14 喫茶店の家で その1
カラン
喫茶店のドアを開けると扉につけてあるドアベルが鳴った。私、高槻由真はこのドアベルの音が密かにお気に入りだったりする。
「ただいま」
「こら、路香。お店のほうから帰ってこないでと、いつも言っているでしょう」
蕪木路香の言葉におばさんが文句を言ったけど、続けて私たちが入ってきたので目を丸くした。だけどすぐに笑顔に変わり、私達に声を掛けてきた。
「あら~、いらっしゃい。由真ちゃん、久しぶりね」
「お久しぶりです。えー、本当はいけないんですけど、お腹がすいたのに耐えられなくて、寄らせていただきました」
「まあ、光栄だわ~。後ろの君たちも、いらっしゃい。路香、みんなはお店で食べるのかしら」
「この後のお客さんは?」
「そうねえ、今日はアイコウ印刷さんが14時から使いたいって言っていたわね」
「それならうちのほうで食べるわ。みんな何を食べたいか決めたら、移動するよ」
路香がテキパキとみんなにメニューを渡した。二人ずつメニューをのぞき込んでいる。私も彼、吉田鷹広と一緒にメニューを見た。
「高槻さんは、何がお薦めかな」
「私はグラタン系が好きでよく頼むけど、夏は暑いでしょ。だから、パスタやサンドイッチにすることが多いかな」
「そうかー。って、えっ。冷たいパスタ?」
「あっ、それね、おいしいよ。トマトのやつとクリームのやつがあるの。これは限定20食ずつだから、まだあるかな」
メニューから顔をあげたら、ちょうど厨房から顔を出したおじさんと目が合った。声が聞こえたのか、右手を三本、左手を四本見せてきた。
「あっ、まだあるんだって」
「それじゃあ、僕は冷たいトマトのパスタをお願いします」
彼はメニューから顔をあげて言った。
「俺も! 同じものを」
「俺は冷たいクリームのやつがいいな」
「ミーツ―」
永井は彼と同じもの、小梁と沢渡は冷たいクリームのほうに決めたようだ。
「委員長はどうするの?」
「僕はカツサンドがいいな」
「わかったわ。それで由真は?」
「私は和風のツナおろしがいいな」
「じゃあ、私も由真と同じものにするわ」
路香がそう言ったら、おばさんは注文を書きつけてから路香に言った。
「それじゃあ路香、案内をしたら手伝いに来なさいね」
「わかったわ」
路香に案内をされて、一度お店を出てから隣の自宅の方へ行った。路香は私達をリビングに案内すると、すぐに着替えに出て行ってしまった。
私は鞄を邪魔にならないところに置くと、リビングを出て行こうとした。
「高槻さん、どこに行くの」
「運ぶのを手伝ってこようと思って」
私は何度か路香の家に来たことがあるから、勝手知ったるで、お店側の扉に向かおうとした。
「それなら俺たちも手伝うって」
田中が所在無げに立っていたけど、私が動いた後をついてこようとした。
「待っててくれていいのに」
そう言ったけど、はじめて来たうちで落ち着かない気持ちはわかるから、後をついてくるままにした。
お店とのドアを開けて、おばさんに声をかける。
「おばさん、スプーンやフォークはお店からにしますか」
「由真ちゃん、そうねえ。それじゃあ、お水とスプーンとフォークは家のものを使ってくれるかしら」
「わかりました」
そう言って引っ込もうとしたら「待って、由真ちゃん」と言われた。おばさんはおしぼりを取り出すと、私に渡してきた。
それを受け取り、後ろにいた田中に渡そうとして、苦笑が浮かんだ。
他のみんなも一緒にきていて、田中の後ろに並んでいた。
「これを持っていってね」
私は沢渡におしぼりを渡した。そこに着替えが済んだ路香が姿を見せた。
「みっちー、おばさんが水とスプーンとフォークは、家のものを使ってだって」
「わかった。それじゃあ由真に、それの用意を頼んでいい?」
「いいけど、勝手に引き出しとか開けていいの?」
「由真なら知っているじゃない」
路香の言葉通り、私は何度か泊まりにもきているから、台所のことは分かっている。と思う。
台所に入り引き出しからスプーンとフォークを7つ出した。それからコップを出した。
「高槻、詳しいな」
「何度か泊まりに来ているからね」
永井が感心したように言いながらそばに来た。私が洗ったスプーンとフォークとコップを、布巾で拭いてくれた。スプーンとフォークは小梁がリビングに持っていった。
拭いたコップに田中が氷を入れて、彼が水を入れていった。それを私と永井がリビングに運んだ。
沢渡と小梁はお店とのドアに行って、サラダを運んでいた。そうこうしているうちに、まずは冷たいパスタが出来上がり、次にカツサンド、最後に和風ツナおろしパスタが出来上がった。
「それじゃあ、食べましょうか。いただきます」
『いただきます』
路香の言葉にみんなも唱和して、一斉に食べだした。
途中で、フライドポテトをおばさんが持ってきてくれた。
「これはおまけよ。それだけでは足りないでしょう」
『ありがとうございます』
うれしそうに男子たちはお礼を言った。私もお礼を言ったけど、少し微妙な気分だ。というか、私の見間違いでなければ、男子たちのパスタは増量されていると思うのだけど。
この後、自分の分を食べ終えた私は、中学生男子の食欲に目を丸くしたのだった。




