八木は蕪木のことを苦手じゃんか」
「だから、嫌だって言っているでしょう」
「それでも、吉田のために頼む」
「だから、どうして今日会ったばかりのやつのために、しなきゃならないのよ」
「クラスメートじゃん。いいだろう」
「やーよ!」
路香がいい返事をしないので、沢渡は私のほうを向いて言った。
「高槻、お願いします」
「え~、それなら学校で言ってよ」
「あの場で言えるわけないだろ。それこそ、自分たちも一緒にと、再び言うに決まってんじゃん」
「でも、みっちーが嫌がっている時点で無理だよ」
ムウッとした顔で黙る沢渡。次に永井が私に言ってきた。
「高槻さんは吉田君と同じマンションにいるんだろ。それなら吉田君と一緒にいたっておかしくないじゃないか。このあたりに不慣れな彼を案内してやるってことなら、一緒にいたっていいと思うけど」
「え~、やだよ~。それじゃあ八木さんに私が睨まれるじゃない。勘弁してよ」
つい本音が漏れた。永井の顔に苦笑が浮かんでいた。
そうしたら彼が口を挟んできた。
「えーと、あのさ、少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「あー、そうだった。ごめん、吉田。説明もなしに、今の会話じゃわかんないよな」
沢渡が手を合わせて謝った。
「いや、なんとなくだけど、わかる様な気はするよ」
彼は真顔で答えた。
「学校で僕に話しかけてきた女子、えーと八木さん? 彼女はトラブルメーカーなんだろう。あと、すっごいもの好きだよね」




